初級翻訳・おくさま狐の御婚礼 第1話

おくさま狐の御婚礼

一番目のお話

 むかしむかし、あるところに、しっぽが九本もある古狐が住んでいました。
 古狐は、自分のおくさまが心がわりをしていないか疑い、おくさまをためしてみることにしました。古狐は腰かけ台の下へ大の字になると、ぴくりとも動かず、まるで打ち殺されたネズミのように、死んだふりをしたのです。
 おくさま狐は自分のお部屋へ行き、閉じこもりました。おくさま狐のお女中であるおじょうさん猫は、へっついの上にすわって、ぐつぐつと煮ものをしていました。
 やがて、古狐が死んだという噂が広まると、おくさま狐をお嫁さんにしたいという者が、何人も会いにやってきました。
 お女中の猫は、誰かが戸口に立って、こつこつと戸をたたいているのを聞きつけました。立っていって戸をあけてみると、若い狐が一ぴき立っていて、こう言いました。

「なにしてらっしゃるの? おじょうさん猫ちゃん。
ねてらっしゃるの? おきてらっしゃるの?」

 おじょうさん猫が返事をしました。

「あたしなら、ねてやしないわ、おきてるわ。
なにしているのか知りたいの?
ビールをぐつぐつ煮えたてて、バタをなかへ入れてるの。
あなた、あたしのお客になって?」

「いや、ありがとう、おじょうさん」と狐が言いました。「おくさま狐はどうしていらっしゃるの?」
 お女中が返事をしました。

「おくさま狐はお部屋においで、
かなしかなしと泣きはらす。
かわいいお目めは紅絹のように紅い、
お狐の古殿さまがお逝去じゃもの」

「おじょうさん、どうかおくさまにおっしゃってください。若い狐がまいりましたってね。その狐が、おくさまにお嫁さんになっていただきたいのですってね」
「お若さま、かしこまりました」

 ぴたり、ぱたりと猫が行く。
 とたん、ぱたんと戸があいた。
「おきつねおくさま、いらっしゃる?」
「いるわよ、猫ちゃん、いることよ」
「おくさまをお嫁にほしいというかたが」
「あらまあ、そうお? どんなごようす?」

「そのかたもね、お隠れになった殿さま狐みたいに、黄色いような青いような見事なしっぽが、九本あること?」
「どういたしまして」と、猫が返事をしました。「しっぽはたった一本でございます」
「では、そのかたは御免だわ」
 おじょうさん猫はお部屋を出て、お婿さんになりたい狐を追い返しました。
 それから間もなく、また戸をたたくものがありました。出てみると別の狐が戸口にいて、おくさま狐をお嫁さんにしたいと言うのです。これはしっぽが二本でしたが、前の狐と似たりよったりの目にあいました。
 それからも次々とほかの狐が来て、しっぽも一本ずつ増えてはいましたが、どれもこれも追い払われました。ただ、いちばん最後にやってきたのだけは、古殿さまの狐とそっくりな、九尾の狐でした。やもめのおくさま狐はこれを聞くと大喜びで、猫に言いました。

「さあ、門をあけて、戸をあけて!
おっぽりだすのよ、古殿さまのおきつねを!」

 ところが、いざ御婚礼のお式が挙げられるという時になって、古殿さまの狐が腰かけ台の下から、もぞもぞと動きだしました。そして、めしつかいのものどもを一ぴき残らずぴしぴしひっぱたき、おくさま狐といっしょに家から追いだしてしまったのです。

二番目のお話

 古殿さまの狐が死んでから、おくさま狐をお嫁さんにほしいと言って、狼がやってきて、こつこつと戸をたたきました。おくさま狐にお女中奉公をしている猫が戸をあけました。狼は猫に挨拶して、口をきりました。

「こんにちは! ケーレウィッツのお猫さま。
なんとしてひとりぼっちでござるぞえ?
ごちそうはなあに?」

 猫が返事をしました。

「上等のこむぎのパンを粉にして、おちちのなかへ入れてるの。
あなた、あたしのお客になる?」

「ありがとう、お猫さま」と、狼がこたえました。「おくさま狐はお在宅じゃないの?」
 猫が言いました。

「おくさま狐は二階のお部屋、
かなしかなしと、おいおい泣いて、
どしたらよかろと泣いてござる、
おきつねの古殿さまがお隠れじゃもの」

 狼がこたえました。

「おくさま狐がもう一度だんながほしいなら、
ここまでおりて来やしゃんせ」

 猫は階段かけあがり、
 なれた小廊下いくまがり、
 やがて行きつく長ひろま、
 五つの黄金のゆびわで、とんとんとんと、戸をたたく。「おきつねのおくさま、いらっしゃいますか?
おくさまが、もう一度だんなさまがほしいとおっしゃるなら、
下までおりてきてくださいな」

おくさま狐がたずねました。
「そのかたは、赤いズボンをはいていらっしゃるの? とがったお口をしてらっしゃるの?」
「いいえ」と、猫が返事をしました。
「それでは、わたくしの役には立たないわ」
狼が追い返されてからというもの、犬だの、鹿だの、兎だの、熊だの、獅子だのと、森のけだものたちが、あとからあとから一人残らずやってきました。
けれども、どのけだものも、おきつねの古殿さまが持っていた立派な性質のうち、どれか一つがどうしても足りなかったので、猫はやってくるたびに、お婿さんになりたいという彼らに帰ってもらわなければなりませんでした。
ようやく、一ぴきの若い狐がやってきました。
おくさま狐がこう言いました。
「そのかた、赤いズボンをはいていらっしゃるの? とんがったお口をしてらっしゃる?」
「そのとおりでございます」と、猫が言いました。
おくさま狐は言いました。
「それなら、そのかたを上へお通ししてちょうだい」
そう言って、女中に御婚礼のしたくを言いつけました。

「ねこちゃん、お部屋をきれいにお掃除して、
あのじじい狐は、窓から外へ捨てておしまい。
脂ののった太ったネズミを、ときどき捕まえてきたけれど、
あのじじいときたら、いつも自分ひとりで食べちゃって、
あたしにはひとつも分けてくれなかったんだもの」

それから、若い殿さま狐とのおめでたい御婚礼の式が挙げられました。みんなで「めでたい、めでたい」と言いながら、楽しく踊りをおどりました。
もしも彼らが踊りをやめていなければ、きっと今でもずっと踊り続けていることでしょう。

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