初級翻訳・お伽草紙 第7話

お伽草紙

あなたたちは、人生の切実な姿を見せつけられるのが大嫌いですからね。それこそ、あなた自身の高級な宿命に、泥水をかけられたような気がするんでしょう。あなたたちの親切は、遊びなんだ。享楽なんだよ。亀だから助けたんだ。子供だからお金をやったんだ。荒くれ者の漁師や病気の乞食の場合は、まっぴらごめんなんだね。現実世界の生臭い風に顔を撫でられるのが、とても、とても嫌なんだ。手を汚すのが嫌なんでしょう? ……なんてね。こういうのを『知ったかぶり』って言うんですよ、浦島さん。あなたは怒ったりしませんよね? だって、私はあなたが好きなんですもの。いや、やっぱり怒るかな? あなたのように上流の宿命を持っているお方たちは、私たちのような下賤な者に好かれることさえ不名誉だと思っているみたいだから、始末が悪い。特に私は亀だからね。亀に好かれては気味が悪いかもしれないけれど、まあ勘弁してくださいよ。好き嫌いっていうのは理屈じゃないんです。あなたに助けられたから好きというわけでもないし、あなたが風流人だから好きというのでもない。ただ、ふっと好きなんです。好きだから、あなたの悪口を言って、からかってみたくなる。これがつまり、私たち爬虫類の愛情表現の仕方なのさ。どうもね、爬虫類だから、蛇の親類だからね、信用がないのも無理はないでしょう。でも私は、エデンの園の蛇じゃない。はばかりながら日本の亀だ。あなたに竜宮行きをそそのかして堕落させようなんて、たくらんでいるわけじゃないんだ。私の心意気を買ってくれないか。私はただ、あなたと一緒に遊びたいだけなんだ。竜宮へ行って、一緒に遊びたいんだよ。あの国には、うるさい批評なんて一つもない。みんな、のんびり暮らしているよ」だから、遊ぶにはもってこいの場所なんだ。
私はこうして陸にも上がれるし、海の底へも潜っていけるから、両方の暮らしを比べながら眺めることができるんだけど、どうも陸の生活は騒がしすぎる。
お互いに批判ばかりしているでしょう。
陸上での会話なんて、全部が誰かの悪口か、そうでなきゃ自分自慢の宣伝ばかりだ。
本当にうんざりするよ。
私もこうしてちょくちょく陸に上がっているうちに、陸の生活に少し染まってしまって、偉そうな批評なんかを口にするようになってしまった。とんでもない悪影響を受けたものだと思いつつも、この「批判するクセ」にも、やめられない味があってね。批判なんて一つもない竜宮城の暮らしに、少し退屈を感じるようになってしまったんだ。
いやはや、悪いクセを覚えてしまったものだよ。
文明病の一種かな。
今では自分が海の魚なのか、陸の虫なのか、自分でもわからなくなってしまった。
たとえばあの、鳥だか獣だかわからないコウモリみたいなものさ。
悲しい生き方になってしまったよ。
まあ、海底の変わり者とでも言ったところかな。
だんだん故郷の竜宮城にも居づらくなってしまったけれど、あそこが遊ぶには最高の場所だということだけは保証するよ。
信じてくれ。
歌と踊り、美味しい食事と最高のお酒がある国なんだ。
あなたのような風流人には、まさにうってつけの場所さ。
あなたはさっき、「批判なんて嫌いだ」とつくづくため息をついていたじゃないか。竜宮には、そんな批判なんて一つもないんだよ。

浦島は、亀の驚くほどペラペラとよく喋る様子にすっかり閉口していたが、その最後の一言に、ふと心を惹かれた。
「本当になあ、そんな国があったらなあ」
「あれ、まだ疑っているのかい。私は嘘なんてついていないよ。どうして私を信じないんだ。怒るよ! 実行もしないで、ただあこがれてため息をついているのが風流人ってやつか? いやらしいねえ」

性格の穏やかな浦島も、そこまでひどく罵倒されては、黙って引き下がるわけにもいかなくなった。
「それじゃあ、仕方がないな」と苦笑しながら、「お前の言う通り、その甲羅に乗ってみるか」
「言うことすべてが気に食わないね」と亀は本気でふくれっ面をして言った。「『乗ってみるか』とはなんだい? 乗ってみるのも、乗るのも、結局は同じことじゃないか。疑いながら試しに右へ曲がるのも、信じてキッパリ右へ曲がるのも、その運命は同じだよ。どっちにしたって引き返すことはできないんだから。試した瞬間に、あなたの運命は決まってしまうんだ。人生に『試し』なんてものは存在しない。やってみるのは、やったのと同じことなんだよ。本当にあなたたちは、往生際が悪いね。まだ引き返せるなんて思っているんだから」
「わかった、わかったよ。それじゃあ、信じて乗せてもらうとしよう!」
「よし、決まりだ!」

浦島が亀の甲羅に腰を下ろすと、みるみるうちに亀の背中は広がり、畳二枚分くらい敷けるほどの大きさになった。そして、ゆらりと動いて海の中へ入っていく。
岸から一丁(約100メートル)ほど泳いだところで、亀は「ちょっと目を閉じて」と厳しい口調で命令した。浦島が素直に目を閉じると、夕立のような音がして、身の回りがほんのりと温かくなった。まるで春風のようだが、それよりも少し重たい風が耳をなでていく。
「水深千尋(せんじん)」と亀が言う。
浦島は、船酔いに似た胸の苦しさを覚えた。
「吐いてもいいか?」と目を閉じたまま尋ねる。
「なんだ、ゲロを吐くのかい?」と亀は元のひょうきんな口調に戻って言った。「汚い船客だねえ。おや、馬鹿正直にまだ目を閉じているのか。これだから私は太郎さんが好きなんだよ。もう目を開けてもいいですよ。目を開けて周りの景色をご覧になったら、気分が悪いのなんてすぐになおってしまいますから」

目を開けると、そこはぼんやりとしていて、薄緑色の奇妙な明るさに満ちていた。どこにも影はなく、ただただ茫々とした世界が広がっている。
「竜宮か?」と浦島は、寝ぼけているような間の抜けた声で言った。
「何を言ってるんだ。まだやっと水深千尋だよ。竜宮は海底一万尋(いちまんじん)だ」
「へええ」浦島は変な声を出した。「海っていうのは、広いもんだねえ」
「浜育ちのくせに、山奥の猿みたいなことを言うなよ。あなたの家の池よりは少し広いさ」

前後左右を見ても、ただただ広大で、足元を覗いてもやはり終わりなき薄緑色の明るさが続いているだけだ。上を見上げても、空ではなく広々とした深い空間が広がっている。二人の話し声以外には物音一つせず、春風に似ているがそれよりも少し粘り気のある風が、浦島の耳をくすぐるばかりである。
やがて浦島は、はるか右上のほうに、一握りの灰をまいたような小さな汚れを見つけた。
「あれは何だ。雲かね?」と亀に尋ねる。
「冗談を言っちゃいけないよ。海の中に雲なんか流れていないさ」
「それじゃあ何だ。墨汁を一滴落としたような感じだが。ただのゴミかな?」
「間抜けだねえ、あなたは。見たらわかりそうなものなのに」「あれは、鯛の大群じゃないか。」

「へえ? ずいぶんとしょぼいものだね。あれでも二、三百匹はいるんだろうけど。」

「馬鹿だな。」と亀はあざ笑うように言った。「本気で言っているのかい?」

「それじゃあ、二、三千匹か。」

「しっかりしてくれよ。ざっと五、六百万匹はいるね。」

「五、六百万? おどかすんじゃないよ。」

亀はニヤニヤと笑いながら言った。

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