さすがの井上君も、それを見ると、はっとして、ノロちゃんといっしょに、逃げだそうとしましたが、もうおそかったのです。
まっ黒な人かげが、ふたりのうしろにまわって、とおせんぼうをしていました。
うしろだけでなく、前からも、横からも、おなじようなまっ黒な怪物が、せまってくるではありませんか。
立って歩いているから、人間にちがいありません。
ばけものでも、動物でもないのです。
「だれだっ。きみたちは、だれだっ?」
井上君が、ノロちゃんをかばうようにして、どなりました。
「だれでもない。おれたちは、魔法博士の弟子だ。きみたちふたりを、これから悪魔の国へつれていくのだ」
黒いやつのひとりが、ぶきみな声でこたえました。
遠くの街灯の光で、三人の黒んぼうの姿が、かすかに見えます。
三人とも、ぴったり身についた、まっ黒なシャツとズボン下をはき、頭から三角の黒覆面をかぶっています。
その目と口のところだけが、くりぬいてあって、そこから、にぶく光る目がのぞいています。
「たすけてくれえ……、映画のおじさん! 自動車のおじさん! はやく、はやく、たすけてえ……」
ノロちゃんが、死にものぐるいの声をだしました。
すると、向こうの自動車の中から、まっ黒なやつがあらわれてきました。
こちらの三人と同じ姿です。
「ウフフフ、わしが映画のおじさんだよ。だが、きみたちのみかたじゃない。わしこそ、悪魔の国のあるじの魔法博士というものじゃ」
ああ、映画のおじさんと思っていた男が、じつは、悪魔の国の首領だったのです。
二少年の運命は、これからいったい、どうなるのでしょうか。
人造人間
井上君とノロちゃんは、三人の黒覆面に、とうとう、つかまえられてしまいました。
そして、たちまち手足をしばられ、さるぐつわをはめられ、黒いきれで目かくしまでされて、森の外に待っていた大きな自動車の中へはこばれました。
目かくしされているので、なにもわかりませんが、もう自動車は走りだしていました。
二少年がこしかけているとなりには、さっきの悪者のひとりが、がんばっているようすです。
おくびょうもののノロちゃんは、これからどうなることかと、恐ろしさに、ただもうブルブルふるえていました。
となりにいる井上君には、それがよくわかるので、元気づけようとするのですが、さるぐつわで、ものがいえません。
しかたがないので肩をグングンおしつけて、
「ぼくも、ここにいるんだから、だいじょうぶだよ」
という、あいずをするのでした。
自動車は、ひじょうなはやさで走っていましたが、三十分もたったころ、ピタリととまり、ふたりはまた、あらくれ男にだきあげられて、どこかの家の中へつれこまれ、階段をあがったり、廊下のようなところを、グルグルまがったりして、ひとつの部屋の中へいれられました。
そのとき、男たちは、手ばやく二少年の縄をとき、目かくしとさるぐつわをはずして、つきとばすように、その部屋の中へいれると、ピシャンと、ドアをしめて、そとからかぎをかけてしまいました。
部屋の中は、なぜかまっ暗です。
「ああ、井上君!」
ノロちゃんは、口がきけるようになったので、井上君の名をよんで、手さぐりで、そのからだに、しがみついていきました。
「ノロちゃん。しっかりするんだ。ぼくたちは少年探偵団員なんだからね。きっと、小林さんや、明智先生が、助けに来てくれるよ」
「だって、せっかく、道にすてたB・Dバッジが、なんにもならなかったじゃないか。こんな遠くへ自動車でつれてこられたんだから。ぼくたちのいくさきは、だれにもわからないよ」
「ぼくは、黒覆面につかまったとき、バッジののこりを、みんな、あの森の中へすててしまった。あそこには、バッジが、たくさん落ちているはずだ。それを、少年探偵団員のだれかが見つけてくれたら、あそこで、何かあったということがわかるよ。そして、バッジのうらには、ぼくたちの名まえが、ほりつけてあるんだから、井上と野呂のふたりが、森の中で、ひどいめにあったということが、わかるはずだ。それだけでも、あのバッジを落としたことは、むだじゃないよ」
井上君のいうとおり、B・Dバッジのうらには、団員がじぶんの名を、クギのさきでほりつけておく規則でした。ですから、バッジのうらを見れば、だれが落としていったかということが、すぐに、わかるのです。
そのとき部屋が、とつぜん、パッとあかるくなりました。
だれかが、外のスイッチをおして、電灯をつけたのです。
その光で、部屋の中を一目みると、ノロちゃんは、また「あっ!」とさけんで、井上君にしがみつきました。
そこは、じつになんともいえない、異様な部屋だったからです。
たたみなら二十畳もしけるほどの広さで、窓というものが一つもない、てんじょうの高い洋室です。
その四方の壁に、ぶきみな人造人間が、ウジャウジャといるのです。
じっさいにいるわけではなく、よく見ると、壁画なのですが、それらが、四方からこちらへ歩いてくるように見えるのです。
人間の三倍ほどの巨大な人造人間、全身が黒い鉄でできていて、まっ四角な顔には、まんまるな、まっかな目玉が光っています。
かくばった口は耳までさけて、のこぎりのような歯が、ならんでいます。
その巨人が、まっすぐに、こちらへ歩いてくるように感じられるのです。
人間の二倍ぐらいの大きさのやつもいます。
人間と同じくらいのやつもいます。
それが、四方の壁をあわせると、百人以上も、ビッシリならんで、みんな、こちらをむいて歩いてくるところが、油絵でかいてあるのです。
その人造人間の形もいろいろで、鉄でできた四角ばったやつばかりではありません。
青銅の魔人みたいなのもいれば、黄金仮面みたいなやつもいます。
また、火星人みたいな、グニャグニャしたタコのおばけみたいなのも、まじっているのです。
「ノロちゃん、こわがることはないよ。
あれはみんな絵だよ。
油絵だよ。
でも、なんて、ふしぎな部屋だろう。
壁じゅう人造人間で、うずめてしまうなんて。
」
勇気のある井上少年も、四方からおしよせてくる人造人間の絵を見ると、なんだか、へんな気持になるのでした。
その部屋のまんなかには、一度も見たことのない、奇妙な形のテーブルと、いすが、おいてありました。
テーブルは三角で、三本のあしが、みんな形がちがっていて、へんなふうに、まがっているのです。
いすも、ちょっと口ではいえないような異様な形で、どこか、遠い星の世界のいすとでもいった感じです。
また、ふしぎな形の長いすも、おいてあります。
まるで、巨大なカマキリが、うずくまっているような、へんてこな長いすです。
井上君とノロちゃんは、おそるおそる、その長いすに並んでこしかけました。
そして、キョロキョロと、四方の壁を見まわしています。
あまりのことに、ものをいうことも忘れてしまったらしいのです。
すると、いつのまにか、ドアが音もなくひらいて、そこから、ひとりの人間がはいってきたのです。
たしかに、三十歳ぐらいの人間の顔です。
しかし、なんという、きみの悪い顔でしょう。
青ざめて、すきとおったロウ細工のような顔です。
そして、その顔は、お能の面のように、すこしも動かないのです。
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