初級翻訳・吹雪物語 第17話

吹雪物語

すでに生きる力を失いながらも、なおも生き続ける、その執拗で冷たい意志のいやらしさでした。

(自殺のことを言っているのなら、いっそ死ねばいいのに)
由子は顔をそむけ、心の中でつぶやかずにはいられませんでした。
自殺。
この男の弱々しさは、まるで自殺者のそれと同じです。
けれど、同じくらいにふてぶてしい。
自殺は形を変えた他殺だと言われますが、この男こそは、自らの自殺という行為の中に、大勢の人を巻き込んで殺してしまうのでしょう。
自ら血を流すことで他人を傷つけ、血潮が尽き果ててもなお、執念深い意志だけは生き続け、人々を呪い続けるのです。
この生臭く、決して消えない暗闇のような心と向き合う勇気は、由子にはありませんでした。
惨めな男。
もう相手を思いやる心も残っていない以上、ただ哀れむことしかできませんでした。

こうして、終わりが来ました。
――急速に、冷徹な決意が由子の全身を占め、もはや終わりを急ぐ足音だけが、はっきりと聞こえていました。

次の停車場で、野々宮は降りました。
もう新潟はすぐそこでした。
由子はホームへ降り、野々宮の手を握りしめました。
「お体を大切に」由子は優しく言いました。
「心をゆっくり休めて。強くなってから、また帰ってきてね」

野々宮の濁った瞳に、弱々しい笑みの影がさしました。
口元には、まるで仮面のように笑いが張り付いています。
彼は素直にうなずきました。
まるで檻の中の熊のように、何度も同じようにうなずき、何度も無言でお辞儀を繰り返して、去っていきました。

汽車が動き出しました。
由子は初めて、窓の外の景色に目が向きました。
蒲原平野の、寒々とした水田が広がっています。
どんよりとした冬空を映した水が、ただ満々とたたえられているだけ。
たまに畦道に生えたハンノキが、枯れ枝を冬空に広げているだけでした。

その時、後ろで音もなく誰かが立っている気配がしました。
振り返ると、そこにいたのは野々宮でした。
濁った目は、悲しみのあまり、いっそう暗く沈んでいるようでした。
彼はまた、際限なく会釈を繰り返しました。
そして、何も言わずに座席に座り込みました。
その口元には、別れたときと同じ、薄い笑いじわがこびりついていました。

心はどこに行ってしまったのでしょうか。
おそらく、すでに失われてしまったのでしょう。その肉体の生気と同じように。
そうとしか思えませんでした。
口元に結びついた笑いじわだけが、唯一、彼の執拗な心のように見えたのです。

「どちらへ行っても、忘れ物をしているような気分です」と、野々宮はつぶやきながら笑いました。
階段の途中で、夢中になって引き返したとき、すでに汽車が動き出していたので、とっさに近くの車両に飛び乗ったのだと言います。
しばらくの間、知らない人たちに囲まれてぼんやりと立っている自分ですら、他人のような気がしていました。
掌に、消えてしまった煙草と切符を一緒くたに握りしめていることさえ、長い間気づかないほどでした。

「汽車に飛び乗れて、よかったわね」と、由子は放心したように言いました。
「山は冷たいわ。突然雪が積もったら、帰るに帰れなくなってしまうでしょう。二週間も三週間も閉じ込められてごらんなさい。寂しさに耐えられず、痩せ細ってしまうわ」

野々宮は再び、きりもなくうなずきました。
幼い子供が母親の言葉に応えるように。
その母親の、嘆きと苛立ちに応えるように。

野々宮は一度汽車から降りたとき、改札へ出すつもりで切符をポケットから取り出していました。
再び汽車へ戻り、元の座席に座ってからも、切符を片手に握りしめていたのです。
握りしめられた切符は、もう皺だらけでした。
野々宮は、それを両手の指先で伸ばし始めました。
皺を丁寧に折り返し、それから一つ一つの跡を、指先で平らにこすっているのです。
文字が消えて読めないほど汚れても、もう構わないようでした。
やがて切符の隅から、爪先でつまめる最小限の細かさに、ちぎり捨て始めました。
パン屑を払っているかのようでした。

彼の心は、そこにはありませんでした。
口元の薄い笑いは、すでに汚れた古い仮面のようでした。
その仮面の表情こそが、彼の心のすべてであるように思われました。
由子は切符が千切られていく様子に気づいていましたが、知らぬふりをするほかありませんでした。
哀れな男。
顔をそむけて窓の外の景色だけを見つめながら、その景色さえもが、すっかり冷めきった別のものに変えられてしまったことに気づかずにはいられませんでした。
その空っぽな心に、耐えがたい思いを感じるばかりでした。ああ、景色さえも冷めきったものに変えてしまうこの男。
なんと執念深く、そして冷たい奴なのだろう。
由子はむしろ、ため息をつかずにはいられませんでした。
切符はすでに細かくちぎられ、尽くされていました。
野々宮の膝の上から足元にかけて、一面に埃のような白い屑が積もっています。
「おやおや。切符をちぎってしまったかしら」
野々宮はしばらくして、小さな声を上げました。
そして、困惑したような笑みを浮かべました。自分がちぎってしまったことを、信じられないようでした。
彼はポケットを探るような仕草をしましたが、やがて諦めてしまいました。
しかし、汽車が新潟に着くと、野々宮の困惑がよみがえってきました。
「どうしたらいいんだろう」
彼は弱々しく由子に尋ねました。
「お金を払えば、なんでもないわ」
由子は答えました。
「どこで?」と彼はさらに食い下がります。
「だって、駅員さんに、どういう風に言い訳すればいい? 僕の弁明を信用してくれなかったら? あの人たちが僕の言葉を疑ったらどうするんだい。乗車駅すら、そうでしょう? それすら僕には証明する手段がないのだもの」
困惑の果ての言葉でしたが、その物言いは、まるで由子をなじっているように聞こえました。
そのしつこさに、由子は再び激しい憎しみを覚えました。
野々宮の顔は、困惑によって、かえって空っぽな明るさを宿していました。ほんのわずかな窮屈さが混じっているだけの、空虚な表情です。
改札口へ近づくと、流れるような人波の列から、彼は突然ひらひらと、落ちるように外へはみ出しました。
まるで自分自身の神経に押し出されるように、列からはじき出されたようです。
ふたたび彼の全身は、もつれ合った神経そのものになっていました。彼の体は、無数のよじれた糸のような、暗いうねりに見えたのです。
野々宮は精算室へ入りましたが、当たり前の返答すら自由にできない様子でした。
駅員の問いかけに対して、「ええ」とか「いいえ」と答えるのが精一杯のようでした。
物腰だけは極めて丁寧でした。そしてそこでも、駅員の一言一言に対して、際限なくお辞儀に似た動きを繰り返していました。

こうして旅は終わりました。
ついに終わってしまったのです。ある男とのつながりが。
「旅行って、不思議なものね。旅行の前後のつながりが断ち切られたような、白々しい感覚を残すのだもの」
由子は卓一に言いました。
「帰ってみると、旅行の前までは親しかったはずのものが、嘘のように冷たく、空々しく私を迎えている気がするわ。万代橋も、信濃川も。

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