それまで、木のかげでハラハラして見ていたポン公は、もうしかたなく、子どもたちといっしょに、知らん顔をして駆け出してきました。
男は子どもたちの肩をたたきました。
「おお、よく来てくれた!
あれ見ろ、白猫と黒猫が、この木にのぼってるだろう。
どうも気にくわない猫だ。
泥棒猫だ。
あれをとっつかまえたいから、手伝ってくれ。
お礼はするよ。
つかまえてくれ!」
ところで、木にのぼっている猫を、どうやってつかまえたらよいでしょう。
さすがに男も困りました。
子どもたちも困りました。
ポン公は何か決心して、前に進み出ました。
「僕が、この木にのぼってつかまえてみましょう。
その縄を貸してください。
だけど……強そうな猫だなあ。
あぶないから、下からその網を、頭の上に広げといてください」
「おう、君がつかまえてくれるか!
しっかりやってくれ」
ポン公は縄を持って、木にのぼっていきました。
シロとクロは、木の葉の茂みの中にすくんでいます。
ポン公はだんだん上っていって、小声でささやきます。
「おい、僕だよ、僕だよ。
心配しなくてもいいよ。
だけど、あぶない芸をするんだよ。
命がけだ……いいかい。
僕の言うとおりにするんだよ」
そしてポン公は大きな声で言いました。
「ちきしょう……!」「どろぼう猫め……さあ、いまに縛り上げてやるから、早く降りてこい!」
男は木の根元から、下に向かって大声で叫びました。
「いやあ、相手はなかなか手ごわいぞ。
あぶない、あぶない。
下のみんな、網をしっかり広げて頼むぞ!」
ポン公は、シロとクロのそばまでよじ登っていくと、また何かコソコソとささやきました。
そして――シロとクロは「フーッ!」とすごい勢いで威嚇(いかく)しました。
ポン公は縄を大きく振り回しました。
木の上からも下からも、一斉にすごい大声でわめきたてます。
ポン公のほうが、まるで怖がって逃げ出そうとしているみたいです。
ポン公はだんだんと下の方に降りてきて、細い枝をつたいながら逃げようとします。
シロとクロはそのあとをピタリと追いかけていきます。
そして、ついに掴み合いになり、二匹と一人はひとかたまりになって……!
ものすごく危なっかしい大技(おおわざ)です!
しなった木の枝の先から、葉っぱの茂みをめがけ、どこに落ちるか見当をつけながら、男の頭の上の網めがけて、ドスンと勢いよく転がり落ちました!
「わあッ!」という叫び声が上がりました。
男はみんなの下敷きになって、網をかぶったままひっくり返ってしまいました。
子どもたちはびっくりして飛びのきました。
そのすきに、シロとクロはピョンと飛び上がると、一目散(いちもくさん)にビューッと逃げ出していきました。
ポン公は横倒しになりながらも、ジタバタともがき暴れて、男をドーンと足でけとばしました。
すると、男のポケットから何か丸いものがポロリと落ちました。
ポン公はそれを素早く拾い上げると、サッと隠しました。
それから、わざと大声でワアワアと泣き出しました。
実際、ひじやひざをすりむいて、血が出ていたのです。
薬屋の店の奥では、白ヒゲのお爺さんが、心配そうに二匹の帰りを待っていました。
「やっぱり、あの男はあやしい船となにか合図を送り合っていましたよ!」
シロとクロは、代わる代わるそう報告しました。
おまけに、ポン公がひろってきたのは、まるでお金のメダルのようなもので、表には「345」という三つの数字が彫りつけてありました。
「これは、とんでもないいいものが手に入ったぞ」
とお爺さんは言いました。
「あいつらの仲間の、何か大事な印(しるし)のメダルにちがいない。
よし、今度はあの男の住んでいるところを突き止めて、その秘密を探ってみるんだね」
ポン公も、シロもクロも、あの男に対して腹を立てていました。
ポン公はひじやひざのケガがヒリヒリと痛んでいます。
シロとクロは、「自分たちをまるでただの魚みたいに扱って、四手網で捕まえようとなんてしやがって!」と、ぷんぷんとほっぺたを膨らませて怒っていました。
もし今度あの男に会ったら、いきなり大喧嘩(おおげんか)になりそうな勢いです。
ところが、あの男はもうどこにも姿を見せません。
ポン公とシロとクロは、あちこち探し回りましたが、見つかりません。
はたして、うまく見つけられるでしょうか?
**三 怪しい家**
ポン公と猫のシロとクロは、あのあやしい男を一生懸命探し回りましたが、どうしても見つかりませんでした。
ところが、ある日、ふいにその男のほうがやってきたのです。
白ヒゲのお爺さんが、薬屋の店の中で、のんびりと煙草をふかしていると、立派な紳士のような格好をした男が店に入ってきました。
お爺さんは「ハッ!」と驚きました。
まぎれもなく、あの男です。
公園の広場で手品をやっていたとき、邪魔をしてきた男です。
海岸で、シロとクロを四手網で捕まえようとした、あの男です。
男は何も知らないような顔をして、店の中をジロジロと見回しました。
ポン公もシロもクロもおらず、店にはお爺さん一人だけです。
「あなたの店には、」と男は言いました。
「どんなキズにもよく効くという、不思議な練り薬があるそうですが、本当ですか?」
「ええ、ありますよ」
それは、白ヒゲのお爺さんが一番自慢にしている薬でした。
昔から伝わる秘密の方法で、いろんな草や木の根を練り合わせて作ったもので、それを塗っておけば、どんなキズでもあっという間に治ってしまうのです。
「それをたくさんもらいたいのですが……作ってもらえますか?」
たくさん……といっても、体のあちこちに使うとして、なんと百人分くらいほしいと言うのです。
大勢の人を連れて冒険の旅に出かけるので、用心のために持っていきたいのだとか、なんだかあいまいな説明です。
お爺さんはちょっと考え込みながら答えました。
「作ることはできますが、二、三日かかりますよ」
「ええ、けっこうです!」
そして男は、代金は先に払っておくと言って、金貨をカウンターにずらりと並べました。
自分の住んでいる場所は言わず、ただ「ターマン」という名前だけを知らせたのです。
その間も、男は絶えず店の中をジロジロと怪しく見回していましたが、やがて諦めたような顔をしました。
「それでは、二日たったらまた来ますから、薬をよろしくお願いします」
「承知しました」
男は店から出ていきました。
その瞬間、店の奥からシロとクロがビューッと飛び出してきました。
さきほどから物陰に隠れて、この様子をじっと見ていたのです。
シロとクロはお爺さんの両方の腕にしがみついて、「ニャーニャー!」と急き立てるように鳴きました。
「あの男ですね。これから後をつけていって、どんな奴なのか突き止めてやりましょう!」
シロとクロがそう言っているのが、お爺さんにはよく分かりました。
「そうだな、後をつけてごらん」
とお爺さんは言いました。
「だが、くれぐれも用心するんだよ」
シロとクロは、元気よく店から飛び出していきました。
お爺さんは腕を組み、じっと深く考え込みました。夕方ちかくです。
町には人通りがふえてゐます。
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