次の晩には、もっとたくさんのねずみたちがやってきました。
日曜日には、二匹のおやねずみさえ姿を現しました。
けれど、このおやねずみたちは「そんなお話はちっともおもしろくない」と言いました。
そう言われると、小さなねずみたちも少しがっかりしてしまいました。
なるほど、先ほどのお話ほどにはおもしろく感じられなかったのかもしれません。
「君の知っているお話は、それひとつきりなのかい?」とおやねずみが言いました。
「ああ、これひとつさ」ともみの木は答えました。
「なにしろわたしは、生まれて一番しあわせだった晩に、そのお話を聞いたのだからね。けれど、そのときは、それがそんなにしあわせだとは知らなかったんだ」
「ずいぶん、つまらないお話だなあ」「君は、豚の脂身や、あぶらろうそくといったものは何も知らないのかね? 食べ物屋さんの話も知らないのかい?」
「知らないねえ」ともみの木は答えました。
「そうか。じゃあ、どうもありがとう」と、おやねずみたちは言うと、仲間のところへ帰っていきました。とうとう、小ねずみたちもいなくなってしまいました。
すると、もみの木はまたひとりぼっちになったので、ため息をつきながら言いました。
「元気のいい小ねずみたちが、わたしを囲んでおもしろそうに話を聞いてくれたのは、本当に愉快だったなあ。だが、それもおしまいか。でも、今にここから運び出されたら、せめて楽しいことを考えることにしよう」
さて、いつそんなときがやってきたのでしょうか。なるほど、翌朝になると大勢の人がやってきて、ガタガタと物置の片付けを始めました。そして箱をどけて、もみの木を運び出しました。それから、かなり乱暴に床の上に投げ出しました。やがてひとりの下男が、それをそのまま階段の方へ引きずっていきました。こうして、もみの木はもう一度、日の目を見ることができたのです。
「さあ、また生き返ったぞ!」ともみの木は思いました。
もみの木は涼しい風に吹かれ、朝のお日さまの光を浴びました。そこは本当に家の外の、庭の中だったのです。いろいろなことが目まぐるしいほど次々と起こるので、もみの木はすっかり自分のことを忘れてしまいました。周りには目につくものがたくさんありました。この庭はすぐ花園につながっていて、そこにはいろいろな花がいっぱい咲いていました。ほんのりいい匂いのするバラが低い垣根にからんでいましたし、菩提樹もちょうど花盛りでした。つばめたちはその上を飛び回りながら、さえずっていました。
「ピイチクチ、ピイチクチ、うちの人が帰ってきましたよ」
けれども、それはもみの木のことではありませんでした。
「さあ、いよいよこれから、わたしは生きるのだぞ!」
うれしそうな声を出し、もみの木は思い切り枝をいっぱいに伸ばしました。けれど、やれやれかわいそうに、その枝の先はガサガサに乾ききって、黄色くなっていました。そして自分は庭の隅っこで、雑草やイバラの中に転がされていました。金紙の星はまだ頭のてっぺんについていて、その星は明るいお日さまの光でキラキラと輝いていました。
ところでそのとき、庭にはあのクリスマスの晩、この木の周りを飛び回った元気な子供たちが遊んでいました。するとひとり、一番小さい子が駆け寄ってきて、いきなり金の星をもぎ取ってしまいました。
「ごらんよ、汚い、古いもみの木にくっついていたんだよ!」
その子はそう叫びながら枝を踏みつけましたから、枝は靴の下でポキポキと音を立てました。もみの木は、目の覚めるように美しい花園の中の花を見つめました。そして、みすぼらしい自分の姿を見回してみて、これならいっそ、物置の暗い片隅に放り出されていたほうがよかったと思いました。
それから続けて、森の中にいた時の若い自分の姿を目に浮かべました。楽しかったクリスマスの前の晩のことを思い出しました。でっくりもっくりさんのお話を、うれしそうに聞いていた小ねずみたちのことを思いました。
「もうだめだ、もうだめだ」と、かわいそうなもみの木はため息をつきました。「楽しめるときに、楽しんでおけばよかった。もうだめだ、もうだめだ」
やがて下男が来て、もみの木を小さく折って、ひと束の薪に束ねてしまいました。それから大きな湯沸かし釜の下へ突っ込まれて、カッカと赤く燃えました。もみの木はそのとき、深いため息をつきました。そのため息は、パチパチと弾丸がはじけるような音でした。ですから、そこらで遊んでいる子供たちはみんな駆け寄ってきて、火の中を覗き込みながら「パチ、パチ、パチ」と真似をしました。
もみの木は、あいかわらず深いため息の代わりにパチパチ言いながら、森の中の夏の真昼のことや、星が輝いている冬の夜半のことを思っていました。またクリスマスの前の晩のことや、たったひとつ聞いて、しかもその通りにお話のできるでっくりもっくりさんの昔話のことを考えていました――そうしているうちに、木は燃え尽きてしまいました。子供たちは、やはり庭で遊んでいました。いちばん小さかったその子は、金の星を胸の上につけて遊んでいました。
その星は、もみの木が一生のうちで、いちばん楽しかったあの夜、頭の上で輝いていたものでした。
けれど、いまはそれも、すべてが終わってしまいました。
もみの木も、そしてもみの木が聞かせていたあのお話も、これでおしまいになったのです。
おしまい。
おしまい。
さて、どんなお話も、そうやっていつかはおしまいになっていくものなのですよ。
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