わしはあの金貨を持って遊ぶんだとばかり考えていた……」ところがお前さんはあの子供たちの牝牛を奪って行った。わしはもうお金をこさえてはやらない。」
イワンはこう言って、もう金をこさえようとはしませんでした。
それで兄たちは出て行きました。そして二人は道々どうしたらいいか相談しました。
そのうちに兵隊のシモンがこう言いました。
「じゃ、こうしようじゃないか。お前はおれにおれの兵隊を養うだけ金をくれるんだ。するとおれはお前におれの国を半分と、お前の金を番するのにたるだけの兵隊をやる。」
タラスはすぐ承知しました。そこで二人は自分たちの持ち物を分けて二人とも王様になり、お金持になりました。
八
イワンは家にいて両親を養い、口がきけない妹を相手に野ら仕事をして暮しました。
さて、あるときのこと、イワンの家の飼犬が、病気にかかってからだ中おできだらけになり、今にも死にそうになりました。
イワンはそれをかわいそうに思って、妹からパンを貰って、それを帽子に入れて持って行き、犬に投げてやりました。
ところが、その帽子が破れていたので、れいの小悪魔から貰った小さな木の根が、一つ地べたに落ちました。
お年寄りの犬はパンと一しょにその根を食べていました。
そしてそれをのみ下したと思うと、急に、はね廻り、吠え、尾をふりはじめました――つまり元通り元気になったのでした。
父親も母親もそれを見てすっかりおどろきました。
「どうして犬をなおしたのだ?」と親たちはたずねました。
「わしはどんな病気でもなおすことの出来る根っこを二本持っていた。それを一つこの犬がのんだのだ。」とイワンは答えました。
ところが、ちょうどその頃、王様のお姫様が病気にかかりました。
王様は町々村々へおふれを出して、姫をなおした者には望み次第のほう美を与える、もしそのなおした者におよめさんがなかったら、姫をおよめさんにやるとつたえさせました。
このおふれはイワンの村にも廻って来ました。
イワンの父親と母親は、イワンを呼んで言いました。
「お前王様のおふれを聞いたかね。お前の話と、どんな病気でもなおせる木の根っ子を持っているそうだが、これから一つ出かけてなおしてあげないかな。そうすりゃお前、これから一生幸福に暮せるわけだがね。」
「いいとも、いいとも。」とイワンは言いました。
そこでイワンは、出かける仕度をしました。イワンの両親は、イワンに一番いい着物を着せました。
ところがイワンが戸口を出るとすぐ、手が萎えた乞食のおばあさんにであいました。
「人の話で聞いて来たが、お前様は人の病気をなおしなさるそうだが、どうかこの手をなおしておくんなさい。わしゃ一人じゃ靴もはけないからな。」とそのばあさんは言いました。
「いいとも、いいとも。」とイワンは言いました。
そして、例の木の根っ子をくれてやって、それをのめとおばあさんに言いました。
乞食のおばあさんは、それをのんで、なおりました。手はわけなく動かすことが出来るようになりました。
父親と母親は、イワンについて王様のところまで行くつもりでやって来ましたが、イワンがその根っ子をやってしまって、お姫様をなおすのが一本もなくなったと聞いて、イワンを叱りました。
「お前は乞食の女をあわれんで、王様のお姫様をお気の毒とは思わないのだ。」と言いました。
しかし、イワンは、王様のお姫様もやはり気の毒だと思っていました。
それで、馬の仕度をすると、荷車の中に藁をしいてその上に坐り、馬に一むちくれて出かけようとしました。
「どこへ行くんだ、馬鹿!」
「王様のお姫様をなおしに。」
「だがお前はもう一本もなおせるものをもっていないじゃないか。」
「ううん、大丈夫。」とイワンは言いました。
そして馬を出しました。イワンは王様の御殿へ馬を走らせました。
ところが、イワンがその御殿の敷居をまたぐかまたがないうちに、お姫様はなおりました。
王様は大そう喜んで、イワンをおそば近く呼んで、大へん立派な衣しょうを着せました。
「わしの婿になれ。」と王様はおっしゃいました。
「いいとも、いいとも。」とイワンは言いました。
そこでイワンは、お姫様とごこんれいしました。
そのうち王様はまもなくお隠れになったので、イワンは王様になりました。
こうして三人の兄弟は一人のこらず王様になりました。
九
三人の兄弟はこうして、それぞれ王様になって国を治めました。
長男の兵隊のシモンは大へんゆたかになりました。シモンは藁の兵隊でほんとの兵隊を集めました。
かれは国中にふれを出して、家十軒ごとに兵隊一人ずつ出させました。
ところがその兵隊はみんな背が高くて、顔かたちの立派なものでなくてはならないのでした。
シモンはそんな兵隊をたくさん集めて、うまくならしておきました。そしてもし自分にさからう者があると、すぐさまこの兵隊をさし向けて、思い通りにしまつをしたので、誰もがシモンを恐がり出すようになりました。
がしかし、シモンの暮しは大へんゆかいなものでした。
眼について欲しいなと思ったものは何でもシモンの所有でした。
シモンが兵隊をさし向けると、兵隊はシモンの欲しいものを立ちどころに持って来ました。
肥満のタラスもまたゆかいに暮していました。
タラスはイワンから貰った金を少しもむだに使いませんでした。
使わないばかりか、ますますそれを殖やしました。
タラスは自分の国中におきてやさだめを作りました。
金はみんな金庫へしまい、人民には税金をかけました。
人頭税や、人や馬車には通行税、靴、靴下税、衣しょう税などをかけました。
それからなお、自分で欲しいと思ったものは、何でも手に入れました。
金のためには人民は何でも持って来るし、またどんな働きでもしました。
――と言うのは、人民たち誰もかれもが金が要ったからでした。
イワンの馬鹿もやはり悪い暮しはしませんでした。
亡くなった王様のおとむらいをすますとすぐ、王様の服をぬいで妃に箪笥へしまわせました。
そしてまた元の粗末な麻のシャツや股引、百姓靴をつけて、百姓仕事にかえりました。
「あれじゃとてもやりきれない。退屈で、おまけにからだがぶくぶくに肥って来るし、食物はまずく、寝りゃからだがいたい。」
とイワンは言いました。
そして両親や唖の妹をつれて来て元のように働きはじめました。
「あなたは王様でいらせられます。」
と人民の者が言いました。
「そりゃそれにちがいない。だが王様だって食わなけりゃならん。」
とイワンは言いました。
そこへ大臣の一人がやって来て言いました。
「金がないので役人たちに払うことが出来ません。」
「いいとも、いいとも。なけりゃ払わんでいい。」
とイワンは言いました。
「でも払わないと、役についてくれません。」
「いいとも、いいとも。役につかないがいい。そうすりゃ、働く時間がたくさんになる。役人たちに肥料を運ばせるがいい。それに埃はたくさんたまっている。」
そこへ人民たちが、裁判してもらいにやって来ました。
そして中の一人が、言いました。
「こいつが私の金を盗みました。」
するとイワンは言いました。
「いいとも、いいとも。そりゃこの男に金が要ったからじゃ。
コメント