初級翻訳・もみの木 第3話

もみの木

わたしはこの仲間に入れてもらえないのかしら」

なるほど、木もこの場の仲間であることに間違いはありませんでした。けれども、もみの木としての本当の役目は、もう終わっていたのです。
やがてその男の人は、階段から転げ落ちたのに出世して、王女さまを奥さんにした「でっくりもっくりさん」のお話を始めました。お話が終わると、子どもたちはぱちぱちと手を叩いて、「もうひとつして、もうひとつして!」とせがみました。
子どもたちは本当はイウェデ・アウェデのお話も聞きたかったのですが、結局でっくりもっくりさんのお話だけで我慢しなければなりませんでした。

もみの木は、びっくりしたような、それでいて深い考えに沈んでいるような様子をしていました。だって、森にいた頃、鳥たちはそんな不思議なお話など一度もしてくれなかったからです。
「でっくりもっくりさんは、階段から転げ落ちたのに、王女さまを奥さんにしたんだってね。そうか、そうか。それが世の中というものなんだ」と、もみの木は考えました。
あんな立派な人が語ったことなのですから、それは間違いなく本当のことに違いありません。
「そうだ、そうだよ。わたしだって、これから階段から転げ落ちて、王女さまを奥さんにもらうかもしれない」

これで明日もまた、明かりをつけてもらって、おもちゃや金の果物で飾り付けてもらえるのだと思い、もみの木は期待に胸を躍らせていました。
「明日はもう震えたりしないぞ。こんなに立派になったのだから、うんとうれしそうな、誇らしげな顔をしていよう。きっとまた、でっくりもっくりさんのお話を聞かせてもらえるだろうし、ことによったら、イウェデ・アウェデのお話だって聞けるかもしれない」
こうしてもみの木は、じっと一晩中、考え事をして夜を明かしました。

次の朝、召使いたちがやってきました。
「ああ、きっともう一度、立派に飾り直してくれるんだな」と、もみの木は思いました。
けれども、召使いたちは木を部屋の外へ引きずり出しました。そして、階段を上がっていき、屋根裏の薄暗い物置の隅っこへ、放り投げてしまいました。
そこには、お日さまの光などまったく差し込んできませんでした。
「どうしたっていうんだろう。こんなところで何ができるんだろう。こんなところで誰かがお話をしたって、何が聞こえるっていうんだろう」と、もみの木は考えました。
そして壁にもたれたまま、いつまでも飽きることなく、考え続けていました。

――もうずいぶんと時間が経ちました。いく日も、いく晩も過ぎていきました。
けれども、誰ひとりとしてやって来る者はいませんでした。
それでも、ようやく誰かが上がってきましたが、それはただ、大きな箱をふたつ三つ、隅の方へ放り出していっただけのことでした。
おかげで、もみの木はすっかりその箱の下敷きになって、隠れてしまいました。
まあ、そこに木があることなど、みんなすっかり忘れてしまったのでしょう。

「今は外は冬なんだ。地面はカチカチに凍って、雪が降り積もっている。だから、あの人たちはわたしを植えることができないんだね。それで、春が来るまでここで囲われているんだ。本当に、なんて考え深い人たちだろう。――ただ、ここがこんなに薄暗くて寂しい場所でなければいいのになあ。――だって、野うさぎ一匹だって跳ねてこないんだもの。――雪が積もって、うさぎがそばを跳ね回っていた頃、あの町外れの森の中は、ずいぶん良かったなあ。そうそう、うさぎがよく、わたしの頭の上を飛び越えていったっけ」あのときは、ずいぶんと腹が立ったものだけれど、今となってはそれさえも懐かしい。
それに比べれば、この屋根裏の恐ろしいほどの寂しさはどうだろう。

「チュウ、チュウ」

そのとき、ふと小さなねずみが鳴きながら、ちょろちょろと這い出してきました。
そのあとから、もう一匹の小さなねずみが現れました。
ねずみたちは、もみの木の匂いを嗅いでみて、枝の間をはい回りました。

「ひどい寒さですねえ」と、小さなねずみたちは言いました。
「でも、ここはなかなかのいい場所でしょう? そう思いませんか、もみの木のおじいさん」

「わたしは、そんなおじいさんじゃないぞ」ともみの木は少し怒って言いました。
「まだまだ、ぼくよりも歳をとっている木はたくさんあるよ」

「あなたはどこから来たの? いろいろなことを知っているの?」と、ねずみたちは何かをとても知りたがっていました。
「ねえ、もみの木さん。世の中で一番すばらしい場所のお話をしてください。あなたはそこから来たんでしょう? ほら、棚の上にチーズがのっていたり、天井からハムがぶら下がっていたり、油ろうそくの上でダンスを踊ったりして、入るときはひょろひょろ、出るときはむっくりでっくり……なんていう場所にいたんでしょう?」

「どうも、そんな所は知らないね」ともみの木は答えました。
「けれど、森のことなら知っているよ。そこではお日さまの光がよく当たって、鳥が歌を歌っているんだ」

それから、もみの木は自分の若かった頃のことをすっかり話しました。
小さなねずみたちは、これまでそんなお話は一度も聞いたことがなかったので、珍しがって聞き入っていました。
話が終わると、ねずみたちはこう言いました。

「まあ、ずいぶんといろいろなものを見たのですねえ。ずいぶんとしあわせだったんですねえ」

「わたしがかい?」

そう言われて、もみの木は初めて、今自分が話したことを振り返ってみました。
「なるほど、そう言われれば幸せだったよ。そう、つまりあの頃のわたしは、間違いなく一番幸せだったんだな」

それから、もみの木はおいしいお菓子や、ろうそくの明かりで飾られたクリスマスの前の晩のお話をしました。

「まあ、ずいぶんとしあわせだったのね、もみの木のおじいさん」と小さなねずみが言いました。

「だから、そんなにおじいさんではないというのに」ともみの木は言いました。
「この冬、初めて森の中から出てきたばかりだもの。わたしは今が盛りなんだ。ただ、少しのっぽに育ちすぎたかもしれないけれど」

「おじさんの話はおもしろいね!」と小さなねずみは言いました。

次の晩にも、小さなねずみはほかに四匹の仲間を連れて、お話を聞きにやってきました。
もみの木は話せば話すほど、あれもこれもはっきりと記憶がよみがえってきました。
そして、こう考えました。

「あの頃は本当に幸せだったけれど、ああいう時代がまたやってくるだろう。きっとまたやってくる。でっくりもっくりさんは、階段から転げ落ちたのに、王女さまを奥さんにもらったんだ。だからわたしだって、たぶん王女さまを奥さんにするかもしれない」

それから、もみの木は森の中に生えていた、かわいらしい白樺の木のことを思い出しました。
その白樺の木は本当にきれいだったので、もみの木には、それが美しい王女さまのように思えたのです。

「でっくりもっくりさんって、誰なんですか?」とねずみたちが尋ねました。

もみの木は、一つも間違えずにそのお話をすっかり話してやりました。
小さなねずみたちは、それはそれはうれしがって、もみの木の一番高い枝に飛びつきそうになっていました。

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