初級翻訳・りこうもののエルゼ 第2話

りこうもののエルゼ

しかもその悲しみかたは、あとからきた人ほど、ひとりずつじゅんじゅんに激しくなっているではありませんか。
「いったい、どんな不幸がおこったんですか?」
とお婿さんがたずねました。
「ああ、ハンスさん!」
と、エルゼは言いました。
「あたしたちが結婚すれば、子どもが生まれるでしょう? そのうちに、その子が大きくなるわね。そしてその子を、あたしたちがここへ飲みものをつぎによこすかもしれないでしょう? そのとき、あの上につきささっている十字のとび口がおちてでもきたら、その子の頭をくだいてしまって、子どもはそれっきりになっちゃうかもしれないのよ! こんなの、泣かずにいられるもんですか!」
「わかりました。」
と、ハンスは言いました。
「そのくらい頭がよければ、わたしのうちのことにはじゅうぶんだ。あなたはほんとうにりこうだから、ぜひおよめさんにもらおう!」
こう言うと、ハンスはエルゼの手をとって上に連れだし、ぶじに結婚式をあげました。

ふたりがいっしょに暮らすようになって、しばらくたってからのことです。
ハンスがエルゼに向かって言いました。
「おまえ、おれは外ではたらいてお金を稼いでくるよ。おまえは畑へいって、麦を刈っておくれ。そうすれば、あとでパンが作れるからさ。」
「ええ、あなた、あたしそうするわ!」
ハンスが出かけたあとで、エルゼはおいしいおかゆをこしらえて、それを畑へもっていきました。
畑のはずれまできますと、エルゼはひとりごとを言いました。
「さて、どうしようかしら。先に麦を刈ろうかしら、それともおかゆを食べようかしら。ええい、先に食べちゃおうっと!」
こうして、エルゼは深いおなべに入っていたおかゆを、すっかりきれいに食べてしまいました。
さて、おなかがいっぱいになると、エルゼはまた考えこんで言いました。
「さて、どうしようかしら。先に麦を刈ろうかしら、それともお昼寝しようかしら。ええい、先に寝ちゃおっと!」
こうして、エルゼは麦畑のなかにゴロンと横になり、そのまま眠ってしまいました。
いっぽう、ハンスのとほうはとっくに仕事から家に帰ってきていたのですが、エルゼはいつまでたってももどってきません。
そこでハンスは言いました。
「うちのエルゼは、なんて働き者なんだろう! 働きすぎて、家に帰ってきてもごはんを食べるひまもないくらいなんだから。」
しかし、エルゼはいつまでたっても外にいたままです。
そのうちに、あたりはすっかり日が暮れてしまいました。そこでハンスは、畑へいって、エルゼがどのくらい麦を刈ったのか見てこようと思いました。
ところが、行ってみますと、どうでしょう! 刈れた麦は一本もなくて、エルゼは麦畑のなかにころがったまま、ぐうぐうと気持ちよさそうに眠っているではありませんか。
これを見たハンスは、急いで家にひきかえすと、小さな鈴がたくさんついた鳥を捕まえる網を持ってきて、それをエルゼのからだのまわりにフワッとかけておきました。
それでもエルゼは、目を覚ますことなく、ぐっすり眠り続けていました。
そうしておいてから、ハンスは家にとんでかえり、入り口のドアにカギをしっかりと下ろしました。
そして、自分のいすにどっかりと腰をかけ、せっせと仕事をはじめたのです。

あたりがすっかり真っ暗になってから、やっとのことで、りこうもののエルゼは目を覚ましました。
のそっと起きあがってみると、からだのまわりに網がまとわりついていて何だかごわごわするし、おまけに、一歩あるくごとに、たくさんの鈴が「カランカラン!」とにぎやかに鳴り響きます。
それを聞いて、エルゼはびっくり仰天しました。
そして、いまの自分がはたして本当におりこうもののエルゼなのかどうか、なんだか分からなくなってしまったのです。
そこで、エルゼは思わずこうつぶやきました。
「あたしは、ほんとうにりこうもののエルゼなのかしら? それとも、そうじゃないのかしら……」
けれど、自分ひとりの頭では、それにどう返事をしていいのかさっぱり分かりません。
しばらくの間どうしようかと迷っていましたが、やがて、こんなふうに思いつきました。
(そうだ! おうちへ行って、あたしがりこうもののエルゼかどうか、聞いてみよう。家族なら、きっと知っているにちがいないわ!)

エルゼはおそるおそる、自分の家の玄関へと駆けつけました。
ところが、ドアにはしっかりとカギが下ろされています。
そこでエルゼは、窓をコツコツとノックして、大声でこうたずねました。
「ハンスさん、あたし、エルゼは家にいるかしら?」
すると、家の中からハンスの声が返ってきました。
「うん、いるよ!」
それを聞いたエルゼは、飛びあがるほどびっくりして、
「あらまあ! それじゃあ、あたしはやっぱりあのエルゼなんかじゃないんだわ!」
と言いながら、ほかの家の玄関へと走っていきました。
けれども、どの家の人も、エルゼが歩くたびに鳴る「カランカラン」という鈴の音を聞きつけると、怖がってどうしてもドアを開けてくれようとはしませんでした。
そういうわけで、エルゼはどこに行っても家に入れてもらうことができなかったのです。

こうして、エルゼはこの村からどこかへとかけだしていきました。
それきり、二度とエルゼのすがたを見た者は、ひとりもいませんでした。

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