そのうえ、お金を使うことといったら、一文だってお金を出しやしない。
どんなに困っている人が目の前にいても、お米一合、お金一文だって分けてあげたことはなかったんだ。
そのおかげで、お金はまるで面白いようにどんどん貯まっていった。
だけどその代わり、世間の人たちからは、まるで鬼やヘビのようにものすごく憎まれるようになってしまったんだ。
私は、ほんのこの頃まで、お金さえあれば、世間の人たちからどんなに憎まれたってかまいもんか、と思っていた。
ところが、今年の春に私の妻が死んでしまった。
それだけじゃなく、秋の初めからは、私も重い病気にかかってしまったんだ。
私には、子供と言えばこの娘がたった一人だけ。
私はね、『もし自分がこの病気で死んでしまったら、娘がたった一人ぼっちになって、さぞ困るだろう』と思ったんだ。だから、私が生きているうちに、どうしても良いお婿さんをもらってやろうと思って、都じゅうを探し回った。
そうしたら、どうだろう。
年頃の若者がいる家では、どの家も、『いくらお金持ちでも、加茂の長者の家へは娘婿にはやれない』『鬼の家にお婿になんて行けない』と言って、誰も一歩も婿に来ようとする人はいなかったんだよ。
私は、お金さえあれば何でもできると思っていた。だけどそれは、私の大きな間違いだったんだ。
私は、たった一人の可愛い娘にお婿さんを取ってやることもできなかった……。
娘はそれを知ると、毎日ワンワン泣いた。
私も娘がかわいそうで、一緒に泣いたよ。
十万貫という大金も、今では何の役にも立たないんだ。
そんなうちに私の病気はますます重くなって、もう今日死ぬか明日死ぬか分からない命になってしまった。
私が死んだら、娘はこの世の中にたった一人取り残されて、『あの憎まれ者の子供だ』と言って、世間からどんなにいじめられるだろうか……そう思うと、私は死にたくても死にきれないんだよ。
だから私は、ついにこう考えたんだ。
都の人はみんな加茂の長者のことを憎んでいるから、ここに婿に来る人なんて絶対にいないだろうけれど、遠くから来た旅の人なら私を憎むわけはないんだから、もしかしたら来てくれるかもしれない、そう思ったんだ。だから、召使いの者を街道へ行かせて、旅の人をこのお屋敷に連れてきてもらうことにしたんだよ。
運よく、あなたのような立派な方に来ていただくことができて、こんなに嬉しいことはない。
どうか私たち親子二人を助けると思って、私のお願いを聞いてくれないだろうか!」
病人はそう言い終わると、あまりにも疲れ果てたのか、その場にぐったりと突っ伏してしまいました。
三郎次は、年寄りがこんなお願いをした本当の理由をやっと理解しました。
だけど、どんなにお金持ちであっても、都中の人たちから鬼のように憎まれている家の婿になったら、後でどんなひどい目に遭うか分かったもんじゃない、と思いました。だから、一度は断ろうと思ったのです。
しかし、よく見ると、病人も、かわいらしい娘も、ポロポロと涙を流してシクシク泣いています。もしここで三郎次が断ったら、病人は悲しみのあまり、そのまま息絶えてしまうのではないかと思われました。もともと心の優しい三郎次は、
「そんなに頼むなら、僕がこの家の婿になりましょう!」
と答えたのです。
すると病人は、手を合わせて、まるで三郎次を神様のようにありがたそうに拝みました。そして、それで安心して気が緩んだのか、そのままスッと息が絶えてしまったのです。
三郎次は、悲しみに暮れる娘を優しくなぐさめてお葬式を済ませたあと、その娘と結婚して、「二代目の加茂の長者」になりました。
そして、遺産である十万貫の半分、なんと五万貫もの大金を、都中にいる貧しい人たちにみんな分けてあげたのです。
すると、世間の人というのは本当に正直なもので、都の人々は集まるたびに、こう噂しあいました。
「前の加茂の長者は本物の鬼だったけれど、今度の長者はまるで仏様だ!
仏の長者さまじゃ!
仏長者だ!」
こうして、三郎次は夫婦仲良く暮らしながら、貧しい人たちをどんどん助け、とても幸せに暮らしました。
「花子(はなこ)」というかわいらしい女の子も生まれて、いつの間にか十年ほどの歳月が流れました。
さて、一郎次、二郎次、三郎次のそれぞれの物語はこれで分かりましたが、いったいこの三人は、どこで再び出会うことになるのでしょうか。
五 三人兄弟の会った所
三人の兄弟が、都へ向かう途中で三つの道に分かれてから、ちょうど十年が経った頃のことです。
その頃、検非違使(今の警察署長と裁判所長を一人で何でもこなす、とってもえらい役職だよ、ということは前に言ったね)という重要な仕事をしていた一郎次・左衛門尉清経(さえもんのじょうきよつね)のもとへ、当時都で大評判だった加茂の長者から、一つの訴えが届きました。
それは、昨日の夜、加茂の長者の家に三十人ほどの泥棒の一味が押し入って、お金をたくさん盗んでいっただけでなく、大切にしていた娘の花子ちゃんをさらっていった、という事件でした。
左衛門尉清経は、もともと泥棒たちがやりたい放題あばれ回っていることにカンカンに怒っていましたが、まさかこんなふうに都の真ん中へ堂々と入り込んで悪事を働くなんて、もう一刻だってそのまま見逃しておくわけにはいかない、と思ったのです。それで、家来の者を二百人ばかり集めまして、
「噂にきくと、加茂川の上流にある、みぞろが池には鬼女が住むという噂があって、人が近寄らないのをいいことに、多能丸(たのうまる)という大泥棒が立派な屋敷を建てて住んでいるということだ。
加茂の長者の家に押し入った盗賊も、きっとこの多能丸に違い違いない。すぐに駆けつけて、必ず生け捕りにして来い!」
と、命令しました。
その翌日のことでした。
みぞろが池に行った家来の一人が、走って帰って来ました。
「殿様、お喜びくださいまし!
多能丸を見事に生け捕りにいたしました。
長者の娘の花子ちゃんも、無事に取り返しましたぞ!」
と報告しました。
左衛門尉(さえもんのじょう)は大喜びで、別の家来に、
「すぐに加茂の長者の家へ行って、花子を引き取りに来るように伝えるのだ」
と、命じました。
やがて、検非違使(けびいし)のお役所へ、両手を後ろ手に縛られた多能丸が連れられて来ました。
そして、庭の白い砂の上に座らされました。
ちょうどそこへ、加茂の長者が娘を引き取るために、自らやって来ました。
長者は縁側の上に座っていました。
まもなく、シイッ、シイッと静けさを促す声がしたかと思うと、烏帽子(えぼし)をかぶり立派な衣装を着た左衛門尉が、しずしずと現れました。
左衛門尉は一番高い上座に座ると、加茂の長者のほうを見て、
「お前が、加茂の長者か」
と言いました。
今までうつむいていた長者は、顔を上げて、
「はい、左様でございます」
と答えました。
その顔を、一郎次である左衛門尉がよく見ますと、それは紛れもない弟の三郎次ではありませんか!
一郎次の左衛門尉は、思わず大きな声を出して、
「おお、三郎次ではないか!」
と言いますと、三郎次も、ここが検非違使のお役所だということもすっかり忘れて、
「おお、お兄さんですか!」
と言いました。
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