それと一緒に、一人の神さまは女神の後ろへ回って、
「どうぞ、もうこれからうちへはお入りくださいませんように」と申し上げて、そこへしめ縄を張り渡してしまいました。
それで世界じゅうは、やっと長い夜が明けて、再び明るい昼が来ました。
神々たちは、それでようやく安心なさいました。
そこでさっそく、みんなで相談して、須佐之男命(すさのおのみこと)には、あんなひどい乱暴をなすった罰として、財産をすっかり差し出させ、そのうえに、立派なお髭も切り取り、手足の爪まではぎ取って、下界へ追い下してしまいました。
そのとき須佐之男命は、大気都比売命(おおげつひめのみこと)という女神に、何か物を食べさせよとお命じになりました。
大気都比売命は、お言葉に従って、さっそく鼻の穴や口の中からいろいろの食べ物を出して、それをいろいろにお料理して差し上げました。
すると須佐之男命は大気都比売命のすることを見ていらして、
「こら、そんな、お前の口や鼻から出したものが俺に食えるか。無礼なやつだ」と、たいそうお怒りになって、いきなり剣を抜いて、大気都比売命を一打ちに切り殺しておしまいになりました。
そうすると、その死骸の頭から蚕(かいこ)が生まれ、両方の目に稲がなり、二つの耳に粟(あわ)がなりました。
それから鼻には小豆がなり、お腹に麦と大豆がなりました。
それを神産霊神(かみむすびのかみ)がお取り集めになって、日本じゅうの穀物の種になさいました。
須佐之男命は、そのまま下界へ降りておいでになりました。
八俣の大蛇(やまたのおろち)
一
須佐之男命は、大空から追い下ろされて、出雲(いずも)の国の、肥の河(ひのかわ)の河上、鳥髪(とりかみ)というところへお下りになりました。
すると、その河の中から箸が流れてきました。
命は、それをご覧になって、
「では、この河の上の方には人が住んでいるな」とお察しになり、さっそくそちらの方へ向かって探し探しおいでになりました。
そうすると、あるおじいさんとおばあさんとが、真ん中に一人の娘を座らせて三人で「おんおん」と泣いておりました。
命は、お前たちは何者かとお尋ねになりました。
おじいさんは、
「私は、この国の大山津見(おおやまつみ)と申します神の子で、足名椎(あしなづち)と申します者でございます。妻の名は手名椎(てなづち)、この娘の名は櫛名田媛(くしなだひめ)と申します」とお答えいたしました。
命は、
「それで三人ともどうして泣いているのか」と、重ねてお聞きになりました。おじいさんは涙をふいて、こう言いました。
「私たち夫婦にはもともと八人の娘がおりましたが、八俣の大蛇(やまたのおろち)という恐ろしい怪物が毎年現れては、一人ずつさらって食べてしまい、とうとうこの子一人になってしまいました。この子も、もうすぐあの大蛇が食べにやって来るのです」
そう言って、なぜみんなで泣いているのかを話してくれました。
「その大蛇とは、いったいどんな姿をしているのだ」と、命はお聞きになりました。
「その大蛇というものは、胴体は一つですが、頭と尾が八つに分かれており、その八つの頭には赤ほおずきのように真っ赤な目が、燃えるように光っております。体中にはコケやヒノキ、スギの木などが生い茂っております。その体長は、八つの谷と八つの山のすそをぐるりと取り囲むほど、とてつもなく大きな怪物でございます。お腹はいつも血にただれて真っ赤になっております」と、恐ろしそうに語りました。
命は「ふん、なるほど」とうなずかれました。
そして、改めておじいさんに向かって言いました。
「その娘がお前の子なら、わしのお嫁にくれないか」
「恐れ多いことではございますが、あなた様がどこのどなた様か存じませんので……」とおじいさんは不安げに、恐る恐る答えました。
命は、「実は、おれは天照大神の弟だ。たった今、天から降りてきたばかりである」と、身分を明かしました。
すると足名椎(あしなづち)と手名椎(てなづち)は、「そうでございましたか! これはこれは、大変失礼いたしました。それならば、どうぞお仰せのままにお差し上げます」と、両手をついて平伏しました。
命は櫛名田媛(くしなだひめ)を譲り受けると、たちまち媛を小さな櫛に変えてしまいました。
そして、その櫛をすぐにご自身の髪の毛に挿し、足名椎と手名椎に向かって命じました。
「お前たちはこれから米を噛んで、強い酒をたくさん作れ。それから、この家の周りに垣根をこしらえて、八つの入り口を作れ。そしてそれぞれの門の内側に台を置き、その上に大きな桶を一つずつ並べて、二人で作ったその強い酒をたっぷり入れて待っておれ」
二人は言いつけ通りにしっかりと準備を整えて待ちました。
やがて、大蛇が現れる時間が近づいてきました。
命がじっと待ち構えていると、まもなく二人が言った通り、巨大な八俣の大蛇が八つの真っ赤な目をギラギラと光らせながら、のそのそと姿を現しました。
大蛇は目の前に八つの酒桶が並んでいるのを見ると、いきなり八つの頭を一つずつ桶に突っ込み、そのたくさんのお酒を、がぶがぶとあっという間に飲み干してしまいました。
するとまもなく、体中に酔いが回ったのか、その場に倒れ込み、ぐうぐうと寝息を立て始めました。
須佐之男命(すさのおのみこと)は、そっとその寝息をうかがっていましたが、今だとばかりに十拳(とつか)の剣を引き抜くと、「おのれ、おのれ!」と次々にお切りつけになりました。
そのうちに八つの尾の中ほどを切りつけたとき、何か硬いものに当たって剣の刃先が少し欠けてしまいました。
命は「おや、変だな」と思い、その場所を切り裂いてみると、中から刃の鋭い立派な剣が出てきました。
命は、これは不思議なものが手に入ったとお思いになり、その剣は後に天照大神へ献上されました。
命はついに、大きな大蛇の体をずたずたに切り刻んでしまいました。
そして、「足名椎、手名椎、ここへ来て見てみよ。この通りだ」とお呼びになりました。
二人がガタガタと震えながら出てくると、そこら一面は切り刻まれた大蛇の体から吹き出る血でいっぱいになっていました。その血が肥の河(ひのかわ)へ流れ込み、河の水も真っ赤に染まって流れていきました。
命はそれから櫛名田媛と共に、この出雲の国で暮らそうと、住む場所を探してあちこち歩き回りました。
そして、最後に須加(すが)という場所へたどり着くと、「ああ、ここへ来ると心持ちがせいせいする。ここは良い土地だ」とおっしゃり、そこに立派な御殿を建てました。
そして足名椎神をそのお宮の守り役の長に任じました。
命には、その後も次々とお子様やお孫様が生まれていきました。その八代目のお孫さまのお子さまに、大国主神(おおくにぬしのかみ)、またの名を大穴牟遅神(おおあなむぢのかみ)とおっしゃる立派な神さまがお生まれになりました。
むかでの室、へびの室
一
この大国主神には、八十神(やそがみ)といって、何十人というほどの大勢のご兄弟がおありになりました。
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