大トカゲは、マユミさんのまわりをぐるぐる回りはじめました。
えものを見つけたうれしさに、おどりまわっているようなかっこうです。
しかし、本当はそうではないことが、あとでわかりました。
大トカゲもまた、なにかにおびえて逃げてきたのです。
「ねえさん、用心するがいいよ。
いまにジャングルの王さまがやってくるからね。
おれはあいつがこわいのだよ。
まっぷたつにひきさかれてしまうからね。
ねえさん、おれのみかたになって、助けておくれよ。」
大トカゲはマユミさんのまわりを回りながら、子どものようなキーキー声で、そんなことを言いました。
このジャングルでは、木がものを言ったり、トカゲがものを言ったりします。
西洋悪魔が魔法の力で作ったジャングルですから、なにからなにまでふしぎなことばかりです。
マユミさんは、大トカゲが案外弱虫なので少し安心しましたが、ジャングルの王さまとはいったい何者でしょう。
どんな恐ろしいやつがあらわれるのかと、こんどはそれが心配になってきました。
「そらっ、きたきた。
ジャングルの王さまがやってきた。
ねえさん、用心するがいいぜ。」
大トカゲがまたキーキー声で言いました。
すると、むこうの木のしげみがガサガサと動き、そこから人間の倍もある大きな手がヌーッとあらわれたのです。
茶色の毛におおわれていて、手のひらはまっ黒でした。
やがてもう一本の手があらわれ、両手で木の葉をかきわけながら、恐ろしい顔をのぞかせました。
顔も茶色の毛でおおわれており、その中でギロリとした目が光っています。
ひらべったい鼻に、黄色い歯をむきだした、耳までさけた大きな口。
ああ、ゴリラです。
このジャングルには、ゴリラがすんでいたのです。
巨大なゴリラは全身をあらわし、太くて短い足でよたよたこちらへ近づいてきます。
そのものすごいかっこうを見ると、マユミさんはもうがまんできません。
「キャーッ!」
と悲鳴をあげて逃げだそうとしました。
そのとき、ゴリラの口から「グルルルル……」という恐ろしい声がひびき、パッとこちらへ飛びかかってきたではありませんか。
マユミさんはいまにもつかみ殺されるのかと、思わず地面に身をふせましたが、ゴリラが飛びかかったのはマユミさんではなく、大トカゲでした。
「キューン! 助けてくれえ……。」
大トカゲのキーキー声がひびきわたりました。
ゴリラは大トカゲにとびつくと、いきなり毛むくじゃらの両手を上あごと下あごにかけ、「グルルル……」とうなって大トカゲの首を持ちあげたのです。
次の瞬間、じつに恐ろしいことがおこりました。
ゴリラは大トカゲの口を両手でグーッと開いたかと思うと、そのままメリメリとしっぽのほうまで、まっぷたつにひきさいてしまったのです。
ところがふしぎなことに、大トカゲはひきさかれても血が出ません。
そして腹の中には、はらわたのかわりに、大きいのや小さいのや、たくさんの歯車がウジャウジャとはいっていたのです。
まっぷたつにひきさかれると、その歯車がジャラジャラと音をたてて地面にこぼれ落ちたではありませんか。
この大トカゲも生きてはなくて、歯車のしかけで動く作りものだったのです。
西洋悪魔は人形だけでなく、動物まで作り出すふしぎな腕を持っていました。
大トカゲがキーキー声でしゃべったのも、きっとテープレコーダーのしかけだったのでしょう。
ゴリラは大トカゲの腹の中から歯車がこぼれ落ちるのを見ると、いきなり両手でそれをかきまわしました。すると、歯車のあいだから、レコードのテープのようなものが、クシャクシャにもつれて飛び出してきました。
ゴリラは、大トカゲの抜け殻をめちゃめちゃに踏みつぶすと、今度はその場でぼんやりと突っ立っていたマユミさんの方へと、恐ろしい顔を向けました。
ゴリラと大ワシ
マユミさんは、もう生きた心地もありません。
今にも飛びかかってきて、さっきの大トカゲのように真っ二つに引き裂かれるのかと思うと、今にも気絶してしまいそうでした。
ゴリラは黄色い歯をむき出しにして、ニヤニヤと笑いました。
いや、本当に笑っているわけではないのでしょうが、そうとしか見えなかったのです。
そして、あの毛むくじゃらの両手をニューッと伸ばして、マユミさんをつかまえようとしました。
そのときです。
ピューッと、向こうの真っ黒な空から、猛烈な風が吹きつけてきました。
立ち並ぶ大きな木の枝やツルが、まるで魔女の髪の毛のように、一方向へと激しくなびきました。
サーッという音が聞こえました。
何やらものすごく大きなものが、空から降ってきたのです。
あまりに巨大だったので最初は何か分かりませんでしたが、それは一羽の巨大なワシでした。
片方だけで二メートルもありそうな大きな羽を広げ、風を切りながら舞い降りてきたのです。
ゴリラはマユミさんから目を離し、ハッとしたように空を見上げました。
大ワシの方も、人間のマユミさんなどには目もくれず、まっしぐらにゴリラめがけて突っかかっていきました。
こうして、ジャングルの王さまと空の王さまによる、すさまじい戦いが始まったのです。
大ワシは、その大きくて鋭いクチバシで、ゴリラのノドをめがけて飛びかかります。
ゴリラは「ウオーッ!」とうなって、両手で大ワシの首をつかもうとします。
しかし、大ワシにも二本のたくましい足がありました。
その指の鋭い爪が、ゴリラの肩や胸に深く食い込むのです。
ワシが大きな羽をバタバタとばたつかせると、まるで飛行機のプロペラのような強烈な風が起こり、マユミさんは吹き飛ばされそうになりました。
あたりの木の枝も激しく揺れ、小さな草などは根元から折れて、ホコリのように飛び散っていきます。
あっ! ゴリラが倒れました。
大ワシは巨大な羽でゴリラを包み込むようにしながら、クチバシで相手のノドを攻め立てています。
ゴリラはやられてしまったのでしょうか?
とんでもない、ジャングルの王さまはそんな弱虫ではありません。
「ガアアッ、ウオオッ……!」
という、恐ろしいうなり声が辺りに響き渡りました。
そして、太くて毛むくじゃらの二本の腕で、大ワシの首をぐいぐいと自分の胸に強く締めつけています。
そのたびに、大ワシのクチバシがゴリラのノドに食い込むのですが、ゴリラはそんなことにはびくともしません。
ゴリラの首は、分厚い毛皮に松ヤニを塗り、さらにそこへ砂を塗り固めてあるため、鉄のようにカチカチだったのです。
さすがの大ワシも、この硬いノドを突き破ることはできません。
「グルルルン、ゲゲゲゲゲ……。」
奇妙な音が響きました。
大ワシが首を絞められて、悲鳴を上げたのです。
大ワシはもう相手を攻撃する力もなく、苦しま紛れに大きな羽をパタパタとはばたくばかりです。
その羽ばたきも、だんだん弱々しくなっていきました。
くるっと反転し、今度はゴリラが上に覆いかぶさりました。
そして、その巨大で重い体で大ワシを下敷きにし、押しつぶそうとしています。
両手は相手の首を押さえたまま、少しも緩めません。
ついに、大ワシはまったく動かなくなってしまいました。
ゴリラは首を絞めていた手を離すと、今度は大ワシの羽をねじちぎり、おなかを引き裂きました。
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