――人間が一夜にしておけらになったなどということは、ただ神様だけが知っており、またそのような奇跡を起こせるのも神様だけでした。
神様は、ご自分が生み出したおけがいま道を歩いていくのを、青い空の上からじっと見守っておられたのです。
ちょうどそのとき、美しい花嫁を乗せた自動車が通りかかりました。
花嫁は金銀や宝石で頭や手、胸を飾り立てており、華やかな空想に浸っていました。
その自動車は町の方から、同じ道をこちらに向かって走ってきたのです。
神さまが「はっ」と気づく間もなく、自動車はおけらを容赦なく轢きつぶして通り過ぎていってしまいました。
この出来事は、自動車に乗っている花嫁はもちろん、神さま以外には誰も知らないことでした。
神さまは自分が悪かったと感じられました。
そして、罪もないおけらの一生としては、あまりにもあまりにみじめだったと思われたのです。
「やはり、人間にしてやったほうがいい」と考えられ、おけらは特別な神の御心によって、再び人間に戻されたのであります。
男はふと目を覚ましました。
すると自分は、よくないことをして捕まり、牢屋の中にいたはずでしたが、鉄の牢屋になどおらず、そもそも自分が魔法を使って牢屋から消えるなんてことは、実際にはあり得ないことでした。
そういえば以前、自分はそんな空想をしたことがありました。
そして前夜、不思議なことに、自分が虫になる夢を見ていたのです。
男は今さらながら、話すこともできなければ何かをしたいと思うこともできない虫がいる一方で、言葉を話し、やりたいことを何でも叶えられる、すべての生き物の中で一番自由に生きられる「人間」に生まれながら、自分の心ひとつで自ら苦しんでしまうという愚かさをしみじみと悟りました。
男の性質は、このときからだんだんと優しいものに変わっていったのです。
それほど大それた悪事を働いたわけでもなかったので、男はすぐに自由の身となりましたが、その後は約束を守り、嘘をつかず、悪いことも一切しなくなったため、人々の信頼を勝ち得たのであります。
――一九二六・八――
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