そして、五番目、六番目、七番目の側室たちも、それぞれ自分の自慢のポイントを頼りにしながら、主人の愛情を勝ち取ろうと必死になって競い合っていました。
だけどお坊ちゃまは、この女性たちの誰に対しても、特別夢中になるような様子は見せませんでした。
世間一般の目から見たら、彼女たちはまちがいなく、この世のものとは思えないほどの美人たちです。だけど、何でも持っていて少しお高くとまっているお坊ちゃまを相手にするとなると、おいしいお酒と同じように、せっかくの美しいしぐさも今さら珍しくも美しくも見えなくなってしまうのでした。
こんなふうにして、次から次へと強烈な刺激を求め、いつまでも終わらないワクワク感やドキドキ感で自分の心と体を満たしたいというお坊ちゃまの願いは、そこらのありふれたお酒や女性の力くらいでは、とても叶えられるはずがなかったのでした。
「お金はいくらでも出してやるから、もっと変わったお酒はないのか? もっと美しい女はいないのか?」
お坊ちゃまの大きなお屋敷に出入りする商人たちは、いつもこうやって注文をつけられていながら、未だにお坊ちゃまが「すごい!」と褒めてくれるような、立派な品物を持ってきた者は一人もいませんでした。
その中には、ちょっと変わったものが好きなお坊ちゃまの噂を聞きつけて、お金欲しさに世界中から、よく分からないあやしいニセモノをはるばる売りつけにやってくる悪徳商人もいました。
「おぼっちゃま、これは私が西安の古いお店の蔵から見つけ出した、千年前のお酒でございます。なんでもこれは唐の昔に、張皇后さまがお気に入りだったという、とっても有名なすごいお酒だそうでございます。それにこちらの方は、同じく唐の順宗皇帝がお好きだった、竜膏酒(りゅうこうしゅ)でございますよ。嘘だと思われるなら、お酒の壺の古い色をよくご覧になってくださいまし。千年前の封印が、この通りきれいに残っておりますから!」
こんなふうに上手いことを言って売り込んできた商人の話を、性格の悪いお坊ちゃまは、何も言わずにじっと聞き終えてから、ゆっくりと皮肉を言いました。
「いやあ、お前のペラペラしゃべる口のうまさには感心するけど、オレをだまそうって言うなら、もう少し歴史の勉強をしてから来たほうがいいぞ。そのお酒の壺は、江南(こうなん)の南定窯(なんていよう)って呼ばれるものだ。南宋(なんそう)の時代よりも前には絶対に存在しない代物だよ。唐の時代の名酒が、宋の時代の陶器に封印されているなんて、笑っちゃうくらいおかしい話だな」
こう言われてしまうと、商人は一言も言い返すことができず、冷や汗をダラダラとかきながらすごすごと引き下がっていくしかありませんでした。
実際、陶器だけでなく、洋服でも、宝石でも、絵画でも、刀や剣でも、あらゆる美術や工芸品に関するお坊ちゃまの目利き能力は、ちょっと気味が悪いくらいものすごくて、中国中の学者さんや骨董品(こっとうひん)の専門家たちがみんなで集まっても、彼の足元にも及ばないのは確かなことでした。
女性を売り込みにやってくる人たちも、うんざりするほど大勢やってきて、めいめい自分勝手な自慢話をペラペラと並べ立てます。
「おぼっちゃま、今度という今度は、とびきり素晴らしい女の子が見つかりました! 生まれは杭州(こうじょう)の由緒ある商家の娘で、名前を花麗春(かれいしゅん)と申します。まだ十六歳でございますが、顔立ちが美しいのはもちろんのこと、芸事(げいごと)も完璧で、詩を作るのもとっても上手でございます。まずあんなに素晴らしい女の子は、この広い中国のどこを探しても二人とはいないでしょう! まあだまされたと思って、本人を一度ご覧になってみてはいかがでございますか?」
こんな話を聞かされると、いつも毎回のようにこういう商人たちに乗せられてしまっているのに、お坊ちゃまはやっぱり心が動いてしまい、とりあえずその女の子を自分の目でチェックしないと気が済まないのでした。
「それじゃあ一度会ってみたいから、すぐにここに連れてくるがいいさ」——多くの場合、彼はとにかくこんなふうにお返事をするのです。
しかし、人買いに連れられてお坊ちゃまのお屋敷へ初めてやってくる美人たちというのは、相当図太い性格の生まれつきでない限り、大体みんな大恥をかかされて、泣きながら逃げるように帰っていくのがふつうでした。
なぜかというと、その人買いと美人は、まず最初に、お金持ちの豪華さをこれでもかと極めたお屋敷の中の立派なお部屋(庁堂)に通され、長い時間待たされたあと、今度はさらに鏡のようにツルツルしたきれいな石の床(花斑石の舗甎)を踏みしめながら、遠い廊下を何回も曲がりくねって歩き、ついに一番奥にあるお部屋(内房)へと案内されるからです。
そこで目にするのは、今まさに盛大なパーティーや宴会が真っ最中で繰り広げられている光景でした。ある人は柱にもたれかかって笛を吹き、ある人は屏風(びょうぶ)に寄りかかって琵琶(びわ)を弾き、大勢の男や女がフラフラとお酒に酔いながら入り交じり、手にはお酒を入れたグラスを捧げ持ちながら、銅鑼(どら)や太鼓を鳴らして、歌って踊ってやりたい放題の大騒ぎをしているのです。
もうそれを見ただけで、女の子たちはすっかりビビッて気後れしてしまいますが、そのうえ主人の お坊ちゃまは、いつも必ず一段高いところにある寝室のカーテン(帳)の陰に置かれた、色鮮やかな刺繍(ししゅう)のまり(錦繍の花毬)の上に体を横たえながら、いかにもめんどくさそうにあくびをして、目の前の大騒ぎなんてまるで無視するかのように、銀のパイプ(煙管)でアヘンを気持ちよさそうにスーッと吸っているのです。
「なるほどねぇ、この広い中国に二人といない美人っていうのは、この子のことかな?」………」
お坊ちゃまはゆっくりと体を起こし、眠たそうな目で二人をじろりじろりと見つめました。
そうかと思うと、すぐに鼻でフンとせせら笑って、こう言ったのです。
「……だけどさ、四百余州なんて広い国と言っても、オレの家にいる女たちより綺麗なやつは一人もいないみたいだな。
お前も人買いを商売にしているなら、今後の勉強のために、オレの自慢の奥さんたちをちょっと見ていきなよ。」
こう言う主人の声に合わせて、例の七人の側室たちは、まるでよく訓練されたハトのように、すーっとすだれの隙間からその場へぞろぞろと姿を現しました。
それぞれが思い思いの美しいドレス(羅綾)をまとい、それぞれが自慢の髪飾り(掻頭)をきらめかせています。そんな彼女たちの後ろには、それぞれ二人の可愛いお供の少年たち(双鬟の美少年)が左右に控え、ずっと柄の長い赤い絹の団扇(絳紗の団扇)で彼女たちの赤いほっぺたに心地よいそよ風を送っていました。
彼女たちはまるで七人の女王様のように、まぶしいほどの自信たっぷりの笑顔を浮かべたまま、お坊ちゃまの周りにピタッと立ち並んで、お互いに顔を見合わせたままいつまでも黙っていました。
黙っていればいるほど、彼女たちの美しさはますます鮮やかに輝きを増し、どんなにお金や欲に目がくらんだ人買いであっても、思わずうっとりと見とれずにはいられません。
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