初級翻訳・ひこうかばん 第3話

ひこうかばん

それはもう、すばらしい盛り上がりでした。

「そうだ、ぼくもお礼に何かしてあげよう」
商人の息子はそう思いました。そこで、流星花火や南京花火など、ありとあらゆる花火を買い込んでかばんに入れ、空へと飛び上がりました。
ぽん、ぽん。まあ、花火のなんてよく上がることでしょう。なんて威勢のいい音を立てることでしょう!
トルコの人たちは、そのたびに驚いて、うわぐつを耳のあたりまで跳ね上げるほど飛び上がりました。こんなすばらしい空中の現象は、これまでだれも見たことがありませんでした。こうして、お姫さまの結婚相手は、トルコの神さまで間違いなしということに決まりました。

若者はかばんに乗ったまま、また森へ降りましたが、「よし、これから町へ出かけて、みんながぼくのことを何と言っているか聞いてこよう」と考えました。なるほど、若者にしてみれば、そう思い立つのは無理もありません。
さて、みんなはどんな話をしていたでしょうか。人それぞれ言っていることは違いましたが、誰もが「とてつもなくすごいことだった」と口をそろえていました。
「わたしはトルコの神さまを拝んだよ。目が星のように光って、ひげは海のあわのように白かった」と、ひとりが言いました。
「神さまは火のマントを着て飛んでいらっしゃった。そのひだの間から、かわいらしい天使の子がのぞいていたよ」と、もうひとりが言いました。

若者が聞く話は、どれもこれもすばらしいことばかりでした。
さて、翌日はついに結婚式当日でした。そこで若者は、ひとまず森へ帰って、かばんの中でひと休みしようと思いました。
――ところが、どうしたことでしょう。
かばんは、丸焼けになっていたのです。かばんの中に残っていた花火から火が出て、かばんを灰にしてしまったのでした。
若者はもう空を飛ぶことができません。お嫁さんのところへ行くこともできません。お嫁さんは一日じゅう、屋根の上に立って待ちくたびれました。たぶん、今でも待っていることでしょう。
けれど若者は、相変わらずお話をしながら世界中を歩き回っていました。ただ、あのおマッチの話のような、面白いお話だけは、もう二度と作れなくなってしまったのでした。

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