初級翻訳・「子猫ノハナシ」 第2話

「子猫ノハナシ」

それなら紙を、ということで小さな手帖を出し、文字が書けるような位置にだれかが手でそっと支えてあげると、先生はしばらく何かを考えている様子で、やがて鉛筆を動かして何かを書かれました。
そばにいた人たちはみんな息をひそめて見守っていましたが、先生は鉛筆をパタンと落とし、疲れたように再び目を閉じられました。
みんなは、それがきっと「遺言」なのだと思いました。
その手帖をさっと受け取って妹さんが読み、そして次から次へとそばにいた人たちも読みましたが、誰もがみんな首をかしげました。
手帖には、とてもはっきりとした文字で、「子猫ノハナシ」と書いてあったのです。
先生はそれきり二度と目を開けることはなく、そのまま眠り続け、翌朝に亡くなられました。
妹さんはすっかりがっかりし、お留守居の女性は面白がりながら、この不思議な出来事を私たちお弟子に話してくれました。
新聞記者も二人ほどやって来て、「子猫ノハナシ」とはいったい何なのだろうと不思議がっていましたが、それはただ先生の夢の中のお話だったのだろうということで、それきりその後の話はありませんでした。
お葬式はとても立派で賑やかなもので、私たちお弟子もみんなで力を合わせてお寺へと見送りに行きました。
長い年月が過ぎた今でも、私は時々先生のことを思い出します。ピシリとまっすぐに座っていらっしゃる先生の静かなお姿と、そしてあの最後の「子猫ノハナシ」のことを。
私もいつか、さめない眠りの中で、あの童話のような子猫の世界へ遊びに行くことができたなら、それはとても幸せなことだろうなあと思ったりするのです。

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