というのも、この石木の丸太は、スリネズミたちの小さな武器では傷一つつけられないほど頑丈だったからです。
しかし、グラントが目を凝らすと、小悪魔の一団が扉の周りに群がっているのが見えました。たちまち、やつらの狙いが分かりました。彼らは何かの綱を扉の取っ手に巻きつけて、力任せに回そうとしていたのです。
グラントは叫び声を上げて突進しました。まだ15メートルほど距離がありましたが、次の瞬間、扉が内側に開き、スリネズミたちが暴徒となって小屋になだれ込みました。グラントも負けじと入口へ駆け込みます。
小屋の中は大混乱でした。頭巾をかぶった小鼠たちは、寝床の毛布や予備の衣服、強心草の袋、さらには料理道具など、固定されていないものをすべて引っ張り出して切り刻んでいました。グラントはわめきながら群れを蹴り飛ばしました。一斉に「チューチュー」とわけのわからない怒声を上げ、スリネズミたちはひらりと身をかわして逃げます。
小悪魔たちはとても賢く、グラントが両手にリー・ニーランを抱えて身動きが取れないことを承知していました。彼らはグラントの蹴る方向をさっと避けては、グラントが炉の付近で威嚇している隙に、別の場所で毛布を切り裂くという連携を見せました。
グラントはあわてて寝床へ駆け寄りました。女の体に付いた汚れを素早く拭き取って寝台に寝かせると、今度は家事用のほうきを掴み取りました。柄を握りしめ、大きく振りかぶってスリネズミたちを叩くと、キーキーという激痛の叫び声や悲鳴が入り混じりました。数匹が扉へ突進し、略奪品を引きずり出していきます。
ふと見回すと、6匹の群れがニーランにたかり、衣服や腕時計、さらには小さな足に付けた光沢のある夜会靴まで切り刻んでいました。グラントは悪態をつきながら彼らを叩き散らしました。どうか毒剣や鋭い牙で女が刺されていないようにと、心の中で祈りながら。
やがて小競り合いに勝ち目が見えてきました。やつらの大部分が略奪品を抱え、黒いマントを翻して入口へ殺到します。ついに、一斉にキィーキィーと叫びながら、ある者は両手に戦利品を抱え、ある者は手ぶらで、突進するように駆け出していきました。後には何十匹もの毛むくじゃらな小悪魔たちの死骸が残されました。
グラントは残った連中を旧式兵器のほうきで次々と掃き出し、入口でちょこちょこ動いているべらぼうたちの鼻先で扉を閉めました。スリネズミが再び侵入して悪戯をしないよう、しっかりと掛け金を下ろし、無残に荒らされた部屋をうんざりした様子で見渡しました。
缶は転がり、中身はすべて抜き取られています。固定されていないものはすべてスリネズミの小汚い手で荒らされ、壁に吊るしていたグラントの衣服もボロボロです。ですが、盗人たちは戸棚や食卓の引き出しを開けることはできず、食料だけは無事でした。
イオで6か月も暮らしていれば、グラントも達観してくるものです。彼は思いっきり毒づき、諦め顔で肩をすくめると、棚から気付け薬の瓶を取り出しました。グラント自身はすでに薬を飲んでいたため、白熱病はすっかり消えていました。しかし、女はまだ飲んでおらず、顔面蒼白のまま動けずにいます。瓶を確認すると、8錠残っていました。
「さて、俺はいつでも強心草を噛めばいい」
グラントは独り言を言いました。強心草はアルカロイドより効果は薄いものの、それなりに効き目があります。何より、リー・ニーランにはこの錠剤が必要でした。グラントは2錠をコップの水に溶かし、リーの頭を持ち上げました。彼女は飲み込めないほど衰弱してはいませんでしたが、血の気の引いた唇に溶液を含ませ、できるだけ楽な姿勢を整えてやりました。
リーの絹の服はズタズタに切り裂かれており、グラントが掛けてやった毛布も同様の状態でした。グラントは自分の棘ヤシの傷を消毒し、椅子を2脚引っぱり出して並べ、その上に横になりました。
屋根をガリガリと引っ掻く爪の音で目が覚めました。通気管が熱くなっていないか、オリバーが恐る恐る確かめている音でした。すぐにそのバカ猫が侵入してきて、伸びをしながらこう告げました。
「私も本物、あなたも本物です」
「たわごとを」
グラントは眠そうにぶつぶつとつぶやきました。起きてみると、木星とエウロパの光が差し込んでおり、どうやら7時間も眠っていたようでした。3番目の小さな月がきらきらと輝きながら、ちょうど昇っている最中だったからです。
グラントが起き上がってリー・ニーランの方を見ると、すやすやと眠る彼女の顔にほんのりと朱がさしていました。それは単に赤い光のせいだけではないようです。白熱病が癒えつつあるのでしょう。グラントはさらに2錠を水に溶かし、リーの肩をゆすりました。
その瞬間、彼女が開いた灰色の目はとても透き通っていて、見上げた顔に驚きの色はありませんでした。
「あら、グラント。またあなたなのね。白熱病も、悪くはないわね、結局のところ」
「うなされたままにしておいた方がよかったかな。そんなうまいこと言って。さあ、リー、起きて。これを飲むんだ」
リーは不意に、掘立小屋の内装に気付きました。
「まあ、ここはどこ?……本物に見えるわ」
「本物だよ。さあ、気付け薬を飲むんだ」
リーが素直に薬を飲むと、体をそらせ、グラントをじろじろと見つめて言いました。
「本物……じゃあ、あなたも本物なのね」
「そうだよ」
リーの目に、どっと涙があふれました。「じゃあ、抜け出したのね、あの恐ろしいところから」
リーは安堵のため息をつき、感情が抑えられなくなったようです。
グラントは急いで気を紛らわせようとしました。
「確かだよ。よかったら、あそこにいたわけを教えてくれないか。パーティー服を着ていたわけも」
リーが我を取り戻しました。
「パーティーの正装よ。ヘラポリスでやるの。でも、私がいたのはジュノポリス、わかるでしょ?」
「わからんな。最初の場所、イオのジュノポリスで何をしていたの。いままで君の噂を聞くたびに、出どころはニューヨークやパリの社交がらみだったのに」
「ふふふ。それじゃ、すべて妄想じゃなかったのね。私の写真を持ってると言ったよね。ああ、それよ」
彼女は壁の写真を見て不機嫌になりました。
「次回写真家が私を撮りたいと言ったら、べらぼうみたいにニヤニヤしないようにしなくちゃ。ところで、私がイオに来たわけは父に同行したからよ。父は、貿易商やべらぼうに頼らずに、強心草の大農園が作れないか調査に来たのよ。3か月もここにいると、恐ろしく退屈するわ。イオはわくわくするところだと思っていたけど、そうじゃなかった。さっきまではね」
「じゃあ、舞踏会は? どうやってここへ来たの。ジュノポリスから何千キロも離れているのに」
リーがゆっくりと話しました。
「そうねえ。ジュノポリスにはうんざりよ。観劇はないし、スポーツもないし、たまに舞踏会があるだけ。イライラするわ。ヘラポリスで舞踏会があると、そこへ飛ぶのが習慣になったの。高速飛行機でわずか4、5時間よ。先週、いやいつだったか、飛行計画を立てて、父の秘書のハーベイが私を連れていくことになったの。
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