初級翻訳・うさぎと はりねずみ 第1話

うさぎと はりねずみ

みなさん。
このお話は、ウソみたいに聞こえるかもしれないけれど、本当のお話なんですよ。
ぼくはこのお話を、おじいさんからききました。
おじいさんは、お話をしてくれるとき、いつでもいつも、こう言っていました。
「これはねえ、ぼうや。
まちがいなく、本当のお話なんだよ。
こうするほかには、お話しようがないんだからな。」

さて、そのお話というのが、こういうわけなのです。
秋のある日曜日、その朝のことでした。
ちょうど、そばの花がまっさかりに咲いていました。
お日さまは空高くのぼり、明るくピカピカと輝いていました。
朝風は切り株の上をあたたかく吹きぬけ、ひばりは空で歌をうたい、みつばちはそばの花のあいだでブンブンと音を立てていました。
村の人たちはよそゆきの服をきて、教会へ出かけました。
こうして、生きているものはみんな、いい気分になっていました。
はりねずみも、やっぱりとってもいい気持ちでした。
はりねずみは自分の家の戸のまえに立って、うでを組んでいました。
朝風に吹かれながら、きもちよさそうに、ちょっとした歌を口のなかで歌っていました。
歌がうまくても下手でも、そんなことは気にしません。
とにかく、はりねずみは楽しい日曜日の朝には、いつもきまって歌を歌うのです。
こうやって、ぼんやりひとりで小声で歌っていると、ふとこんなことを思いつきました。
(そうだ、今、かみさんが子どもたちをお風呂に入れてやっている。
そのあいだに、ちょっと畑へ散歩に行って、かぶのぐあいを見てくるとしよう。)
そのかぶというのは、はりねずみの家のすぐそばにありました。
はりねずみは、おかみさんや子どもたちといっしょに、いつもそのかぶを食べていました。
だから、そのかぶは自分のものだと思いこんでいたのです。
(いいことは、いそいでやるんだ。)
はりねずみは表の戸をしめて、畑のほうへ出かけました。
ところが、まだ、いくらも歩かないときでした。
畑の手前にある木のしげみのところで、かぶばたけのほうへ曲がろうとしました。
すると、そこでばったり、うさぎに出会ったのです。
うさぎも、やっぱり同じような用事でやってきたところでした。
つまり、うさぎのほうは自分のキャベツばたけを見まわりにきたのです。
はりねずみはうさぎの姿を見ると、あいそよく、
「おはよう。」と、あいさつしました。
ところが、うさぎときたら、いやに高慢ちきで、えらいダンナのようなつもりでいます。
だから、はりねずみがあいさつしても、返事もしません。
それどころか、ひどくバカにしたような顔つきで、
「おいおい。いったいどうしたわけで、こんなに朝早くから、畑のなかをうろちょろしているんだね。」と、言いました。
「散歩ですよ。」と、はりねずみは答えました。
「へえ、散歩とはねえ。いくらお前の足だって、もうすこしましなことに使えるだろうになあ。」
と、うさぎは笑って言いました。
こう言われると、はりねずみはひどくおこりました。
ほかのことなら、なにをいわれてもがまんできます。
けれども、足のことをいわれては、がまんできません。
というのも、はりねずみの足は、うまれつき横っちょにまがっていたからです。
「なんだと。それじゃきさまの足なら、もっとましなことにつかえるとでも、うぬぼれてるのか。」と、はりねずみはいいかえしました。
「あたりまえよ。」と、うさぎは答えました。
「ようし。それじゃ、たしかめてみよう。かけっこをすりゃ、おれのかちにきまってら。」と、はりねずみは言いました。
「わらわせるなよ。その横っちょにまがった足で、勝つってのかい。」
と、うさぎは言いました。
でも、すぐつづけて、言いました。
「だけどな、おまえがそんなにやりたいんなら、おれはやったっていいぞ。で、なにをかけるんだ。」
「金貨をひとつと、酒をひとびんだ。」と、はりねずみは答えました。
「うん、よかろう。じゃ、すぐはじめるか。」
「いやいや、そうあわてなくてもいい。おれはまだ朝めしをくってないんだ。ちょっとうちへかえって、くってくる。三十分したらもどってくるよ。」
と、はりねずみは言いました。
うさぎは承知しました。
そこで、はりねずみはうちへもどりました。
そして、かえる道すがら、ひとりで考えました。
(うさぎのやつめ。あの長い足をたよりにしているな。
なあに、あんなやつにまけるもんか。あいつはえらいダンナかもしれないが、まぬけだからな。)どうにかして、あいつの鼻をあかしてやるぞ!

はりねずみは、家にかえると、すぐにおかみさんに言いました。
「おい、急いでしたくをしてくれ。おれといっしょに畑へ行くんだ!」
「いったいどうしたっていうのさ?」と、おかみさんはたずねました。
「うさぎのやつと勝負をしたんだ。金貨一枚と、お酒をひとびんかけて、いまからあいつと、かけっこをすることになったんだよ。だからお前も、いっしょに来てくれ」
それを聞いて、はりねずみのおかみさんはびっくりして、大声をあげました。
「あきれたねえ、おまえさんは! 頭でもおかしくなったんじゃないのかい? いくらなんでも、うさぎと勝負して勝てるわけがないじゃない!」
「だまってろい! おれさまのやることだ。男の仕事に口出しするんじゃない! さあ、早いうちにしたくをして、おれについてくるんだ」
とはりねずみが言うと、いったいおかみさんをどうするつもりだったのでしょうか?
おかみさんは、いやだと言ってもしかたがないので、ついていくほかありませんでした。
ふたりはならんで歩いていきました。やがて、はりねずみがおかみさんに言いました。
「おれの言うことをよーく聞いてくれよ。ほら、あそこに長い畑が見えるだろ? あそこでかけっこをするんだ。うさぎのやつは一つのうねを走って、おれさまはもう一つのうねを走る。どっちも上のほうからかけだすんだ。いいか、お前はあっちの下のほうのうねに立っていてくれ。それだけで、ほかにはなにもしなくていい。ただ、うさぎがむこうからやってきたら、やつに向かって『おれはもう来ているぞ!』と大声でどなってくれればいいんだ」

そのうちに、ふたりは畑に到着しました。
はりねずみはおかみさんに立つ場所を教えてから、畑の上のほうへと登っていきました。
行ってみると、うさぎはもうちゃんと来て待っていました。
「どうだ、さっそくはじめるか?」とうさぎが言いました。
「いいとも!」とはりねずみも答えました。
「じゃあ、いくぞ!」
こう言って、ふたりはそれぞれ自分が走るうねの中に入りました。
うさぎは「一、二、三!」とかぞえ終わったとたん、あらしのように畑をかけおりていきました。
ところが、はりねずみのほうは、ほんの三歩ほど走ったかと思うと、うねの中にうずくまって、そのままじっと動かずにいました。
うさぎはおもいっきり走っていきました。もうすこしで下のほうに到着しそうです。
ところがそのとき、むこうから、はりねずみのおかみさんが、
「おれはもう来ているぞ!」
と、大声でどなったではありませんか。
うさぎはびっくりぎょうてん! 不思議で不思議でたまりません。

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