ゆらりと離れては、また開く。
大きさは、両手の親指と人差し指で大きく囲んだくらいの、白牡丹の花ほどもありましょうか。
それが、一匹の金魚だったのです。
その白牡丹のような薄絹のひれには、さらにスミレ色、朱色、藤色、薄青などの模様があり、さらに墨色や古金色といった斑点も混じり合って、万華鏡のように絢爛豪華。波のように重なり合いながら、艶やかに、そして淑やかで上品に、内気で幼げに揺れ広がっては、また揺れ広がる。どこか無限の遠くからその命を操られているような、神秘的な動き方をしていました。
復一の胸は張り裂けんばかりに膨らみ、木の根や岩の角にでも体をこすりつけたいような、現実と非現実のあいだで揺れ動く、どうしようもない情熱のショックに耐えきれないほどになりました。
「これこそ、自分が十数年間、苦心惨憺(くしんさんたん)しても作り出すことができなかった、理想の至高の魚だ。自分が出来損ないとして捨てて顧みなかった金魚のどれとどれが、いつ、どのように交配して生まれ育ったのか」
復一の意識はそう繰り返しながら、心はますますその大きな魅力に圧倒され、吸い出され、解き放たれ、やがて、しんと心の底まで染み渡るような一筋の充実感に、身動き一つできなくなりました。
「意識して求めようとしたものには手が届かず、あきらめて放り出した過去や、思いもよらない分かれ道から、突然与えられる人生の不思議さ」が、復一の心の底を稲妻のように駆け抜けたそのとき、一度沈みかけてまた水面に浮き上がってきた美しい魚が、その房々とした尾ひれを完全に広げて見せると、星を宿したようなつぶらな瞳も、球のような口元も、はっきりと復一の正面を向きました。
「ああ、真佐子にも、神魚華鬘(かまん)の図にも似ていない……それよりも……それよりも……もっと美しい金魚だ、金魚だ」
失望なのか、それともそれ以上の喜びなのか。感極まった復一の体は、池のほとりの泥の中に、へなへなと崩れ落ちました。
復一がいつまでもそのまま肩で息を吐き、目を閉じている目の前の水面に、今、復一によって見出された新星のような美しい魚は、大勢の取るに足らない金魚たちを従えながら、ゆったりと胸を張り、その豊かで豪華な尾ひれを太陽の光に輝かせながら、見事に咲き乱れる花のように、優雅に泳ぎ回っているのでした。
コメント