初級翻訳・原つぱの子供会 第2話

原つぱの子供会

第一番目の『生き物だから』……むやみに殺してはいけないということは、どう思います? 誰か、自分の思うことを、間違っていてもいいから、元気に言ってみませんか?」

すぐ背の高い、尋常五年の男の子が手を挙げました。時光という会社員の子で、頭のいい子供委員です。

「はい、時光さん。」

「生き物をむやみに殺すことは、僕もよくないことだと思います。けれど、毛虫は悪いことしかしない虫です。だからそれを殺すことは、生き物をむやみに殺すことではないと思います。」

今度は女の子の子供委員、高田好子さんが手を挙げました。お父さんは市電の車掌で、好子さんは尋常六年生でした。

「高田好子さん。」

「わたしは、むやみになんて言わなくても、悪い虫なら殺したほうがいいんだと思います。赤痢やコレラのバイキンと同じだと思います。生き物だからむやみに殺してはいけないのだとしたら、何とかいう昔の坊さんのように、ノミでもシラミでも自分の体に飼っておかなければならないし、赤痢やコレラのバイキンだって、やっぱり生き物だからむやみに殺せないということになるんだろうと思います。そんなバカバカしい理屈はないと思うわ。」

「その通りだ!」

二、三人の男の子や女の子が、すぐ賛成しました。
水野さんは満足そうに、こう言いました。

「今の答えははっきりしていたと思いますが、みんなよく分かったでしょうか? つまり、『悪い虫なら、いくら殺したってよい』という意見です。生き物をむやみに殺してはいけないということは、その生き物が人間にためになる、よいことをする生き物の場合だけに言えることなんです。例えば、いつか顕微鏡で見た『てんとう虫』ですね、あれは悪い虫を食べてくれるよい虫です。だから『てんとう虫』なんかは、顕微鏡で見るためとか、標本を作るためとかの他は、むやみに殺してはいけないのです。わかりましたね? それがわかったら、次に、第二の『何も知らないで悪いことをしているのだから』……むやみに殺してはいけないということについて、みんなで考えてみることにしましょう。」

すると、さっきの文子さんがすぐ手を挙げました。文子さんは尋常五年生で、お父さんは雑誌の挿絵を描く画家でした。

「はい、文子さん。」

「わたし、さっきの考えは間違っていましたから、みんな取り消します。今のバイキンの話で、わたしよく分かりました。毛虫もバイキンと同じようなもので、人間に少しも益になることをしない、悪い虫です。」「ですから、毛虫自身は何も知らずにやっていることだとしても、また悪いことをするのが生まれつきの性質だとしても、やっぱり赤痢やコレラのバイキンと同じことだと思います。
好子さんが言ったように、わたしも悪い虫なら、むやみに……いいえ、一匹残らず殺してしまったほうがいいんだと思います。」

水野さんは感心して、二度も三度も頷きました。
それから欣一君にこう言いました。
「欣一さんはどう思います?」
欣一君は「気をつけ!」の姿勢をして、活発に答えました。
「僕も、一匹残らず、みな殺しにしたほうがいいんだと思います。」

水野さんは満足そうに頷きました。
それからこう言いました。
「みんなよく考えました。
そうです! そのとおりですわ。
わたしたちは、この世の中を、みんな仲よく働いて、誰もが住みよい場所にしたいのです。
そのためには、たとえ小さい一匹の毛虫だって、見つけしだい殺さなければいけないのです。
自分が刺されなくたって、他の誰が刺されるかわからないのですから。
この世の中を住みよくするというのは、結局のところ、人間の働きの邪魔をするものや、害になるものを見つけしだい、どんなに小さくても、一つでも半分でもいなくしてしまう……ということ以外に、どんなよい方法もないのです。
わかりましたね?」

それから水野さんは、みんなを芝生の上に座らせて、次のような面白い話をしました。

――昔、中国に孫叔傲(そんしゅくごう)という名高い学者がいました。
この人がまだ子供の時分、ひとりで野原で遊んでいると、のろのろと頭が二つある蛇が這い出してきました。
二本頭の蛇は、たまに見世物小屋などにやってくることがあります。
これは「両頭の蛇」と言って、蛇の奇形なんです。カエルやトカゲなどにも、よくこんなのがいます。
頭は二つが重なっていることもあれば、右と左に二股に分かれてくっついていることもあります。胴や尻尾は普通です。
昔の中国では、この蛇を見た者は必ず二、三日のうちに死ぬと言われていたので、それを見つけた孫叔傲は真っ青になってしまいました。
ブルブルと体が震えだしました。
もうすぐ死ぬのだと思うと、ワッと泣き出したくなりました。
けれど、後に有名な学者となったほどの人ですから、ふと、子供ながらに考えたのです。
もしこの蛇を生かしておいたなら、これから先、何人の人がこいつを見て死ぬかもしれない。
よし、これはむしろ殺してしまって、二度と人の目にかからないようにしたほうがいい!
そこで大急ぎで石を拾って打ち殺し、深い穴を掘って蛇を埋めてしまいました。
そして黙って家に帰りましたが、あまりに顔色が悪いのでお母さんが心配してあれこれ尋ねると、とうとう蛇を殺して埋めてきたことを話してしまいました。
するとお母さんは大そう喜んで、「お前は大変よいことをしたのです。その心がけさえ忘れなければ、きっと立派な人になれるでしょう……」と褒めましたが、その言葉通り、後に名高い学者になったということです。――

話が終わった時、突然、デブさんの友一君が立ち上がりました。
そして大根のような短い腕を振り回しながら、元気にこう言いました。
「おい、みんな!
おれたちもみんなでおしかけて行って、松男君を刺した毛虫の野郎を、一匹残らず殺してこようぜ! ひょっとすると、おれたちの中にも、今聞いた中国の学者みたいな将来の偉人がいるかもしれないんだぞ。
それに一匹殺せば、一匹だけ毛虫が減ることは間違いないことなんだから……」
「デブさん、最高だぞ!」
「異議なし! 賛成だ!」
みんなパチパチと手を叩きました。
子供委員の一人が立ち上がって、水野さんにこう聞きました。
「みんなが毛虫退治に行きたいと言っていますから、十分ほど行かせてください。」

水野さんはニコニコして答えました。
「どうぞ。行ってらっしゃい。
じゃあ、みんなが集めているものは、すっかりここへ置いていってください。
あなたたちが帰ってくるまでに、ちゃんと分類して、顕微鏡ですぐ見られるようにしておきますから。
それから退治した毛虫は持ってきて、ここで人を刺す毛を、みんなでよく観察することにしましょう。顕微鏡にかけてね。」

みんな躍り上がりました。
そして、さっき泣いて帰った松男君を先頭にして、ワァーッと喚声を上げながら、バラバラと向こうの茂みを目指して走っていくのでした。

―昭和七年一〇月二四日作―

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