初級翻訳・骸骨島の大冒険 第6話

山本 周五郎

間一髪、龍介の片手が振り下ろされました。
ずずずずずん、という響きとともに、駆逐艦二隻の四門の機関砲が、敵の先手を取って一斉射撃を開始しました。
敵もさるものです。島影を盾にして、たちまち四、五台の機関銃を持ち出し、豆を炒るような音を立てながら必死に応戦し始めました。
その時、低空飛行をしていた一機の飛行艇から信号がありました。
「敵は島の背後から太平洋に向かって、潜水艦に乗って逃げ出そうとしている」
「しまった!」龍介はそう叫ぶと、すぐに信号を返しました。
「ただちに着水せよ!」
飛行艇第百号はすぐに駆逐艦のそばに着水しました。そこには、あの拳骨壮太が乗り組んでいました。
「やあ、坊っちゃん、早くしてください。あれは確かにC・C・D潜水艦ですよ!」
「よし。では艦長、骸骨島の攻撃はお任せします。もしかすると島には僕の父や妹がいるかもしれません」龍介は艦長にそう頼むと、ひらりと飛行艇に飛び移り、空へと突進していきました。
「全員、総攻撃だ!」艦長がそう叫んで信号手を走らせました。さらに二門ずつ、計六門の機関砲が火蓋を切りました。その砲火は、雨のように骸骨島へと降り注ぎました。

海底の乱闘

一方、飛行艇は低空飛行をしながら南へと飛びました。
「そら、あそこに見えていますよ」
飛行将校が指さした海面を見下ろすと、なるほど、紺碧の海の下に、黒い鯨のようなものが、南へ南へと恐ろしい速さで進んでいます。
「そうだ、こんな速さの出る潜水艦は、春田式C・C・D号以外にはない。しかし、どうやってあれを止めたらいいだろう」
さすがの龍介も頭を抱えて考え込みました。
「爆弾を投下しましょう」
「でも、もし潜水艦に当たったら?」
「なあに、大丈夫です。当たらないようにやりますから!」
将校はそう言うと、自信たっぷりに飛行艇をぐんぐん下げ、突進する潜水艦の鼻先でくるりと旋回しながら爆弾を投下しました。
爆弾は水中深く沈んでいき、爆発しました。
「そら!」将校が叫びました。「やつらが進路を変えましたよ!」
なるほど、鼻先に爆弾を食らった潜水艦は、ぐらぐらと大きく身を揺らしながら、急角度で左へ舵を切りました。
すると飛行艇は待ってましたとばかりに、その鼻先へもう一弾。潜水艦はますます慌てて右へ曲がりますが、その鼻先へまた一弾。
こうして五回繰り返したところで、ついにかなわないと思ったのか、潜水艦は泡を吹きながら海面へ浮かび上がってきました。
それを待っていた飛行艇が旋回しながら傍へ着水しました。
「壮太! 来い!」龍介が叫びます。
「がってんだ!」
右手に拳銃を握り、龍介と壮太はひらりと潜水艦に飛び移りました。鉄板をこじ開けて、二人がハッチを猿のように滑り降りると、下ではメトラス博士とチャアリイが待ち構えていました。
「来たな小僧!」メトラスが喚きました。
「もう駄目だメトラス、チャアリイも覚悟しろ。今度こそは逃がさんぞ!」
「貴様こそ叩っ殺してやる!」
言いざま、混血児のチャアリイが隠し持った拳銃を取り出すやいなや、パッ! パッ! と二発、続けて撃ちました。
「あっ! 畜生!」叫んだ龍介は、そこへばったりと倒れました。
それを見た壮太は「野郎!」と呻りながら、鼠のようにメトラス博士へ飛びかかりました。
「どうだ小僧、混血児のチャアリイ様の腕に恐れ入ったか」
そう言いながら、倒れている龍介の横腹を蹴ろうとしたその刹那、跳ね起きた龍介が拳を握りしめ、力任せに下からチャアリイの顎を突き上げました。龍介は撃たれてなどいなかったのです。
「うーん!」と呻いてよろめく奴に、龍介が飛びかかりました。倒れる間も与えず、続けて拳骨で突き倒しました。
「ひどいなア、坊っちゃん!」向こうで壮太が声をかけました。「それじゃ拳骨壮太のお株を横取りするようなもんですぜ」
こうして混血児チャアリイとメトラス博士の二人は、濡れ雑巾のように打ちのめされてしまいました。

事件解決

骸骨島の一味は、その時すでに駆逐艦に捕らえられていました。もちろん、文子と春田博士も無事に救い出されていました。
そこへC・C・D潜水艦を取り戻し、メトラスとチャアリイを捕らえて龍介と壮太が帰ってきたので、一同は歓呼の声を上げ、横須賀へ帰る途につきました。
皆がちょうど三崎を回ろうとした時、地軸も砕けるかと思うような大音響がしたので振り返ってみると、骸骨島のあった場所はもうもうたる水煙に覆われていました。
「骸骨島は三百貫の火薬で粉砕された。もうあの恐ろしい海狼はなくなったのだ!」龍介は駆逐艦の上から、感慨深い調子でそう言いました。
皆も同じく、涙ぐましい気持ちで消えやらぬ水煙を見つめていました。
「さて、どうして僕が骸骨島の居場所を知ったかということですね!」と数日後、海軍の将官たちや大学の科学者たちが開いた祝宴の席で、龍介は語りました。
「僕が飛行艇で墜落した時、海狼に巻き込まれて、一時間に三十里以上も遠くへ押し流されました。そこでこの地図の赤い線を調べてみると、丁度それが海狼の流れる道筋に当たっているのです」「きっと悪党どもは、海狼(かいろう)の潮流を利用して海中に『骸骨島』と呼ばれる人工島を築き、そこに秘密の仕掛けをして隠れているに違いない、そう直感したのです。
やつらは、C・C・D潜水艦の試運転の際、この海狼の猛烈な水流と、骸骨島に仕掛けた機械の力を組み合わせて、潜水艦を島まで引き寄せて隠してしまったというわけです。
それから、メトラス博士というのは、あのヤンセン牧師と同じく、某国から送り込まれてきた軍事スパイでした。常に要塞地帯の写真などを盗み撮りさせていたのですが、それらの証拠もすべて今回押収しました」
「さて、ここで僕の親友を皆様にご紹介させていただきます」そう言って龍介は、そばにいた壮太を立ち上がらせました。「彼は、僕のためにいつも命がけで尽くしてくれる親友、拳骨(げんこつ)壮太君です。今回の事件でも、第一の功労者ですよ」
拳骨壮太は顔を上げると、ぴょこんと不器用なお辞儀をしながら、どもりながら言いました。
「えー、えーっと、私の親分は春田龍介さんで、私は拳骨壮太でやす。矢でも鉄砲でも恐れやしません、えへん!」
こうして、めでたく骸骨島の大冒険は幕を閉じたのである。

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