すぐに吐き出さないと!」
チュンセ童子は黙って、傷口から六回ほど毒の混じった血を吸っては吐き出しました。すると大烏がようやく意識を取り戻し、うっすらと目を開けて言いました。
「あ、どうもすみません。私はどうしたのですかな。たしか、あの野郎を仕留めたはずなのだが……」
チュンセ童子が言いました。
「早く流れでその傷口を洗いなさい。歩けますか?」
大烏はよろよろと立ち上がって蠍を見ると、また体を震わせて言いました。
「畜生、空の毒虫め。空で死んだのをありがたいと思え!」
二人は大烏を急いで流れへ連れて行きました。そして綺麗に傷口を洗ってやり、さらにその上から二、三度、香しい息を吹きかけて言いました。
「さあ、ゆっくり歩いて、明るいうちに早くおうちへ帰りなさい。これからこんなことをしてはいけませんよ。王様はみんなご存じなのですから」
大烏はすっかりしょげ返って翼を力なく垂らし、何度も頭を下げました。
「ありがとうございます。ありがとうございます。これからは気をつけます」
そう言いながら、足をひきずって銀色のすすきの野原の向こうへ去っていきました。
二人は次に蠍を調べてみました。頭の傷はかなり深かったのですが、もう血は止まっています。二人は泉の水をすくって傷口にかけ、綺麗に洗いました。そして、交代で「ふっ、ふっ」と息を吹きかけました。
お日様がちょうど空の真ん中においでになった頃、蠍がかすかに目を開きました。ポウセ童子が汗を拭きながら尋ねます。
「どうですか、気分は?」
蠍が弱々しくつぶやきました。
「大烏めは死んだか?」
チュンセ童子が少し怒って言いました。
「まだそんなことを言うんですか。あなたこそ死ぬところだったんですよ。さあ、早くうちへ帰るために元気を出して。明るいうちに帰れなかったら大変ですよ」
蠍が目を怪しく光らせて言いました。
「双子さん、どうか私を送ってくれませんか。お世話のついでに」
ポウセ童子が言いました。
「送ってあげましょう。さあ、つかまってください」
チュンセ童子も言いました。
「さあ、僕にもつかまって。早くしないと明るいうちに家へ着けません。そうすると今夜の星めぐりができなくなりますよ」
蠍は二人につかまって、よろよろと歩き出しました。二人の肩の骨は今にも折れそうです。蠍の体は実に重く、大きさから言っても童子たちの十倍ほどはあるのです。けれども二人は顔を真っ赤にしてこらえ、一歩ずつ歩きました。蠍は尾を「ギーギー」と石ころの上に引きずり、嫌な息を「はあはあ」と吐きながら、よろりよろりと歩くのです。一時間に十町(約一キロ)も進めません。もう童子たちは、蠍がとても重い上に、その鋭い手が肩に深く食い込んで痛いので、自分たちの肩や胸がまだ自分の体についているのかどうかも分からなくなりました。
空の野原は、きらきらと白く光り輝いています。
二人は七つの小さな流れと、十もの広い芝生を通り過ぎました。
童子たちは頭がぐるぐると回り、自分が歩いているのか立っているのかさえ分からなくなりました。
それでも二人は黙ったまま、やはり一歩ずつ進んでいきました。
さっきからもう六時間も経っています。
蠍の家までは、あと一時間半はかかるでしょう。
もうお日様が西の山に沈もうとしています。
「もう少し急げませんか。私たちも、あと一時間半のうちにおうちへ帰らないといけないんです。……でも、苦しいのですか。とても痛みますか」とポウセ童子が尋ねました。
「はい。もう少しでございます。どうかお慈悲を……」と蠍が泣きながら言いました。
「ええ、もう少しですよ。傷は痛みますか」とチュンセ童子が、肩の骨が砕けそうなのをじっとこらえて言いました。
お日様がもう、サッサッサッと三度、厳かに揺れながら西の山にお沈みになりました。
「もう僕らは帰らないといけない。困ったな。このあたりに誰か居ませんか!」とポウセ童子が叫びました。
天の野原はしんとしていて、何の返事もありません。
西の雲は真っ赤に輝き、蠍の目も赤く悲しげに光りました。
光の強い星たちが、もう銀の鎧を着て歌いながら、遠くの空に現れたようです。
「一つ星を見つけた。長者になあれ!」と、下の方で一人の子供がそっちを見上げて叫んでいます。
チュンセ童子が「蠍さん、あと少しです。急げませんか。疲れましたか」と声をかけました。
蠍が哀れな声で「どうも、すっかり疲れてしまいました。どうか、ほんの少しですからお許しを……」と答えます。
「星さん星さん、一つの星で出るもんじゃない。千も万もで出るもんだ」
下の方で、別の子供が叫んでいます。
もう西の山は真っ黒です。あちこちで星がちらちらと現れました。
チュンセ童子は背中が曲がって、今にも潰れそうになりながら言いました。
「蠍さん、もう僕らは今夜の時間に遅れてしまいました。きっと王様に叱られます。ひどければ流されてしまうかもしれません。けれども、あなたがふだん居る場所に帰れなかったら、それこそ大変なことです」
ポウセ童子が「僕はもう疲れて死にそうです。蠍さん、もっと元気を出して早く帰ってください」と言いながら、とうとうバッタリと倒れてしまいました。
蠍は泣いて言いました。
「どうか許してください。私は馬鹿でした。あなた方の髪の毛一本にも及びません。きっと心を改めて、このお詫びはいたします。きっといたします」
その時、水色の激しい光の外套を着た稲妻が、向こうからギラッとひらめいて飛んできました。
そして童子たちに手をついて言いました。
「王様のご命令でお迎えに参りました。さあ、ご一緒に私のマントへおつかまりください。すぐにお宮へお連れします。王様はどういうわけか、さっきからひどくお喜びでございます。……それから蠍、お前は今まで憎まれ者だったな。さあ、この薬を王様からいただいた。飲みなさい」
童子たちは叫びました。
「それでは蠍さん、さようなら! 早く薬を飲んでください。それから、さっきの約束ですよ。きっとですよ。さようなら!」
そして二人は一緒に稲妻のマントにつかまりました。
蠍はたくさんの手をついて平伏し、薬を飲んでから丁寧にお辞儀をします。
稲妻がギラギラッと光ったと思うと、もういつのまにかさっきの泉のそばに立っていました。
そして稲妻は言いました。
「さあ、すっかりお体を洗いなさい。王様から新しい着物と沓(くつ)をいただきました。まだ十五分間あります」
双子のお星様たちは喜んで、冷たい水晶のような流れを浴び、匂いのいい青光りする薄物の衣を着て、新しい白光りする沓を履きました。
すると、体の痛みも疲れも一遍に取れて、すがすがしい気分になりました。
「さあ、参りましょう」と稲妻が言いました。
そして二人がまたそのマントに取りつくと、紫色の光が一度パッとひらめき、童子たちはもう自分のお宮の前に居ました。
稲妻はもう見えません。
「チュンセ童子、それでは支度をしましょう」
「ポウセ童子、それでは支度をしましょう」
二人はお宮に登り、向き合ってきちんと座り、銀の笛を取り上げました。
ちょうどあちこちで、星めぐりの歌が始まりました。
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