初級翻訳・ルルとミミ 第3話

ルルとミミ

……ここは、ふつうの人間が簡単には来られない場所なのに……と心の中で思いながら、女王様はミミにこう問いかけました。
「お前は、どこの娘さんなのかえ?」
ミミは丁寧にお辞儀をしました。そして、涙をいっぱいにためてお願いしました。
「私はミミと申します。ルル兄さまに会いにまいりました。どうか、会わせてくださいませ」
「おお、お前がルルの妹かえ」
そう言って、女王様はミミを抱き寄せました。そして、しっかりと抱きしめながら、静かな声で言われました。
「お前がルルの妹かえ。お前が……お前が……まあ、なんて可愛らしい娘さんでしょう。ルルがあなたのことを恋しがるのも無理はありません。悲しむのも無理はありません。あなたも、さぞかし悲しかったでしょう。寂しかったでしょう。そして、私を恨んでいたでしょうね。許しておくれ、許しておくれ」
女王様は、水晶のような涙をハラハラとこぼし、ミミの髪の上に落としました。
ミミは泣きじゃくりながら顔を上げて、女王様に尋ねました。
「女王様。女王様は本当に……私たちを陸へ帰してくださるのですか」
「もちろんですとも、もちろんですとも。私がたった今つぶやいた独り言は、すべて本当のことですよ。あのルルが来て、あの噴水を直してくれなければ、この湖に住む生き物たちはみんな死ななければならないのです。だからこそルルを呼びました。だからこそ、あなたにも悲しい思いをさせてしまったのです。どうか、どうか許してくださいね。それにしても、あなたはよくやってきました。よくお兄さまを迎えに来ましたね。きっと二人を陸へ帰してあげますよ。あなたたちのお父さんのように、悪い魚に食べられないようにして……そうして、陸へ帰った暁には、鐘もちゃんと鳴るようにしてあげますからね。なれども、ルルがあの噴水を修理し終えるまでは待っていておくれ。それも、もう長いことではありませんよ。ミミよ、お聞きなさい。あのルルの打つ金槌の音の、なんと勇ましいことでしょう」
女王様とミミは涙に濡れた顔を上げて、ルルが振る金槌の音を聞きました。
ルルは湖の御殿の噴水を、一生懸命に修理していました。もう二度と再び壊れることのないように、そして、陸の鐘作りや鍛冶屋さんが、これ以上この湖の女王様に呼ばれることがないようにと、命がけで働きました。そのうち、金槌を振るう音は、湖のふちにある魚の隠れ家やカニの穴までも染み渡るほど、高く高く響き渡りました。

「カーンコーン、カンコン。ミミと別れてこの湖の、底で打ち振るこの槌の音、ルルが打ち振るこの槌の音。カーンコーン、カンコン。泣いて打ち振るこの槌の音、泣いて叩いてこの湖の、水を澄ませやこの槌の音。カーンコーン、カンコン。ミミに会いたい、あの妹に。故郷へ帰りたい、あの故郷へ。そして聞きたい、あの鐘の音を」

ルルはついに、噴水を立派に修理し終えました。玉のように澄み切った水の泡が、嬉しそうにキラキラと輝きながら、空へ、空へと渦を巻いてのぼっていきました。その真上の濁った水が、新しく噴き上がった水に追い出されて、そこからは明るい月の光と清らかな星の光が流れ込んできました。もうこれから何万年経っても、この噴水が壊れることはあるまいと思われました。
湖の御殿の真珠の屋根は、月と星の光を受けて、見る見るうちに輝き始めました。瑠璃の床、青玉の壁、翡翠の窓、そんなものがみんな、それぞれの色を放ち始めました。
湖の女王のたくさんの家来たち――赤や青や、紫や、黄金色の魚たちは、みんなビックリした目をキョロキョロさせて、われもわれもと列を組んで御殿のまわりに集まってきました。その様子は、まるで虹が泳いでくるようでした。
湖の女王様は手を上げてその魚たちを呼び集め、これからルルとミミにできるだけ立派なご馳走をするのだから、その支度をするようにと命じられました。
湖の御殿の噴水を立派に直したルルは、もう歩くことができないほど疲れていました。けれども……「この噴水がもう二度と再び壊れないようになった……この湖の中にいる数え切れないほどの生き物たちの命は助かった……そうして、これから先何万年経ってもこの水は濁らない……村に悪いことも起きないのだ……」と思うと、ルルは嬉しくてたまりませんでした。
その嬉しさのあまり、疲れた体を踊らせながら、女王様の前に戻ってきました。その時、ルルは今まで見たこともないような、美しい御殿の様子に気がつきました。
御殿の大広間は、夜光虫の薄紫の光で夢のように照らされていました。広い広い部屋いっぱいに飾られた水草の白い花は、ほのかな香りを一面に漂わせていました。その中に群れ集まる、何万とも何億とも知れない魚の数々。その奥の奥に見える、紫水晶の階段。その上に立っている女王様のお姿。そして……もう一人、美しい女の子の姿……ミミ……。
ルルは思わず壇の上に駆け上がってミミを抱きしめました。ミミもしっかりとルルの首にすがりつきました。虹のようにじっと並んでいた数え切れないほどの魚たちが、この時ゆらゆらと動き出しました。
青、赤、紫、緑、黄色、銀色、銅色、黄金色と、色とりどりの魚たちが、同じ色同士で行列を作って、縞模様になったり、渦を巻いたりしました。
あるいは花の形を作ったり、鳥の形を作って見せたり、最後にはみんな一緒に入り乱れて、一つひとつがキラキラとひるがえる美しさでした。
その間を飛び交い、混ざり合う数え切れない夜光虫の光。
それはまるで、世界中が金糸銀糸の衣をまとって踊り出すかのようでした。
ルルとミミは抱き合ったまま、夢を見ているかのように見とれていました。
その前には、数え切れないほどのご馳走が並べられました。
月の光はますます明るく御殿の中に差し込みました。
そうして、女王様の嬉しそうな表情や立ち姿を、神々しいまでに照らし出しました。
そのうちに、月の光がだんだんと西の方へ傾いていきました。
ルルとミミが陸へ帰る時がやってきたのです。
二人は女王様から貸していただいた、大きくて美しい海月に乗って、湖の御殿の奥庭から陸の方へおいとまをすることになりました。
女王様はルルとミミをもう一度抱きしめて、頬ずりをされました。
そうして、こんなお祈りをされました。
「この美しい兄妹は、この先どんなことがあっても離れ離れになりませんように」
ルルもミミも、女王様のことが名残惜しくなりました。
なんだかいつまでもこの女王様に抱かれて、可愛がっていただきたいような気持ちになり、涙をホロホロと流しました。
けれども女王様は二人をそっと抱き上げて、海月の上にお乗せになりました。
「海月よ。
お前は絶えず光りながら、この兄妹を水の上まで送り届けよ。
そうして、悪い魚が近づかないように毒の針を用意して行くのですよ」
海月は黙って浮き上がりました。
咲き揃った水藻の花は、二人の足元をどんどん後ろへと流れていきました。
御殿の屋根はバラ色や真珠色に輝きながら、水の底の方へ小さく小さくなっていきました。
宝石をちりばめたような、海月の足の下の世界へ……。

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