「アッカやユクシやモルテンみたいなすごい鳥を撃とうだなんて、とんでもない話だ! 人間たちがすることは、まったく馬鹿げているよ!」
こうして再び、ニールスとガンの一行は静かな空を飛んでいきました。
あたりは前と同じように、またひっそりと静まり返りました。
ただ、疲れ切った鳥たちはときおり、「すぐには行けないんじゃないの? 本当にこの道で合ってるのかい?」と叫びました。
すると、一番先頭を飛んでいる鳥たちが、「この道をまっすぐ行けばエーランド島だよ! この道をまっすぐ行けばエーランド島だよ!」と答えました。野ガモたちは、疲れきってしまいました。そのとき、そばをウミガモが通りすぎました。
「そんなにいそがないでくれよ!」と、野ガモたちはウミガモにむかってさけびました。「きみたちは、われわれが着くまでに、たべものをみんなたべちまう気かい?」
「なあに、あそこにはたべものがたくさんあるから、だいじょうぶさ」と、ウミガモたちは答えました。
ところが、ぼつぼつエーランド島が見えようというころ、まむかいから軽い風が吹いてきました。そしてそれといっしょに、白い大きな煙の雲のようなものが、もくもくとやってきました。まるで、どこかに火事でもおこっているようです。
鳥たちはこのうずをまいている煙に気がつくと、心配になって、とんでいく力をはやめました。けれども、その煙のようなものは、だんだん濃くなってきます。そして、とうとうしまいには、みんなをすっかりつつんでしまいました。
でも、煙のようなにおいはしません。そして黒くも、乾いてもいず、白くて、しめっています。それで、ニールスは「ははあ、これはただの霧なんだな」と、すぐに気がつきました。
霧は一寸さきも見えないくらい濃くなってきました。と、どうでしょう、鳥たちはまるで気でもちがったようになりました。いままではあんなに、きちんと行儀よく飛んでいたのに、こんどは、みんながみんな、霧の中でふざけはじめたのです。勝手気ままに、あっちへ飛んだり、こっちへ飛んだりして、たがいにほかの仲間を迷わそうというのです。
「おーい、気をつけろよ!」と、鳥たちはさけびます。「きみたちは、おんなじ所をぐるぐるまわってばかりいるじゃないか。それじゃ、とてもエーランド島へは、いかれっこないぜ。さあ、さあ、むきをかえたり、かえたり!」
エーランド島がどこにあるかは、みんなちゃんと知っているのですが、たがいに仲間を迷わそうとしてやっきになっているのです。
「あのオナガガモを見ろよ!」と、霧の中からさけぶ声が聞こえます。「北海のほうへ逆もどりしているじゃないか!」
「おーい、ガンの諸君、気をつけたまえよ!」と、また違ったほうからだれかがさけびます。「そんなほうへいくと、リューゲンへいっちまうぜ!」
もちろん、このあたりを旅なれている鳥たちは、まちがった方向にさそいこまれるようなことはありませんが、こまりきっているのはニールスの仲間のガンたちです。
おどけものの鳥は、ガンたちが道に不案内なのを見てとりますと、さかんにガンたちを迷わせようとします。
「もし、ガンさん、どこへいらっしゃるんです?」と、一羽の白鳥が呼びかけながら、アッカのところへ近よってきました。いかにも、同情ぶかい、まじめな顔つきをしています。
「エーランド島へいこうと思っているんですが、はじめてなものですから」と、アッカは答えました。この白鳥なら、信頼してもいいだろうと思ったのです。
「そいつはいけませんよ」と、白鳥は言いました。「あなたがたは、まちがった方向へさそいこまれたんですね。この道をいけば、ブレーキンゲへでてしまいますよ。さあ、わたしといっしょにいらっしゃい。道案内をしてあげましょう」
それから、白鳥はガンの一隊といっしょに飛んでいきました。そして、ほかの鳥たちのさけび声も聞こえないほど遠くまで、まちがった方向にひっぱっていってから、とつぜん霧の中に姿を消してしまいました。
ガンたちは、しばらくのあいだ、むちゃくちゃに飛びまわったあげく、やっとのことで、ほかの鳥たちを見つけました。するとこんどは、一羽のカモが近づいてきました。
「あんたがたは、霧がはれるまで、水の上におりて休まれるほうがいいんじゃありませんか。どうも、あまり旅なれてはいらっしゃらないようだから」
こんないたずらものたちが、もののみごとに、アッカをまごつかせてしまいました。ニールスが見ていると、ガンたちは同じところを長いこと、ぐるぐる、ぐるぐるまわっています。
「おーい、気をつけたまえよ! きみらは、上へいったり、下へいったりしているだけじゃないか」と、一羽のウミガモがそばを飛びすぎながらさけびました。
ニールスは思わずしらずガチョウの首ったまにしっかりとしがみつきました。もうさっきから、こんなことではなかろうかと、心配していたのです。
もしもそのとき、遠くのほうで、ズドンというにぶい大砲の音がきこえなかったなら、いったい、いつになってエーランド島へいけたことやら、わかったものではありません。
そのとき、アッカは首をのばし、つばさを力づよく打って、全速力で飛んでいきました。いまこそ、いくべきところがわかったのです。アッカは灰色ガンから、エーランド島の南のはしにおりてはいけない、そこには大砲がすえつけてあって、人間がそれを射って霧を散らすのだ、と教わっていたのでした。
だからアッカには、これですっかり方角がわかったのです。
もうこうなれば、だれにも迷わされるようなことはありません。
11 エーランド島の南のはし
四月三日 日曜日より 六日 水曜日まで
エーランド島のいちばん南のはしに、オッテンビューという、古い王家の領地があります。
これは島をよこぎって、岸から岸へとひろがっている、かなり大きなものです。
ここには、ふしぎと、いつもたくさんの動物たちが住んでいます。
十七世紀には王さまたちがエーランド島へよく狩りにおいでになりましたが、そのころは、領地ぜんたいがシカの猟苑になっていました。
それが十八世紀になりますと、競馬用の駿馬を飼っている飼養場や、いく百という羊のむらがっている飼羊場となりました。
いまでは、いちばん東の岸にそって古い牧羊場がありますが、それは長さが四分の一マイルもあって、エーランド島一の大きな牧場です。
そこでは、家畜たちがちょうど野原にいるのとおなじように、すきなように草をたべたり、遊んだり、駈けまわったりしています。
それから、そこには、百年もたったかと思われるカシワの木の森があります。
これが、有名なオッテンビュー森で、この森の大きな木々は、動物たちに日かげをつくってくれますし、はげしい風をもふせいでくれます。
もう一つ忘れてはいけないのは、オッテンビューの長い垣です。
これは島をよこぎって、オッテンビューとほかの土地との境になっています。
そして、この垣のおかげで、動物たちは、古い王家の領地の境めを知るのです。
この古い領地には、野生の動物たちも、たくさんむれをなしてやってきます。
そのほか、むかしいたシカの子孫も、まだ生きのこっています。
コメント