初級翻訳・あのときの王子くん 第3話

あのときの王子くん

その子は友だちがほしくて……」

生きるってことをよくわかっているひとには、こっちのほうが、ずっともっともらしいとおもう。というのも、ぼくの本を、あまりかるがるしくよんでほしくないんだ。このおもいでをはなすのは、とてもしんどいことだ。6年まえ、あのぼうやはヒツジといっしょにいなくなってしまった。ここにかこうとするのは、わすれたくないからだ。友だちをわすれるのはつらい。いつでもどこでもだれでも、友だちがいるわけではない。ぼくも、いつ、すうじの大すきなおとなのひとになってしまうともかぎらない。

だからそのためにも、ぼくはえのぐとえんぴつをひとケース、ひさしぶりにかった。この年でまた絵をかくことにした。さいごに絵をかいたのは、なかの見えないボアとなかの見えるボアをやってみた、六さいのときだ。あたりまえだけど、なるべくそっくりに、あの子のすがたをかくつもりだ。うまくかけるじしんなんて、まったくない。ひとつかけても、もうひとつはぜんぜんだめだとか。大きさもちょっとまちがってるとか。王子くんがものすごくでかかったり、ものすごくちっちゃかったり。ふくの色もまよってしまう。そうやってあれやこれや、うまくいったりいかなかったりしながら、がんばった。もっとだいじな、こまかいところもまちがってるとおもう。でもできればおおめに見てほしい。ぼくの友だちは、ひとつもはっきりしたことをいわなかった。あの子はぼくを、にたものどうしだとおもっていたのかもしれない。でもあいにく、ぼくはハコのなかにヒツジを見ることができない。ひょっとすると、ぼくもちょっとおとなのひとなのかもしれない。きっと年をとったんだ。

5

日に日にだんだんわかってきた。どんな星で、なぜそこを出るようになって、どういうたびをしてきたのか。どれも、とりとめなくしゃべっていて、なんとなくそういう話になったんだけど。そんなふうにして、3日めはバオバブのこわい話をきくことになった。このときもヒツジがきっかけだった。この王子くんはふかいなやみでもあるみたいに、ふいにきいてきたんだ。

「ねえ、ほんとなの、ヒツジがちいさな木を食べるっていうのは。」
「ああ、ほんとだよ。」
「そう! よかった!」

ヒツジがちいさな木を食べるってことが、どうしてそんなにだいじなのか、ぼくにはわからなかった。でも王子くんはそのままつづける。

「じゃあ、バオバブも食べる?」

ぼくはこの王子くんにおしえてさしあげた。バオバブっていうのはちいさな木じゃなくて、きょうかいのたてものぐらい大きな木で、そこにゾウのむれをつれてきても、たった1本のバオバブも食べきれやしないんだ、って。ゾウのむれっていうのを、王子くんはおもしろがって、

「ゾウの上に、またゾウをのせなきゃ……」

といいつつも、いうことはしっかりいいかえしてきた。

「バオバブも大きくなるまえ、もとは小さいよね。」
「なるほど! でも、どうしてヒツジにちいさなバオバブを食べてほしいの?」

するとこういうへんじがかえってきた。

「え! わかんないの!」

あたりまえだといわんばかりだった。ひとりでずいぶんあたまをつかったけど、ようやくどういうことなのかなっとくできた。つまり、王子くんの星も、ほかの星もみんなそうなんだけど、いい草とわるい草がある。とすると、いい草の生えるいいタネと、わるい草のわるいタネがあるわけだ。でもタネは目に見えない。土のなかでひっそりねむっている。おきてもいいかなって気になると、のびていって、まずはお日さまにむかって、むじゃきでかわいいそのめを、おずおずと出していくんだ。ハツカダイコンやバラのめなら、生えたままにすればいい。でもわるい草や花になると、見つけしだいすぐ、ひっこぬかないといけない。

そして、王子くんの星には、おそろしいタネがあったんだ……それがバオバブのタネ。そいつのために、星のじめんのなかは、めちゃくちゃになった。しかも、たった一本のバオバブでも、手おくれになると、もうどうやってもとりのぞけない。星じゅうにはびこって、根っこで星にあなをあけてしまう。それで、もしその星がちいさくて、そこがびっしりバオバブだらけになってしまえば、星はばくはつしてしまうんだ。

「きっちりしてるかどうかだよ。」というのは、またべつのときの、王子くんのおことば。「あさ、じぶんのみだしなみがおわったら、星のみだしなみもていねいにすること。ちいさいときはまぎらわしいけど、バラじゃないってわかったじてんで、バオバブをこまめにひきぬくようにすること。」やらなきゃいけないのは、めんどうといえばめんどうだけど、かんたんといえばかんたんなんだよね。」

またある日には、ひとつ、ぼくんとこの子どもたちがずっとわすれないような、りっぱな絵をかいてみないかと、ぼくにもちかけてきた。
その子はいうんだ。
「いつかたびに出たとき、やくに立つよ。やらなきゃいけないことを、のばしのばしにしてると、ときどきぐあいのわるいことがあるよね。それがバオバブだったら、ぜったいひどいことになる。こんな星があるんだ、そこにはなまけものがすんでて、ちいさな木を3本ほうっておいたんだけど……」
というわけで、ぼくは王子くんのおおせのまま、ここにその星をかいた。えらそうにいうのはきらいなんだけど、バオバブがあぶないってことはぜんぜん知られてないし、ひとつの星にいて、そういうことをかるくかんがえていると、めちゃくちゃきけんなことになる。だから、めずらしく、おもいきっていうことにする。いくよ、「子どものみなさん、バオバブに気をつけること!」これは、ぼくの友だちのためでもある。そのひとたちはずっとまえから、すぐそばにきけんがあるのに気がついてない。だからぼくは、ここにこの絵をかかなきゃいけない。ここでいましめるだけのねうちがある。そう、みんなはこんなことをふしぎにおもうかもしれない。「どうしてこの本には、こういう大きくてりっぱな絵が、バオバブの絵だけなんですか?」こたえはとってもかんたん。やってみたけど、うまくいかなかった。バオバブをかいたときは、ただもう、すぐにやらなきゃって、いっしょうけんめいだったんだ。
〈バオバブの木。〉

6

ねえ、王子くん。
こんなふうに、ちょっとずつわかってきたんだ。きみがさみしく、ささやかに生きてきたって。ずっときみには、おだやかな夕ぐれしか、いやされるものがなかった。このことをはじめて知ったのは、4日めのあさ、そのとき、きみはぼくにいった。
「夕ぐれが大すきなんだ。夕ぐれを見にいこう……」
「でも、またなきゃ……」
「なにをまつの?」
「夕ぐれをまつんだよ。」
とてもびっくりしてから、きみはじぶんをわらったのかな。こういったよね。
「てっきりまだ、ぼくんちだとおもってた!」
なるほど。ごぞんじのとおり、アメリカでまひるのときは、フランスでは夕ぐれ。だからあっというまにフランスへいけたら、夕ぐれが見られるってことになる。でもあいにく、フランスはめちゃくちゃとおい。だけど、きみの星では、てくてくとイスをもってあるけば、それでいい。そうやってきみは、いつでも見たいときに、くれゆくお日さまを見ていたんだ。

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