ところがそのとき、不思議なことが起こりました。
上から押さえつけると、あいつの体がスーッと小さくなっていったじゃありませんか。
そして、いつの間にか消えてなくなってしまったのです。
……実に不思議です。
わたしは、わけがわかりません」
警官たちもそれを聞くと、顔を見合わせて黙り込んでしまいました。
骸骨男は、人間にはできない化け物の魔法を心得ていたのでしょうか。
化け物か幽霊でなければ、急に体が小さくなったり消えてしまったりできるものではありません。
「アッ! へんですよ。ここを見てください」
懐中電灯を持ってバスの中を這い回り、調べていた井上君が叫ぶように言いました。
警官たちが近づいて、井上君の指さすところを見ますと、バスの床板に六十センチほどの四角い切れ目があることがわかりました。
「押してみると、ぶかぶかしています。ほら、ね」
井上君が力を込めてそこを押すと、グーッと下へ下がっていくのです。
「アッ、バネ仕掛けの落とし穴だ。あいつはここから逃げたんだな!」
警官がそう叫んで足をふみますと、そこにぽっかり四角い穴が開きました。
骸骨男の体が小さくなったように思ったのは、怪物がそこから下へ抜け出していったからです。
真っ暗なので、そこに穴があることがわからなかったのでしょう。
やっぱり怪物は、お化けや幽霊ではありませんでした。
悪賢い人間なのです。
前もってちゃんとそういう抜け穴を作っておいてから、バスの中へ現れたのです。
これでみますと、今までにたびたび消え失せたのも、みなこれに似たトリックを使ったのに違いありません。
巨大な影
それから警官隊と少年探偵団員は、懐中電灯を振り照らしてバスのまわりの原っぱをくまなく捜し回りましたが、何も発見することができませんでした。
骸骨男はすばやくどこかへ逃げ去ってしまったのです。
そこでみんなはひとまず引き揚げることになりましたが、二人の少年が最後まで残って、誰もいなくなった真っ暗な大テントのそばを歩いていました。
少年探偵団長の小林君と団員の井上君です。
「ぼくは、どうしてもわからないことがあるんだよ。あいつが抜け穴から出たのは確かだけれど、それから先が不思議なんだ」
小林君が深い考えに沈んで、低い声で言いました。
「え、それから先って?」
井上君が聞き返します。
「抜け穴を抜ければ、バスの下へ降りてくるはずだね」
「うん、そうだよ」
「ところが、あのときバスの下へは、誰も出てこなかったのだよ」
「え、どうしてそれがわかるの?」
「ぼくがずっとバスの下に隠れていたからさ。きみがおまわりさんの肩に乗って窓を破るまえからだよ」
「へえ、団長はずっとバスの下に隠れていたの? どうりで、みんなが騒いでいるのに団長の姿が見えなかったんだね」
「そうだよ。誰かひとりはバスの下を見守っていたほうがいいと思ったのさ。だから抜け穴からあいつが出てくれば、ぼくが見逃すはずはなかったんだよ」
「ふうん、変だなあ。やっぱりあいつは忍術使いかしら?」
「そうかもしれない。そうでないかもしれない。明智先生に聞かなければわからないよ。でも、ぼく、なんだか怖くなってきた。本当に怖いんだよ」
勇敢な小林団長がこんなに怖がるなんて、珍しいことでした。
井上君はびっくりしたように小林少年の横顔を見つめました。
するとそのときです。
二人の目の前に、恐ろしい夢のような、実に途方もないことが起こりました。
闇の中にサーカスの大テントがボーッと白く浮き出しています。
そのテントの影から、なんだか灰色の巨大なものがヌーッと現れてきたのです。
三十メートルほど向こうから、人間の何十倍もある巨大なものが、こちらへ近づいてくるのです。小林と井上の二人の少年は、ギョッとしてその場に立ちすくんでしまいました。
巨大な灰色の影は、ゆっくりとこちらへやってきます。
もう十五メートルほどに近づきました。
「あッ、あれはゾウだよ。サーカスのゾウが、おりから逃げだしたのかもしれない」
小林君がささやきました。
なるほど、それは一ぴきの巨大なゾウでした。
しかし、ゾウだとわかると、今度は別の恐ろしさが襲ってきます。踏みつぶされたり、鼻で巻きあげられたりしたら大変だ、という恐怖です。
二人はとっさに逃げだそうとしました。すると、「ケ、ケ、ケ、ケ……」というゾッとするような笑い声が、どこからか聞こえてきたではありませんか。
二人は逃げながら、思わずふりかえりました。
巨ゾウの背中の上に、ふらふらと動いているものがあります。そいつが笑ったのです。
「アッ、骸骨……」
それは、あの骸骨男でした。
いつも着ているオーバーや洋服を脱ぎ捨てて、裸のままゾウの背中にまたがっているのです。
裸といっても、人間の体ではありません。全身が骸骨の体なのです。
白いあばら骨、腰の骨、細長い手足の骨。学校の標本室にある骸骨とそっくりです。その骨ばかりが、ゾウの背中でゆらゆらと揺れているのです。
あいつは、体まで本当に骸骨だったのでしょうか。それとも、骨ばかりの体に洋服を着て、靴をはき、ステッキをついて歩いていたのでしょうか。
二人の少年はあまりの不思議さに、三十メートルほど離れた場所に立ちどまったまま、ぼうぜんとしてこの奇怪な光景を見つめていました。
巨ゾウは少年たちには目もくれず、大テントにそってのそのそと歩いていきます。その背中に、白い骸骨がゾウに乗って散歩でもしているように、のんきそうにふらふらと揺れているのです。
「アッ、わかった。あいつ、黒いシャツを着ているんだよ。シャツに白い絵の具で、骸骨の形が描いてあるんだ」
「なーんだ。じゃあ、やっぱり人間なんだね」
「そうだよ。でも人間だとすると、骸骨よりも恐ろしいよ。化けものや幽霊よりも、もっと恐ろしいのだよ」
小林君は、いかにも怖そうにささやくのでした。
「ケ、ケ、ケ、ケ、ケ……」
ゾウの上の骸骨が、また不気味な笑い声をたてました。
そして、なにか白いものをサーッとこちらへ放り投げてきたではありませんか。
それは四角い西洋封筒のようなものでした。真っ暗な空中をひらひらと飛んで、二人の少年とゾウとの中間あたりの地面に落ちました。
そして、二人の少年があっけにとられて立ちすくんでいるあいだに、巨ゾウはテントにそってだんだん向こうへ遠ざかっていき、灰色の巨体が闇の中へぼーっと溶け込んで、見えなくなってしまいました。
それを見送ると、二人は恐ろしい夢からさめたように、闇の中で顔を見合わせました。
「テントの中に、おまわりさんが二人残っているから、すぐに知らせよう」
二人は急いで地面に落ちている封筒のようなものを拾い上げると、大テントの入り口に向かって駆け出しました。
テントの中の幕で仕切った小部屋のような場所に、二人の警官が腰かけていました。そこだけに小さな電灯がついています。
二人は警官のそばへ行って今のできごとを詳しく話し、拾った封筒を差し出しました。
警官の一人がそれを受け取って開いて見ますと、中には次のような異様な文章が書かれた紙が入っていました。
「笠原太郎君。
数日中に恐ろしいことがおこる。
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