初級翻訳・ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記 第6話

ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記

ペンネンネンネンネン・ネネムがすれ違いざまにふと見てみると、その赤い旗には、白い文字で『フクジロ』と染め抜かれていました。
その横には、身長が九十センチ(三尺)くらいで、顔がまるでおじいさんのようにシワくちゃで、特に鼻が三十センチ(一尺)くらいもある、ちょっと怖い子どものような生き物が、小さな半ズボンをはいて立っていました。
その生き物は、車を引っ張っている真っ黒で体の硬そうなばけものから、『フクジロ印』というラベルのついたマッチを、五つほど受け取るところでした。
ネネムが「一体何をするんだろう?」と思って見守っていると、その気味の悪い生き物は、マッチを持ってよちよちと歩き出しました。
山のようなばけものの見物人たちも、わいわい騒ぎながらそれについていきます。
一人の若いばけものが、後ろから押されて、うっかりその気味の悪い生き物に触れてしまいました。すると、フクジロと呼ばれているその生き物は、くるりと振り向くなり、いきなりその若いばけもののほっぺたを「ピシャリ!」とひっぱたきました。
それからその生き物は、向こうにある荒物屋(あらものや:日用品のお店)へ行きました。そのお店には、ばけもの用の歯みがき粉や、つまようじ、手ぬぐいにズボン、エプロンなど、ばけものが使う道具がなんでもそろっていました。
フクジロがよちよちと店に入っていくと、お店のおかみさんは、怖がって逃げようとしました。おかみさんだって、顔がまるで伝説の動物の『バク』のような姿をした立派なばけものなのですが、小さくてシワくちゃなフクジロを見ると、もうすっかりブルブル震えて怖がってしまったのです。
「おかみさん、『フクジロ・マッチ』を買っておくれよ」
おかみさんは、やっとの思いで落ち着いて言いました。
「おいくらですか? 一つ……」
「十円だ」
おかみさんは、今にも泣き出しそうになりました。
「さあ、買いなよ。もし買わないって言うなら、ここで『踊り』を見せてやるぜ」
「買います、買います! 踊りは結構です! ほら、十円です!」
おかみさんは顔を真っ青にして、震えながらお金の箱から小銭をかき集めて、十円を差し出しました。
「ありがとよ。フンッ」
とその気味の悪い生き物は鼻を鳴らして店を出ました。
そして今度は、お隣のばけもの酒屋さんに入っていきました。見物人たちもわいわいとついていきます。
酒屋さんのハゲ頭のおじいさんばけものも、やっぱりブルブル震えながら十円を出しました。
その隣は反物屋(たんものや:生地のお店)でしたが、ここでも主人が黄色い顔を真っ青にして震えながら、十円でマッチを一つ買わされました。
「これは、いかんぞ……」「なんてことだ、許しがたい! こんな不愉快なやつが街を勝手に歩き回っているなんて、裁判長であるわたしの恥だ。よし、捕まえてしまえ!」
ペンネンネンネンネン・ネネムは、部下の検事に命令しました。
すると一人の検事がすぐに飛び出していき、お店から出てきたばかりのその気味の悪い生き物を、縄でグルグル巻きに縛り上げてしまいました。
ネネムは野次馬をかきわけて前に出ると、こう言いました。
「これ、お前! 自分の見た目が怖いのをいいことに、たった一銭のマッチを十円もの高値で無理やり売りつけて歩くとは。とんでもない悪党だ。監獄へ連れて行くから、覚悟しろ!」
すると、その気味の悪い生き物は泣き出しました。
「おまわりさん、そんなのひどいよ! ぼくは、いくらお金をもらっても、自分では一銭ももらえないんだ。全部、親方が取り上げちゃうんだよ。お願い、許して! 許してよ!」
ネネムが言いました。
「ほう、そうなのか。お前は毎日ただ引きずり回されて、働かされているだけなんだな」
「そうだよ、そうなんだ! ぼくのことを『スターだ』なんておだてながら、ひどい目にばかりあわせるんだ。ごはんさえ、ろくに食べさせてくれないんだよ。早く、あの親方をつかまえてよ。早く、早く!」
今度は、その生き物が急に元気を出して叫びました。
そこで、「あの車にいるやつを捕まえろ!」とネネムが言いました。
ちょうどやってきた三人の警察官が飛んでいって、車にポカンと座っていた真っ黒で体の硬いばけものを、あっという間にグルグル巻きに縛ってしまいました。
ネネムは、さっきの生き物と一緒にそちらへ行きました。
「これ! お前は、こんなにかわいそうで不自由な者をダシにして、一銭のマッチを十円で売っているのか。さあ、監獄へ連れて行くぞ!」
すると親方が泣き出しそうな顔で、早口に言いました。
「お役人さん、そりゃああんまりです。あっしは一日中歩き回っていますが、やっと食べていける分のお金しかもらえないんです。あとの残りは、全部親方が取っちまうんです」
「ふん、そうか。その親方はどこにいるんだ」
「あそこにいます」
「どいつだ?」
「あの角のところで、空を見上げてあくびをしている男です」
「よし、あいつを縛れ!」
角にいた男は、いきなり縛られてびっくりし、口をパクパクさせました。
ネネムは二人を連れてそこまで歩いていき、言いました。
「こら! お前は悪いやつだ。言い訳は無用だ、監獄に入れ!」
「ひどい! 一体どうしたっていうんです? ああ、フクジロもタンイチも捕まったのか。そのことなら、私はただ監督に言いつけられて車を見張っているだけですよ。私は日給三十銭のほかには、一銭だってもらっちゃいません」
「ふむ。実にいやな事件だ。よし、お前の監督はどこにいる。言え!」
「あっちの電信柱の下で、立ったまま居眠りをしているあの人です」
「そうか。よろしい。あっちの電信柱の下のやつを縛れ!」
検事や警察官たちがすぐに飛んでいこうとしました。
その時、ネネムがふともっと先を見ると、だいたい九メートルおきに、あくびをしたり腕組みをしたりして、ぼんやり立っている者たちが、まだまだたくさん続いていました。
そこで、ネネムは言いました。
「ちょっと待て。まだあっちにも監督がたくさんいるようだ。よし、順番に全員縛ってこい。一番最後のやつを逃がすんじゃないぞ。さあ、行け!」
十人ほどの検事と十人ほどの警察官が、まるで煙のように向こうへ走っていきました。
みるみるうちに監督たちが次々と縛り上げられ、十五分もたたないうちに、三十人ものばけものが一列にずらーっとつながれて引っ張られてきました。
「一番最後のやつは、こいつか?」
ネネムは、緑色のとてもオシャレなばけものを指さしました。
「そうです!」
みんなが声をそろえて答えました。
「よろしい。これ、お前! あんなにかわいそうな者を使って、一銭のマッチを十円で売っているとは、一体どういうわけだ。それに三十二人もの部下を使って、徹底的に自分の悪事を隠そうとするなんて、実にけしからん。さあ、どうなんだ!」
ところが、緑色のオシャレなばけものは、口を尖らせて、ちっとも反省している様子がありません。
「これは失礼な。私はそんなことをした覚えはありませんよ。私は百二十年前に、この人に九円貸したことがあるんです。それが今では五千何円にもなっている。

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