初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第38話

ニールスのふしぎな旅

その上、春や夏のおわりごろには、ここは、いく千という渡り鳥の休み場所になります。
ことに、牧羊場の下の沼の多い東の岸には、たくさんの渡り鳥が舞いおりて、草をたべたり、休んだりします。
ガンたちとニールス・ホルゲルッソンが、やっとの思いでエーランド島にたどりついたときも、ほかの鳥とおなじように、みんなは牧羊場の下の海べにおりました。
島の上も、海の上とおなじで、一めんに濃い霧がたちこめていました。
ところが、ニールスは、岸を見たとき、アッと驚いてしまいました。
なぜって、そこには、目のとどくかぎり、かぞえきれないほどの鳥が、うじゃうじゃしているではありませんか。
見れば、長い砂浜があって、そこには石や水たまりがあり、たくさんの海草が波にうちあげられています。
もしもニールスが、すきなようにおしと言われたら、とてもこんなところへおりる気にはなれなかったでしょう。
ところが、鳥たちのほうでは、ここをほんとうの楽園とでも思いこんでいるようすです。
カモや灰色ガンは、草地でさかんに草をたべています。
水ぎわでは、シギやそのほかの海鳥たちが、はねまわっています。
ウミガモは水の中にもぐっては、魚をつかまえています。
なにしろ、ここにはたべものがどっさりあるので、たべものに不足したというような話は、まだきいたことがありません。
たいがいの鳥は、これからもまだ旅をつづけるのです。
ですから、ちょっと休むために、ここへおりているのです。
それぞれのむれの隊長は、仲間のものが十分に元気をとりもどしたとみてとると、
「みんな、もういいかい? よければ、出かけるとしよう。」と、言うのでした。
「いいえ、待ってください、待ってください! まだそんなにたべていないんですよ!」と、仲間のものは言いました。
「おまえたち、まさか動けなくなるまで、たべさせてもらえると思っているんじゃないだろうな?」
隊長はこう言うと、羽ばたきして飛びたちました。
けれど、すぐまた戻ってこなければなりませんでした。
だって、ほかのものたちが、あとにつづかないのです。
波うちぎわの海草の山の下には、一むれの白鳥がいました。
白鳥たちは陸の上にいかないで、波にゆられながら休んでいました。
そして、ときどき長い首を水の中につっこんでは、海の底からたべものをひろいあげました。
なにかすばらしいえものをつかまえたときには、まるでラッパのような大きなさけび声をあげて喜びました。
ニールスは、浅瀬に白鳥たちがいると聞きましたので、さっそく海草の山のほうへおりていきました。
まだ一ども野生の白鳥をそばで見たことがないのです。
そして、さいわいにも、きょうは、すぐそのそばまで近よることができました。
白鳥がいるという話を聞いたのは、ニールスひとりではありませんでした。ガンをはじめ、灰色ガンもウミガモも、いそいで海草のほうへ泳いでいきました。そして、みんなは白鳥たちのまわりにぐるっと輪になって、じっと白鳥たちを見つめました。白鳥たちははね毛をさかだて、つばさを帆のようにひろげて、首を高くのばしました。そして、ときどきそのなかの一、二羽が、ガンのところへいったり、大きなウミガモのところへいったり、また、モグリドリのところへいったりして、なにやら話しかけました。すると、話しかけられたほうは、気おくれがしてしまって、返事をするために、くちばしをひらくことさえできないようでした。

岸近くの海の上を、カモメとウミツバメが飛びまわって、魚をとっていました。
「どんな魚をとっているんです?」と、一羽のガンがたずねました。
「トゲウオだよ。エーランド島のトゲウオだよ。世界一のトゲウオさ。まだ、たべたことがないのかい?」と、一羽のカモメが答えました。
そして、その小さな魚を口いっぱいくわえて飛んできて、ガンにやろうとしました。
「ウワァイ! そんなきたない魚がくえるかい?」と、ガンは答えました。

つぎの朝は、くもっていました。ガンたちは、牧場へいって、たべものをひろいましたが、ニールスは浜べへいって貝を集めました。そこには、貝がたくさんありました。あしたは、きっと、たべもののないところにいくだろうと思いましたので、貝を持っていけるように、小さな袋をこしらえようと思いました。牧場でじょうぶな枯れたスゲを見つけて、それで旅行用の袋をあみはじめました。なん時間もかかって、やっとつくりあげましたが、ニールスは、それに、たいへんまんぞくしました。

お昼ごはんのころ、ガンたちが、みんなでそろって走ってきました。そして、白いガチョウを見なかったかとたずねました。
「いいや、ぼくといっしょじゃなかったよ」と、ニールスは答えました。
「ついさっきまでは、わたしたちといっしょだったんですが、どこへいったか見えなくなってしまったんですよ」と、アッカが言いました。

ニールスはびっくりして、思わずとびあがりました。キツネかワシでも出てきたのではないだろうか、それとも、人間でも近くにきたのではないだろうかと、ガンたちにたずねてみましたけれども、ひとりとして、そんな危険なものを見たものはありません。おそらく、ガチョウは霧の中で道に迷ったのでしょう。それはそうとしても、ともかくガチョウがいなくなってしまったということは、ニールスにとっては、たいへんな災難です。そこで、さっそく、さがしに出かけました。

霧がかかっているので、だれからも姿を見られずに、どこへでも走っていくことができましたが、ニールス自身も、霧のためにさきをよく見とおすことができません。ニールスは、海岸にそって南のほうへ走っていきました。そして、いちばん南のはしの燈台や霧を散らすために打つ大砲のところまでいってみました。あっちにもこっちにも、鳥がたくさんいますが、ガチョウの姿はどこにも見えません。で、思いきって、オッテンビューの領地の中にはいっていきました。そして、オッテンビュー森の中を、のこらずさがしてみましたが、やっぱりガチョウの足あと一つ見あたりませんでした。

ニールスが、むちゅうになってさがしているうちに、いつのまにか暗くなってきました。もう東の岸にもどらなければなりません。足をひきずるようにして、みじめな気もちで歩いていきました。ああ、ガチョウが見つからなかったら、いったいどうなるだろう。なんとかして、見つけださなければならない。じぶんのためばかりでなく、大すきなガチョウのためにも!

ところが、牧羊場を歩いていきますと、霧の中を、なにか大きな白いものが、こっちへむかってくるではありませんか。それこそ、ガチョウでなくてなんでしょう? ガチョウは、ぶじだったのです。そしていま、ようやくのことで、みんなのところへ帰る道が見つかったものですから、たいそう喜びました。霧のためにすっかり迷ってしまって、一日じゅう、広い牧場をうろつきまわっていたということでした。ニールスは、うれしさのあまり、ガチョウの首のまわりに腕をまきつけて、これからは気をつけて、もうみんなから離れないようにしてくれ、とたのみました。するとガチョウは、もう二どとこんなことはしない、けっして、けっしてしない、と、かたく約束しました。

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