初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第51話

ニールスのふしぎな旅

しかし、なによりもまずいのは、ある地方では水が多すぎるというのに、ある地方では少なすぎるということでした。なぜって、水の少ない地方では田畑がかわききった荒れ地のようなありさまで、ほんのちょっとでも風が吹こうものなら、たちまち土や砂がもうもうとまきあがってしまうのですもの。

「いったい、どういうつもりでこんな土地をこしらえたんだね?」と、神さまがおききになりました。するとペテロは、実は土地を高く積み上げて、太陽の熱をたくさん受けられるようにしたかったのだ、と言い訳をしました。
「だがね、それなら、夜の冷気もたくさん受けることになるだろう」と神さまはおっしゃいました。
「夜の冷気だって、空から降りてくるのだからね。これでは、ここに生えるわずかな植物も、みんな凍えてしまいはしないだろうか」
こうしたことまで、ペテロはまったく考えていなかったのです。
そして神さまは、「ここは霜がよく降りる、やせた土地になってしまうだろう。しかし、今さらどうすることもできない」とおっしゃいました。

マッツがここまで話したとき、ねえさんのオーサが言葉をはさみました。
「あたし、たまらないわ! だって、あんたの話を聞いていると、スモーランドがとてもみじめな土地みたいに聞こえるもの。あんたは、あそこにもいい土地がたくさんあるのを忘れているのね。ねえ、カルマール海峡の近くにあるメーレ地方を思い出してごらん! あそこくらい肥えた土地が、どこかにあるかしら? あそこにも、このスコーネと同じように畑がいっぱいあるじゃない。それに、とってもいい土地なんだから、どんなものだってきっと育つと思うわ」
「だって、しようがないよ」と、マッツは言いました。「ぼくは、人から聞いた話をそのまま話しているだけなんだもの」
「それにね、あたしはユストのような美しい海岸はどこにもないって、大勢の人たちが言っているのを聞いたわよ。あの湾や、島々や、荘園や、森を考えてみてよ」と、オーサは続けました。
「うん、本当にそうだね」と、マッツは言いました。
「それから、あんたは先生のおっしゃったことを忘れたの? ヴェッテルン湖の南の地方のように、いきいきとして絵のように美しい場所は、スウェーデンじゅうどこを探してもないっておっしゃったじゃないの。あの美しい湖や、岸ぞいに並ぶ黄色の山々や、マッチ工場のあるエンチェーピングや、ムンク湖を思い出してごらん。それからフースクヴァルナや、あそこにある大きな工場のことだって!」と、オーサは熱心に続けました。
「うん、本当にそうだ」と、マッツはもう一度言いました。
「それから、まだまだあるわよ。あのヴィシングエーはどう? あそこには廃墟や、カシワの森や、昔からの言い伝えがあったわね。それから、エム川が流れるあの谷も思い出してごらん。村や、製粉所や、製材所や、指物工場がいくつもあったでしょう!」
「うん、本当にそうだ」マッツは困ったような顔をしながら、またもやそう繰り返しました。

そのとき、とつぜんマッツは顔をあげて叫びました。
「そうだ、ぼくたちうっかりしていたんだ。それはみんな、もちろんスモーランドにあるよ。でもそれは、ペテロが仕事をはじめる前に、神さまが最初におつくりになった土地の方のことなんだ。だから、そこが美しくて立派なのも当たり前なんだよ。けれども、ペテロがこしらえたスモーランドの方は、やっぱり言い伝えにあるとおりさ。だから、神さまがそれをごらんになったとき、悲しまれたのも無理はないんだ」
マッツは物語の糸口を取り戻すと、また話を続けました。
「ペテロは失敗したけれど、気をおとさずに、かえって神さまをなぐさめようとして『そんなに悲しまないでください! しばらく待ってくだされば、わたしが沼地をたがやし、石だらけの山を切りひらいて、畑にする人間をつくりますから』と言ったんだ。けれども、神さまはもう我慢ができなかったので、こうおっしゃった。『いや、おまえはわしが肥えたよい土地としてこしらえたスコーネにおりていって、スコーネ人をつくるがいい。スモーランド人は、わしがつくるから』。こうして、神さまは貧しい土地でも暮らしていけるように、賢くて、まじめで、しかもほがらかで、勤勉で、役に立つスモーランド人をおつくりになったのさ」

ここまで話すと、マッツはいつも黙り込んでしまうのでした。
そしてニールス・ホルゲルッソンも、そのまま黙っていれば何ごともなかったはずです。ところがニールスは、ペテロの方はうまくスコーネ人をつくれたのかと、聞かずにはいられませんでした。
「ふん、きみは自分のことをどう思うんだい?」と、マッツはいかにも馬鹿にしきった顔つきでたずねました。
ニールス・ホルゲルッソンは、もう我慢ができません。たちまちマッツにおどりかかって、なぐりつけようとしました。けれども、マッツはまだ小さな子供です。それを見た一つ年上のオーサが、すばやく駆け寄ってきました。オーサは普段はおとなしい子ですが、だれかが弟に手をかけようとすると、たちまちライオンのように怒るのでした。
ニールス・ホルゲルッソンは、女の子とけんかをする気にもなれません。
それで、そっぽを向いて、その日は一日中、このスモーランド生まれの子どもたちのほうは見向きもしないのでした。

16 カラス

土のかめ

スモーランドの西南の端に、スンネルブーという地方があります。
そこは、ずっと平地になっています。
ですから、冬、雪におおわれているときには、だれでも、その雪の下には、ほかの平地とおなじように、休閑地や、ライムギ畑や、クローヴァの生えた牧場があるものと思います。
ところが、四月のはじめになって、この地方の雪がとけてしまいますと、雪の下にかくされていたものは、かわいた、砂だらけの荒れ地と、はだかの岩と、大きな沼地ばかりであることがわかります。
畑もあっちこっちにありはしますが、とても小さなものなので、とくにとりたてて言うほどのものではありません。
それから、赤や灰色の小さな農家も、ところどころに見られますが、まるで人に見られるのをこわがってでもいるように、たいていのものがブナの森の中にかくれています。

スンネルブー地方が、ハルランドと接するところには、砂だらけの荒れ地がひろがっています。
そこは、端から端まで見とおすことができないくらい広いものです。
この荒れ地には、ヒースのほかは何も生えていません。
ですから、ここにほかの植物を茂らせるのは、たいへんなことでしょう。
そのためには、まず第一に、ヒースを根だやしにしなければなりません。
ヒースというのは、根も枝も葉もちっぽけで、ちぢこまっているくせに、まるで自分では一人前の木のようなつもりでいるのです。
だから、ほんとうの木のように、まるで森みたいに、そこらじゅうにひろがって、しかも、しっかりとかたまっているので、その荒れ地の中にはいってくる木は、どんなものでもみんな枯らされてしまうのです。

この荒れ地の中で、ヒースのはびこっていないところが一つだけありました。
そこは、荒れ地をよこぎっている、低い、石だらけの山地でした。
そこには、マツ林があり、また、ナナカマドや、大きな美しいブナの木も数本生えていました。

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