そして、なにか事件がおこると、「ありの町」の事務所へ電話をかけて、少年探偵団の手伝いをさせることになっているのです。
「じゃあ、それに決めましょう。もちろん、あたしも行くのよ。小林さんがいないときには、あたしが少年探偵団の指揮官なんだもの。あたし、男の服を着ていくわ。そして、危険なことはまっさきにあたしがやるのよ。みんな、とめるんじゃないのよ。あたし、冒険がしたくって腕がむずむずしているんだから……。」
マユミさんは、青年のような元気な口調で言うのでした。
すぐに「ありの町」へ電話をかけて、チンピラ隊のうち手のあいている子どもを呼びよせました。
そして、日が暮れるのを待って、マユミさんと井上君とノロちゃんと、チンピラ隊の三人とあわせて六人が、それぞれ汚い服を着て変装すると、自動車で神山進一君の家のそばまでいきました。
それから、ばらばらに分かれて、神山家の塀(へい)のまわりの物かげに身をかくし、なにかあやしいことが起こるのを待ちかまえるのでした。
どろぼう人形
神山進一君は、みんなより一足さきに家へ帰りました。
進一君は家の中で、あのあやしい人形を見はっている役目です。
夜になって、なにかあやしいことが起こったら、二階の窓から、万年筆型の懐中電灯を、パッ、パッ、パッ、と三度ずつ、つけたり消したりすることを続けて、外の少年たちに知らせる約束でした。
この万年筆型の懐中電灯は、「探偵七つ道具」の一つなのです。
夜になり、夕ごはんがすみ、勉強の時間がすみ、ベッドにはいるころになっても、べつに何事もおこりません。
進一君は昼間の服を着たままベッドにはいりましたが、外で見はりをしている仲間のことを考えると、眠れるものではありません。
「もう九時すぎだから、井上君とノロちゃんは家に帰ったかもしれない。だが、マユミさんとチンピラ隊はまだ残っているだろう。まっ暗やみの中で、なにか起こるのをじっと待っているだろう。」
そう思うと、なんだかみんなに申し訳ないような気がするのでした。
それから三十分もたったころです。
進一君は、なぜか胸がどきどきしてきました。
家じゅうの人がみんな寝てしまって、シーンと静まりかえっています。
その静かな中を、あの美しいユリ子人形がこっそり歩いているのではないかと思うと、もうじっとしていられなくなりました。
進一君はベッドを出て、そっとドアをあけ、廊下へ出ました。
電灯が消してあるのでまっ暗です。
足音をたてないように壁づたいに歩いて、人形部屋のほうへ向かいました。
進一君はハッとして立ちどまりました。
かすかにものが動く気配が感じられたからです。
そこは、廊下がTの字になっていました。
壁に体をくっつけるようにして見ていますと、むこうの廊下がほのかに明るくなったような気がします。
薄暗い中にもはっきり見える、ゆうぜん模様の着物がひらひらとしました。
ユリ子人形です。
おばけ人形は、白い四角なふろしきづつみのようなものを胸にだきしめて、むこうの廊下をスーッと通りすぎていきました。
こんどこそ、夢ではありません。
ユリ子人形はやっぱり生きていたのです。
しかし、あの白いふろしきづつみは、いったい何でしょう?
「あっ、そうだ! あの大きさ、あの四角い形、あれは、『炎の宝冠』の皮箱にちがいない。やっぱりそうだった。あいつは宝冠を盗むために、この家へはいりこんできたのだ!」
進一君は、とっさにそこに気がつきました。
そして、あいてに気づかれないように、あとをつけました。ユリ子人形は、廊下のつきあたりまでいくと、そこの階段をのぼりました。
階段の上は庭に面した廊下で、いくつもガラス窓がならんでいます。
おばけ人形は、そのまん中ほどまでいくと、そっとガラス窓を開きました。
「あっ、窓から庭へとびおりるつもりかしら? それなら、なにも二階へあがらなくても、下の廊下の窓を開けばいいのに……。」
進一君は、ふしぎに思って、ずっとこちらの窓のそばで、ようすをうかがっていました。
すると、人形は、胸にだいていた白いふろしきづつみを、両手で頭の上にさしあげました。
「おやっ、いったいなにをするんだろう?」
と思うまもなく、白いふろしきづつみは、まっ暗な庭へ、パッとほうりだされたではありませんか。
白いものが、スーッと曲線をえがいて、下の地面へ落ちていくのが見えました。
「あっ! わかった。庭のやみの中に、だれかが待ちうけているのだ。そして、ふろしきづつみを受けとって、逃げだすつもりなんだ!」
進一君は、それと気づくと、そこの空部屋のドアを、そっと開いてすべりこみ、おもてがわに面した窓に近づいて、音のしないようにそれを開くと、万年筆がたの懐中電灯をと取り出して、パッ、パッ、パッと三度ずつ、つけたり消したりすることを、なんどもつづけるのでした。
× × ×
そのとき、へいの外のまっ暗な道に、ヘッドライトを消した一台の自動車がとまっていました。
まっ黒な服をきた男が、白いふろしきづつみをかかえて、へいをのりこえ、そこへ、走ってきたかと思うと、開いていたうしろのドアから、自動車の中にとびこみました。
すると自動車は、音もなく動きだし、どことも知れず遠ざかっていくのでした。
そのとき、自動車のうしろで、みょうなことが起こっているのを、怪人物は、すこしも気づかなかったようです。
男がへいをのりこして走ってくるまでは、自動車のうしろの荷物を入れるトランクのふたが、三センチほど開いていました。
それが、男の足音をきくと、ちょうど敵におそわれた貝が、貝がらの口をとじるように、ピッタリしまったではありませんか。
どうやら、トランクの中に人間がかくれているらしいのです。
それはチンピラ隊のひとりではないでしょうか。
それとも、もしかしたら、男姿のマユミさんがトランクの中に身をひそめて、怪人物のすみかをたしかめようとしているのではないでしょうか。
ユリ子人形の秘密
進一君は、懐中電灯のあいずをしておいてから、すばやくかけ出しました。
ユリ子人形がサナエちゃんの人形部屋へもどらないうちに、さきまわりをして、待ちかまえているつもりなのです。
進一君は、こんやは、はじめからその計画でした。
いままで、ユリ子人形を追っかけたときは、人形よりもあとから、人形部屋へはいったのです。
すると、そこにいるのはいつも、たたけばこちこちと音のする、ほんとうの人形でした。
ですから進一君は、生きて動く人形が、こちこちの人形とかわるところを、見てやりたいと思いました。
それには、人形よりさきまわりをして、人形部屋の中に、かくれていなければならないのです。
進一君は、いまこそ、さきまわりをするときだと思いました。
ユリ子人形は、あの四角いふろしきづつみをなげてから、そのまま窓のところに立って、じっとまっ暗な庭を見おろしていました。
下にいる男が、うまくつつみを受けとって逃げだすのを、たしかめようとしているのです。
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