「おまえたちが、十五になったらね」と、あるとき、おばあさまが言いました。
「海の上に浮びあがることをゆるしてあげますよ。
そのときには、明るいお月さまの光をあびながら、岩の上に腰をおろして、そばを通っていく大きな船を見たり、森や町をながめたりすることができるんですよ」
つぎの年には、いちばん上のお姫さまが十五になりました。
あとのお姫さたちは、年が一つずつ下でした。
ですから、いちばん下のお姫さまが、海の底から浮びあがって、わたしたち人間の世界のありさまを見ることができるようになるまでには、まだまだ五年もありました。
そこで、お姫さたちは、はじめて海の上に浮びあがった日に見たことや、いちばん美しいと思ったことを、帰ってきたら、妹たちに話そうと、たがいに約束しあいました。
なぜって、みんなは、もう、おばあさまのお話だけでは満足できなくなっていましたからね。
お姫さたちが人間の世界について知りたいと思うことは、とてもとてもたくさんあったのです。
とりわけ、いちばん下のお姫さまは、海の上の世界のながめられる日を、だれよりもずっと強く待ちこがれていました。
それなのに、いちばん長いあいだ待たなければならないのです。
けれども、お姫さまは、もの静かな、考え深い娘でした。
幾晩も幾晩も、開かれた窓ぎわに立って、さかなたちがひれやしっぽを動かしながらおよいでいる、まっさおな水をすかして、上のほうをじっとながめていました。
すると、お月さまやお星さまも見えました。
その光は、すっかり弱くなって、ぼんやりしていましたが、そのかわり、水をとおして見ていますので、お月さまもお星さまも、わたしたちの目にうつるよりは、ずっと大きく見えました。
ときには、黒い雲のようなものが、光をさえぎって、すべっていくこともありました。
それは、頭の上をおよいでいくクジラか、でなければ、大ぜいの人間を乗せている船だということは、お姫さまも知っていました。
でも、船の中の人たちは、美しい小さな人魚のお姫さまが、海の底に立っていて、白い手を、船のほうへさしのべていようとは、夢にも思わなかったことでしょう。
さて、いちばん上のお姫さまは、十五になったので、海の上に浮びあがってもよいことになりました。
このお姫さまが、海の底に帰ってきたときには、妹たちに話したいと思うことを、それはそれはたくさん持っていました。
お姫さまの話によりますと、いちばん美しかったのは、お月さまの明るい晩、静かな海べの砂地に寝ころんで、海岸のすぐ近くにある、大きな町をながめたことでした。
その町には、たくさんの光が、何百とも知れない星のようにかがやいていたということです。
それから、音楽に耳をかたむけたり、車のひびきや、人々のざわめきを聞くのもすてきなことでしたし、また、たくさんの教会の塔をながめて、鐘の鳴るのを聞くのも楽しかったそうです。いちばん下のお姫さまは、まだまだしばらくの間は海の上へ上がることができないぶん、だれよりも強いあこがれを胸に、お姉さまたちの話を聞き入りました。
ああ、いちばん下のお姫さまは、どんなに熱心に、そうしたお話に耳をかたむけたことでしょう! それからというものは、夕方になると開け放たれた窓辺に立ち、青い水をすかして上のほうを見上げるのでした。
そして、そのたびに、いろいろな物音がするという大きな町のことを、心の中で思い描くのでした。
すると、そんなときには、教会の鐘の音までが、遠い海の底の自分のところまで響いてくるような気がしてならなかったのでした。
一年がたつと、二番めのお姫さまが海の上に浮かび上がり、どこへでも好きなところへ泳いでいってよいというお許しをいただきました。
お姫さまが浮かび上がったとき、お日さまがちょうど沈むところでした。
その眺めが、このうえなく美しく感じられました。
空一面が金色に輝いて——と、これはお姫さまのお話です。
雲の美しいこと、本当にその様子は、言葉などでは言い表すことができません。
雲は赤く、スミレ色にもえて、頭の上を流れていきました。
けれども、その雲よりもずっとずっと速く、ハクチョウの群れが、長い白いベールのように、一羽また一羽と、波の上を、今まさに沈もうとしているお日さまのほうに向かって飛んでいきました。
お姫さまも、そちらのほうへ泳いでいきました。
しかし、まもなくお日さまが沈んでしまうと、バラ色の輝きは海の面からも雲の上からも消えてしまいました。
また一年がたつと、今度は三番めのお姫さまが海の上に浮かび上がっていきました。
このお姫さまはみんなの中でいちばん大胆でしたから、海に流れ込んでいる大きな川を泳ぎのぼっていきました。
やがて、ブドウのつるにおおわれた美しい緑の丘が見えてきました。
こんもりとした大きな森の間には、お城や農園が見え隠れしています。
いろんな鳥がさえずっているのも聞こえてきました。
お日さまがあまりに暑く照りつけるので、何度も何度も水の中にもぐって、ほてった顔を冷まさなくてはなりませんでした。
小さな入り江に来ると、人間の子どもたちが大勢集まっていました。
みんなまっ裸で、水の中をピチャピチャ跳ね回っていました。
人魚のお姫さまも、子どもたちといっしょに遊びたくなりました。
ところが、子どもたちのほうでは、びっくりして逃げていってしまいました。
そこへ、小さな黒い動物が一匹やってきました。
実は、それはイヌだったのです。
でも、お姫さまはそれまでにイヌというものを見たことがありませんでした。
それに、お姫さまに向かってイヌがワンワンほえたてたものですから、お姫さまはすっかり怖くなって、またもとの広々とした海へと戻ってきたのでした。
それにしても、あの美しい森や緑の丘、それから魚のしっぽもないのに水の中を泳ぐことのできる、かわいらしい子どもたちのことは、決して忘れることができませんでした。
四番めのお姫さまは、それほど大胆ではありませんでした。
ですから、広々とした海の真ん中にじっと浮かんでいました。
それでも、お姫さまの話では、そこがいちばん美しい場所だったということです。
どちらを向いても、何マイルも先まで見渡すことができました。
空は、大きなガラスの丸天井のように思われました。
ときどき目に映る船は、ずっと遠くにカモメのように見えました。
おちゃめなイルカはトンボ返りをしていました。
そうかと思うと、大きなクジラが鼻の穴から水を吹き上げていました。
すると、まわりに何百もの噴水ができたように見えたのでした。
今度は五番めのお姫さまの番になりました。
お誕生日がちょうど冬の真っ最中でしたから、このお姫さまはお姉さたちとはちがうものを見ました。
海はすっかり緑色になっていて、まわりには大きな氷山が浮かんでいました。
その氷山の一つ一つが真珠のように輝いて、人間が建てた教会の塔よりもずっとずっと大きかったと、お姫さまは話しました。
おまけに、そうした氷山は世にも不思議な形をしていて、ダイヤモンドのようにキラキラと輝いていました。
お姫さまはその中でいちばん大きな氷山の一つに腰を下ろしました。
コメント