初級翻訳・ワンダ・ブック――少年・少女のために―― 第45話

ホーソーン ナサニエル

「ええ、坊や」と、彼の巻毛の一つを冗談に引っぱりながら、ベレロフォンは言いました。「君は翼の生えた馬を幾度も見たんじゃないかね?」

「見たよ」と、待ちかまえていたように、子供は答えました。「僕は昨日もそれを見たし、その前にだって幾度も見たよ」

「君はなかなかいい子だ!」ベレロフォンは彼を近く引きよせながら言いました。「さあ、その話をすっかり聞かせてくれたまえ」

「あのう、僕ねえ」子供は答えました。「泉でおもちゃの舟を走らせたり、底からきれいな小石を拾ったりしに、よくここへ来るんだ」そして、水の中をのぞきこむと、そこに映っている空の影の中に、ときどき翼の生えた馬の姿が見えるんだよ。
僕はね、その馬がおりてきて、僕を背中に乗せて、お月さままで飛んでいってくれたらいいのになあって思うんだ! でも、僕がその馬を見ようとして少しでも体を動かすと、もうどこか遠くへ飛んでいってしまって、見えなくなっちゃうんだよ。」

そしてベレロフォンは、荷馬車をひく馬しか知らないような中年の田舎者や、若いころの美しい思い出を忘れてしまったおじいさんたちの言葉よりも、水に映ったペガサスの姿を見たという子供と、それがとてもすてきな声でいななくのを聞いたという娘のほうを信じました。
そこで彼は、その後何日も何日も、ピリーニの泉のほとりへ、たびたび出かけていきました。
彼は翼のある馬の水に映る姿か、あるいはその不思議な実物を見たいと思って、絶えず注意をはらい、空を見上げたり、水の中を見下ろしたりしていました。
彼は光り輝く宝石と金のくつわがついた馬勒(ばろく)を、いつか使う時のために、いつも手に持っていました。
近くに住んでいて、牛を連れて泉へ水を飲ませにくる村人たちは、たびたび気の毒なベレロフォンをあざ笑ったり、時には彼を責めたりしました。
彼らはベレロフォンに、彼のような立派な体格の若者は、そんなつまらないことに時間を無駄にしないで、もっとまともな仕事をするのが本当じゃないかと言いました。
彼がもし馬を必要としているなら、売ってやろうとまで言いました。
ベレロフォンが「馬なんて買わない」と断ると、彼らは「それなら、その立派な馬勒を売らせてくれないか」と食い下がりました。
村の子供たちまでが、ベレロフォンをひどい馬鹿だと思ってしまい、彼の真似をしてふざけまわって、失礼なことに彼がそれを見ていても聞いていても、一向に平気でした。
たとえば、一人の小さな男の子は、ペガサスが飛んでいるところだと言って、思いきり変な格好をして跳びまわり、そのあとを学校の友達が、ベレロフォンの持っている立派な馬勒のつもりで、蒲(がま)の茎をよじったものを一本持って、ばたばたと追いかけっこをしていました。
しかし、そうした意地悪な子供たちがみんなでその見知らぬ青年をからかう以上に、あの「水の中にペガサスの影を見た」というおとなしい子供だけは、彼を慰めてくれました。
このかわいい少年は、遊んでいるときによく彼のそばへ来て座り、一言もしゃべらずに、実に無邪気な真剣さで泉の中を見下ろしたり空を見上げたりしているので、ベレロフォンも元気が出てくるのを感じずにはいられませんでした。

さて、君たちはどうしてベレロフォンが翼のある馬をつかまえようとしたのか、そのわけを聞きたいと思うでしょう。
その話をするには、彼がペガサスの現れるのを待っている今ほど、良い機会はありません。
もし僕がベレロフォンのこれまでの冒険をすっかり話してしまったら、それだけでとても長い長いお話になってしまいます。
だから、アジアのある国に「カイミアラ」という恐ろしい怪物が現れて、日が暮れるまでの間にはとても話しきれないほどの悪さをしていた、ということだけで十分でしょう。
僕が読んだなかでも一番良い本によると、このカイミアラというのは、今までに土から生まれた生き物のなかでも、断然とまではいかなくとも、おおよそ一番みにくく、有毒で、もっとも奇妙で不思議な怪物でした。相手にするにはこれほど厄介なものはなく、逃げようとしてもなかなか逃げられない代物だったのです。
それは尻尾が毒ヘビのようで、胴体は何に似ているとも言いようがない格好で、頭は三つもありました。その一つは獅子、二番目は山羊、三番目はおそろしく大きな蛇の頭でした。
そして、熱い火の息が、それぞれの三つの口から燃え出していたのです! 地上の怪物ですから、翼があったかどうかは知りません。
しかし、翼があったにせよなかったにせよ、それは山羊や獅子のように走り、蛇のようにのたうちまわるという風で、それら三つの生き物の特徴をすべてうまく合わせたかのように速く動きまわりました。
ああ、この凶悪な動物は、実に限りない害を及ぼしました! その燃える息吹で森林を火の海にし、穀物畑を焼き尽くし、さらには村をも、垣根や家もろともに焼き払いました。
あたり一帯を焼き野原にしてしまったうえに、人間や動物を丸のみにして、それから腹の中の「かまど」で料理してしまうのです。
恐ろしいでしょう、君たち! 僕たちはお互いに、カイミアラのようなものには出会いたくないものですね。
この憎むべきケモノ(無理にでもケモノと呼べるならですが)が、いろいろと恐ろしいことをやっている最中に、ちょうどベレロフォンがその国の王様を訪ねてやってきました。
その王様の名前はアイオバティーズといい、治めている国はリシアといいました。ベレロフォンは、この世でも指折りの勇気ある青年でした。彼が何よりも望んでいたのは、世界中の人々にほめられ、愛されるような、勇ましく、誰かの役に立つ手柄を立てることでした。
その時代、若者が名前を上げるためには、国を守るために敵と戦うか、恐ろしい巨人や巨大な蛇を退治するか、それ以上の危険な相手が見つからない時には、猛獣を倒してその強さを見せつけるほかありませんでした。
アイオバティーズ王は、この若い客人の勇気を認め、彼に「行って、あのカイミアラを倒してきてくれないか」とすすめました。
カイミアラは誰もが恐れる存在で、そのまま放っておけば、リシアの国はすべて荒野にされてしまいそうだったからです。
ベレロフォンは少しもためらわず、みんなが恐れるカイミアラを倒すか、それとも戦って自分が死ぬか、どちらかだと王様に約束しました。
しかし、まず第一に、その怪物は信じられないほど足が速いので、徒歩で戦って勝つことはとうてい無理だと思いました。
だから、一番賢いやり方は、どこかでとびきり足の速い名馬を見つけてくることだと考えました。
ところが、足があるだけでなく翼まで生えていて、地面を走るよりも空を飛ぶほうがずっと得意という、あの不思議な馬ペガサスほど速い馬が、世界中どこを捜してもいるでしょうか? 実際、ほとんどの人は「翼の生えた馬なんてあるわけがない。ペガサスの話なんて、ただの作り話でデタラメだ」と言いました。
それでもベレロフォンは、どんなに不思議に思えても、ペガサスは本当に存在する名馬だと信じていましたし、なんとかして自分の手で見つけ出したいと願っていました。
もしその背中にしっかりとまたがることができれば、カイミアラとの戦いも有利に進められるはずだと考えたのです。

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