けれど、街は彼らが思ったほど平らではありませんでした。
低い土地もあれば、建物の影になっているようなところもあったのです。
そして、おばあさんの家は、ちょうど低い場所にありました。
そのせいで、ツェッペリンの姿は建物の影にさえぎられて目に 入らず、みんなが焦っているうちに、その怪物は知らん顔をして、あちらへと遠く去ってしまったのでした。
「おばあさん、残念でしたね。この辺りの人たちは、みんな見られなかったんですよ」と、家中の人たちはおばあさんをなぐさめました。
「ここで見えないようなものなら、話に聞くほど大したもんじゃないんだよ」と、おばあさんは、この世の中がそんなに急に変わるはずがないと分かった安心から、落ち着いて言いました。
その後しばらくして、おばあさんは安らかに、息子や孫たちに見守られて、平和にこの世を去りました。
もしあの世でおじいさんに会ったとしても、ツェッペリンの話はしなかったでしょう。
偶然の巡り合わせで、新しい時代はすぐそこまでやってきていたのに、誰よりも真面目にそれを迎えようとしていたおばあさんには、触れないまま過ぎてしまったのでした。
――一九二九・一二作――
☆普仏戦争――一八七〇年から翌年にかけて、プロシアを主とする北ドイツとフランスとの間におこった戦争。
コメント