初級翻訳・銀河鉄道の夜 第4話

宮沢 賢治

カムパネルラは、決してぼくを怒っていないんだ。
そしてぼくは、どんなに友だちがほしいんだろう。
ぼくはもう、カムパネルラが本当にぼくの友だちになって、決してうそをつかないのなら、ぼくは命だってあげてもいい。
けれどもそう言おうと思っても、今はぼくはそれをカムパネルラに言えなくなってしまった。
一緒に遊ぶ時間だってないんだ。
ぼくはもう、空のずっとずっと遠くの方へ、たった一人で飛んで行ってしまいたい)
ジョバンニは町のはずれから、遠く黒く広がった野原を見渡しました。
そこから汽車の音が聞こえてきました。
その小さな列車の窓が一列、小さく赤く光って見えました。その中にはたくさんの旅人がいて、リンゴをむいたり、笑ったり、いろいろな様子で過ごしているのだと想像すると、ジョバンニはもう、なんとも言えず悲しくなって、また空に目を向けました。
……(次の原稿が数枚ありません)……

ジョバンニは目をひらきました。
もとの丘の草の中で、疲れて眠っていたのでした。
胸はなんだか不思議と熱く、頬には冷たい涙が流れていました。
ジョバンニは、バネのように跳ね起きました。
町はさっきと同じように下でたくさんの灯りをちりばめていましたが、その光はなんだかさっきよりも熱を帯びているようでした。
そしてたった今、夢の中で歩いた天の川も、やはりさっきの通り白くぼんやりとかかっていて、真っ黒な南の地平線の上では特に煙っているようになり、その右側にはサソリ座の赤い星が美しくきらめいていました。そこら全体の景色は、それほど変わっていないようでした。
ジョバンニは一目散に丘を駆け下りました。
まだ夕ご飯を食べないで待っているお母さんのことが、胸いっぱいに思い出されたのです。
どんどん黒い松の林の中を通って、それからほの白い牧場の柵を回って、さっきの入り口から暗い牛舎の前へまた戻ってきました。
そこには誰かが今帰ってきたらしく、さっきはなかった一つの車が、何かの樽を二つ載せて置いてありました。
「今晩は」
ジョバンニは叫びました。
「はい」
白い太いズボンをはいた人がすぐに出てきて立ちました。
「何のご用ですか」
「今日、牛乳がぼくのところへ来なかったのですが」
「あ、すみませんでした」その人はすぐ奥へ行って、一本の牛乳瓶を持ってきてジョバンニに渡し、また言いました。
「本当にすみませんでした。今日は昼過ぎに、うっかりして子牛の柵を開けておいたものですから、大将(子牛)がさっそく親牛のところへ行って、半分くらい飲んでしまいましてね……」その人は笑いました。
「そうですか。では、いただいていきます」
「ええ、どうもすみませんでした」
「いいえ」ジョバンニは、まだ温かい牛乳の瓶を両方の手のひらで包むように持って、牧場の柵を出ました。
そしてしばらく木のある町を通って、大通りへ出てまたしばらく行くと道は十字路になっていて、右手のほうに、さっきカムパネルラたちが明かりを流しに行った川通りの端に、大きな橋のやぐらが夜の空にぼんやりと立っていました。その十字路になった町角や店の前では、女の人たちが七人、八人ずつ集まって、橋の方を見ながら何かひそひそと話をしていました。
橋の上にも、たくさんの明かりがいっぱい光っています。
ジョバンニは、なぜかサッと胸が冷たくなるような気がしました。
そして、いきなり近くにいた人たちへ、
「何かあったんですか!」と叫ぶように聞きました。
「子どもが水へ落ちたんですよ」と一人が言うと、その人たちは一斉にジョバンニの方を振り返りました。
ジョバンニは夢中になって、橋の方へ走りました。
橋の上は人でいっぱいで、川の様子は見えません。
白い服を着たお巡りさんも出ていました。
ジョバンニは橋のたもとから、飛び降りるようにして下の広い河原へ降りました。
河原の水ぎわに沿って、たくさんの明かりがせわしなく行ったり来たりしています。
向こう岸の暗い土手にも、灯りが七つ八つ動いていました。
そのまん中を、もうカラスウリの明かりもない川が、わずかに音を立てて、灰色に静かに流れていました。
河原のいちばん下流の方、中洲のようになっているところに、人の集まりがくっきりと真っ黒に立っていました。
ジョバンニはそこへ向かって、どんどん走りました。
すると、いきなりさっきまでカムパネルラと一緒にいたマルソに会いました。
マルソがジョバンニに走り寄って言いました。
「ジョバンニ、カムパネルラが川へ入ったよ」
「どうして? いつ?」
「ザネリがね、舟の上からカラスウリの明かりを、水の流れる方へ流してやろうとしたんだ。そのとき舟が揺れたもんだから、水へ落っこちた。するとカムパネルラがすぐに飛び込んだんだ。そしてザネリを舟の方へ押し返した。ザネリはカトウにつかまって助かった。けれども、あとからカムパネルラが見えないんだ」
「みんな探しているんだろう?」
「ああ、すぐにみんな来た。カムパネルラのお父さんも来た。けれども見つからないんだ。ザネリは家へ連れて帰られたよ」
ジョバンニは、みんなが集まっている方へ行きました。
学生たちや町の人たちに囲まれて、青白く尖ったあごをしたカムパネルラのお父さんが、黒い服を着てまっすぐに立ち、右手に時計を持って、じっと川を見つめていました。
みんなもじっと川を見ています。
誰も一言も口を開く人はいませんでした。
ジョバンニは、ワクワクと足が震えました。
魚を捕るときのアセチレンランプがたくさんせわしなく行き来して、黒い川の水が、ちらちらと小さな波を立てて流れているのが見えました。
下流の方の川幅いっぱいに銀河が大きく映っていて、まるで水のないそのままの空のように見えました。
ジョバンニは、そのカムパネルラはもうあの銀河の果てにしかいないのだという気がしてなりませんでした。
それでもみんなは、まだどこかの波の間から、「ぼく、ずいぶん泳いだぞ」と言いながらカムパネルラが出てくるか、あるいはカムパネルラがどこか人の知らない洲にでも着いて立っていて、誰かが来るのを待っているかのような気がして仕方がないようでした。
けれども、突然カムパネルラのお父さんがきっぱりと言いました。
「もう駄目です。落ちてから四十五分たちましたから」
ジョバンニは思わず駆け寄って、博士の前に立ち、「ぼくはカムパネルラの行った方を知っています。ぼくはカムパネルラと一緒に歩いていたのです」と言おうとしましたが、喉が詰まって何も言えませんでした。
すると博士は、ジョバンニが挨拶に来たとでも思ったのか、しばらくじっとジョバンニを見ていましたが、「あなたはジョバンニさんでしたね。どうも今晩はありがとう」と丁寧に言いました。
ジョバンニは何も言えずに、ただおじぎをしました。
「あなたのお父さんは、もう帰っていますか?」博士は時計を固く握ったまま、また聞きました。
「いいえ」ジョバンニは小さく頭を振りました。
「どうしたのかなあ。ぼくには一昨日、とても元気な手紙があったんだが。今日あたりもう着く頃なんだが、船が遅れたんだな。

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