初級翻訳・ふしぎ国探検 第15話

ふしぎ国探検

今日は、のぞき窓をあけますから、その窓から外を見ているとよろしいです」
 博士は、二人の席の前に、一つずつ丸い窓をひらいてやった。
もちろんガラスがはまっていた。
その窓から外を見ると、樽ロケットのまわりをとりかこんでいるれんげ草やたんぽぽのまっさかりの野原が見えた。
「さあ、でかけます。
どこへいくのか、窓からよく見ているとおもしろいです」
 博士は操縦席について樽ロケットをしずかに進ませはじめた。
ふしぎなことが起った。
窓から見ている花がだんだん大きくなっていった。
樽ロケットが花に近づいているにはちがいないが、それだけともちがう。
やがて一つのたんぽぽの花が窓いっぱいにひろがった。
「おやおや、顕微鏡をのぞいているようだ」
 東助はふしぎがった。
花は、もっともっと大きくなった。
花べんが窓いっぱいになった。
それからもっと大きくなって、花べんのつけ根のところにとまっている水玉が、窓一ぱいにひろがった。
「まあ、きれいだこと。
顕微鏡で見た世界の中へはいっていくのね」
「そうです。
物質の中へはいっていくのです。
今に分子が見え、それから原子が見え、それからついに原子核と、そのまわりをまわっている自由電子の群が見えます。
それは今の世の中において、一番小さな世界ですよ」
 博士が、はじめてこれから案内する世界のことを説明した。
たんぽぽの花びらの細胞らしいものが見えた。
それがどんどん拡大されていって、やがて大小の球がたくさん見えるようになった。
それがもっともっとのびていって、球の大きさが大きくなり、そして数が減った。
やがてまん中に、動かない小さな塊が一つあらわれ、そのまわりを小さい球が一つぐるぐるとまわっている。
「おや、これはなにかしらん」
「それは水素の原子です。
まん中のが水素の原子核です。
陽子ともいいます。
そのまわりをまわっているのが電子です。
電子は世の中でいちばん軽いものです」
「ずいぶん小さい世界へきたものだなあ」
「そのお隣りに、すこしちがった原子がありますよ。
これがそうです」
 樽ロケットが隣りへ動くと、こんどはそこに、まん中に一つの動かない塊があり(水素の核よりも十数倍大きい)、そのまわりに八個の小さい球(電子だ)が、ぐるぐるとまわっていた。
それが、三つの輪になってまわっていた。
なんだか、太陽のまわりを地球や火星などがまわっているのに似ている。
「これはなんという原子ですか」
「酸素の原子です」
「おやおや、これが酸素ですか」
「ウラニウムの原子は見えませんか」
「ウラニウムは、ここにはないから、見えません。
ウラニウムは、外をまわっている電子が九十二個あって、それが十七の軌道に分れてまわっています。
もちろんウラニウムの原子核はずっと重いです。
水素の核の二百倍ぐらいあります」
「ポーデル博士。
これより小さい世界はないのですか」
「ありませんね。
これが極微の世界でございましょうね」
「もっと、いろいろの原子をのぞいてみたいわ」
「ああ、それはこの次にしましょう。
じつは、これからたいへん遠いところへ旅行にでかけるのです。
早くいかないと間にあわないかもしれません」

太陽系横断

「たいへん遠いところというと、どこですか」
「先へおしえましょうか。
これから、大宇宙のはてまでいってみましょう」
「っ、大宇宙のはてですって。なるほど、これは遠いや。
一番遠いところだ」
「どのくらい遠いのかしら」
「ここからはかった距離が二億五千万光年――というと、光の速さで走って二億五千万年かからないと、いきつかないところです。
たいへん遠いですね」
「光はずいぶん早く走るんでしたわね」
「一秒間に、地球のまわりを七回半ぐらい走ります。
数字でいうと、一秒間に三億メートルです」
「まあ、たいへん。
そんな遠くまで、いけますの。
あたしたち、途中で死んでしまいますわ」
「そうだ。
人間は長生きをしても八十年か九十年だ。
だから二億五千万年も走りたくても、生命がつづかないや」
「それは心配いりません。
わたくしの樽ロケットは、光よりも早く走ります。
一億光年を一分間で走ることもできます。
よく見ておいでなさい」
 ポーデル博士は自信ありげにいった。
「では、ぼくたちの生命は大丈夫ですね。
また帰ってくるまで、大丈夫ありますね」
「東助君、生命のこと、たいへん心配しますね」
「だって途中で生命がなくなっては、来月から『ふしぎ国探検』ができなくなりますからねえ」
「ほう、そうですか。
では、あと十五分で、もとの原へもどしてあげます。
だから心配いりません。
さあ、それでは極微の世界にお別れして、逆の方向へとびますよ」
 博士がそういって、レバーを切りかえると、東助とヒトミのからだは、ほんのすこしの間だったが、大きな力でおしつぶされるような感じをうけた。
二人はびっくりして、窓にかじりついた。
その二人の目の前に、さっきとは逆に、水玉が見えたと思うと、次はそれが黄色い花びらになり、もっと縮まってたんぽぽの花になった。
それはもっともっと縮んで、たんぽぽとれんげ草の花畑となり、もっともっと縮んで飛行機から見下ろした武蔵野の風景となり、それから南と北に分れて太平洋と日本海が藍色に見えだした。
あれよあれよといううちに、スピードはいよいよ増して、地球が大きな球になって見えだした。
その地球も、どんどん小さく遠くなっていって、そのそばを月がぐるぐるまわっているのが見えだした。
「ははあ、愉快だ。
さっき見た水素原子そっくりだな」
 東助はもういい気分にもどっていて、窓をたたいてよろこんだ。
「なぜ、水素原子の原子核と電子の関係と、地球と月の関係がそっくり似ているのかしら。
東助さん、分って」
「ぼくには、分らないね。
ふしぎだねえ」
「博士におたずねしようかしら」
「やあやあ、ヒトミちゃん。
左の方から太陽がでてきたよ。
明るい大きな太陽だ。
ぼくたちは、今太陽のすぐそばをとんでいるんだぜ」
 なるほど、そのとおりだった。
火星も小さく見えてまわっている。
金星も見える。
水星も見える。
すごい宇宙の姿だ。
――いや、これをすごいなどというのは正しくない。
そのあとのすごさにくらべたら、なんでもないのだ。
「太陽から、だんだん遠くなっていきますよ」
が操縦席からいった。
「あれは何かしら。
大きな星だ」
「あれは木星です。
反対の側をごらんなさい。
大きな光る輪をもった星が見えるでしょう」
「ああ、見えますわ。
あれは土星ね」
「そうです。
気味のわるい星ですね。
もうすこし先へいくと、かわった星が見えますよ。
ああ、見えてきました。
左の前方をごらんなさい。
ぼーっと、光の尾をひいた星が見えますでしょう」
「ああ、見えます、見えます。
彗星ではないのですか」
「そのとおりです。
ハレー彗星です。
かなり大きな彗星です。
だんだん大きく見えてきますでしょう」
「ああ、すごいなあ。
いつだか、あのハレー彗星は地球に衝突しそうになったのでしょう」
「千九百十年でした、あれは。
今から三十八年前のことです。
おう、海王星が見えてきました。
その右側に冥王星も見えます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました