初級翻訳・十二人兄弟 第2話

グリム ヴィルヘルム・カール

「もし十二人のおにいさまたちを助けられるのなら、あたし、喜んで死ぬわ!」
「いけない、いけない!」
と、ベンジャミンは答えました。
「おまえを死なせたりするものか。とにかく、十一人のにいさんたちが帰ってくるまで、このベッドの下にかくれておいで。にいさんたちが帰ってきたら、ぼくがうまく話をしておくからね」

お姫さまは言われたとおりにしました。やがて夜になると、ほかのにいさんたちが狩りから帰ってきました。食事のしたくは、ちゃんとできていました。みんながテーブルについて食べているとき、にいさんたちがベンジャミンにたずねました。
「なにか変わったことはないかい?」
すると、ベンジャミンが言いました。
「にいさんたちは、なにも知らないの?」
「うん」
と、にいさんたちは答えました。
そこで、ベンジャミンは言葉をつづけて言いました。
「にいさんたちは森へ行っていたけれど、ぼくはずっとうちにいたんだ。でも、ぼくのほうがずっといろんなことを知っているよ」
「じゃあ、話してくれよ!」
と、にいさんたちは口ぐちに言いたてました。
「それなら、ぼくたちが出会う最初の女の子だけは殺さないって、約束してくれる?」
と、ベンジャミンが言うと、みんなは言いました。
「いいよ、いいよ!」「いいとも、その子だけは許してやろう。さあ、話してくれ!」

みんなが声をそろえてそう言いました。そこでベンジャミンは言いました。
「実はね、妹がここにいるんだよ」

そう言ってベンジャミンが桶をどけると、立派な着物を着て、ひたいに金の星をつけたお姫さまが現れました。それはこの世のものとは思えないほど美しく、やさしく上品な姿でした。みんなは大喜びで、お姫さまの首に抱きつき、何度もキスをしました。そして、心から妹を愛おしく思ったのです。

それからは、お姫さまはベンジャミンと一緒に家にいて、仕事の手伝いをするようになりました。十一人のにいさんたちは森へ出かけていき、獣やシカ、鳥や小バトなどを捕まえてきました。それがみんなの食べものになりました。それをいろいろな料理にするのが、ベンジャミンと妹の役目でした。妹は煮炊きのための薪を拾ったり、野菜の代わりにする草花を探してきたり、お鍋を火にかけたりしました。そうして、十一人のにいさんたちが帰ってくるころには、いつでも食事の支度ができているようにしておきました。そればかりか、妹は家の中をきれいに片づけたり、寝床に真っ白で清潔な敷布をきちんとかけたりしました。ですから、にいさんたちはいつも満足しきって、妹と一緒に仲よく暮らしていました。

あるときのことです。ふたりは家においしいご馳走を用意しました。みんなが集まってくると、それぞれ席について、食べたり飲んだりしました。みんなは本当に幸せそうでした。

ところで、この魔法をかけられている小屋には小さな庭があって、その中にユリのような花が十二輪咲いていました。この花は、またの名を「シュトデンテン」ともいいます。妹は、この十二の花を折り取って、食事のあとで兄さんたちのひとりひとりに、その花をひとつずつプレゼントしようと考えました。そうして兄さんたちを喜ばせようと思ったのです。

ところが、どうしたことでしょう。妹が花を折り取ったとたん、十二人の兄さんたちの姿は十二羽のカラスに変わってしまい、そのまま森の彼方へと飛び去ってしまったではありませんか。それと同時に、家も庭も、跡形もなく消え失せてしまいました。

かわいそうに、女の子はおそろしい森の中にひとりぼっちになってしまいました。あたりを見回すと、すぐそばにひとりのおばあさんが立っていました。おばあさんは言いました。
「おや、おまえはいったい何をしたんだい。どうして、十二の白い花をそっとしておかなかったんだい。あれは、おまえの兄さんたちだったのさ。兄さんたちは、今じゃカラスになっちまって、もう二度と元の姿には戻れないよ」

女の子は泣きながら言いました。
「本当に、兄さんたちを助ける方法はないんでしょうか」
「だめだねえ」とおばあさんは言いました。「その方法は、たったひとつあるにはあるけれど、あまりに難しすぎて、おまえにはとても無理だろうよ。なにしろ、七年というあいだ、おまえはひと言もしゃべらずに通さなければならないんだからね。口をきいてもいけないし、笑ってもいけない。もしおまえが、たったひとことでも口をきこうものなら、たとえ七年にほんの一時間だけ足りなかったとしても、すべてが水の泡になってしまうのさ。しかも、そのたったひとことのせいで、おまえの兄さんたちは殺されてしまうんだよ」

それを聞いて、女の子は心の中で誓いました。
(あたし、きっと、兄さんたちを助けてみせるわ)

それから、女の子は歩いていきました。一本の高い木を見つけると、その上に座って、糸をつむぎ始めました。もちろん、口もきかず、笑いもせずに。

さて、あるときのこと、ひとりの王さまがこの森へ狩りにやってきました。王さまは一匹の猟犬を連れていましたが、その犬が女の子の登っている木のところへ走っていき、その周りを飛び跳ねては、しきりに木の上に向かって吠え立てました。不思議に思った王さまが近づいてみると、驚いたことに、ひたいに金の星をつけた美しいお姫さまが、木の上に座っているではありませんか。

お姫さまのあまりの美しさに、王さまはうっとりとして、自分の妃にならないかと声をかけました。お姫さまは何の返事もしませんでしたが、ほんの少しだけ頷いてみせました。それを見た王さまは、自らその木に登って、お姫さまを抱きかかえて降ろしました。それから、自分の馬に乗せて、一緒にお城へと連れ帰りました。やがて、ご婚礼の式が、めでたく、立派にとりおこなわれました。それでも、お妃さまはひとことも口をきかず、笑うこともしませんでした。
ふたりは何年ものあいだ、幸せな暮らしを続けていました。
ところが、王さまのお母さまはもともと意地悪な人でしたから、やがて若いお妃さまのことを悪く言うようになりました。
そして、王さまにこんな告げ口をしたのです。
「あの子は、どこから来たのかもわからない、いやしい身分の娘ですよ。
かげでこっそり、どんな悪いことをしているかわかったものじゃありません。
口がきけないにしても、一度くらいは笑いそうなものです。
とにかく、笑わない人は心のねじ曲がった人ですよ」
王さまは、最初のうちはそんな話を信じようとはしませんでした。
けれども、お母さまがいつまでもそう言い張り、いろいろな悪いことをお妃さまのせいにしたため、とうとう王さまも言いくるめられてしまい、お妃さまに死刑を言い渡しました。
こうして、お城の庭で大きな火が焚かれました。
この火の中で、お妃さまが焼き殺されることになったのです。
王さまは二階の窓辺に立ち、涙を流しながらその様子を眺めていました。
だって王さまは、今でもなお、お妃さまのことが大好きでたまらなかったのですから。
いよいよ、お妃さまが柱に縛り付けられました。
火が早くも赤い舌をチョロチョロと動かし、お妃さまの着物をなめ始めました。
ちょうどそのとき、七年という年月の最後の瞬間が過ぎ去ったのです。

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