初級翻訳・夢の谷 第9話

夢の谷

「ほとんどそのままの意味なんですよ」とジャービスは言いました。「説明しましょう。一瞬、まだら模様の植物に覆われた灰色の谷が見えたと思ったら、次の瞬間には――いや、次の瞬間に起きたことは、とても想像できないでしょうね。

もし、自分の夢がすべて叶ってしまったらどうしますか? これまでの人生で『こうなったらいいな』と思ったことがすべて現実になって、欲しかったものが何でも手に入るとしたら?」

「そりゃあ最高だな、頼むからそんな素晴らしい話を聞かせてくれよ」と、隊長が言いました。

「そう思うでしょう? でも、それは隊長の立派な願いだけじゃないんです。よく覚えておいてください。心の中にある『良いこと』をしたいという気持ちだけでなく、誰にも言えないようなずるい考えや、悪いいたずら心、これまでに心に浮かんだすべての願いが、良いことも悪いことも全部まとめて現れるんですよ。

夢怪獣は、相手の心を惹きつける素晴らしいセールスマンみたいなものです。でも、何が正しくて何が悪いかという『道徳(ルール)』が、彼らにはまったくありませんからね」

「夢怪獣だと!?」と隊長が聞き返しました。

「ええ。そこは、夢怪獣たちが暮らす谷だったんです。何百匹、いや、もしかしたら何千匹もいたかもしれません。それだけの数が集まれば、どんな人に対しても、その人が心の中で『欲しい』と思っている映像を完璧に作り出すことができます。自分でもすっかり忘れていたような昔の思い出まで、心の奥底から引っ張り出してくるんです。

まさに、ある種の天国でした。そこには、何十匹ものファンシーロングが見えました。いろんな姿をしていて、僕がこれまでに『素敵だな』と思ったものや、頭の中で思い描いただけの想像の姿も混ざっていたに違いありません。

それから、僕がこれまでに会ったことのある綺麗な女の人たちも全員そこにいて、みんなが僕の気を引こうと微笑みかけてくるんです。

僕がいつか行ってみたいと思っていた世界中の美しい景色もすべて見えました。不思議なことに、そのすべてが、この狭い谷の中にぎゅっと詰め込まれているんです。

そして、それだけじゃなく、別のものも見えました」ジャービスは静かにうなずきました。「はっきり言って、そこに見えるものすべてが綺麗で美しいわけではありませんでした。人間の心の中にある、獣のような恐ろしい欲望が、どれほどたくさん隠されていたことか。

もし、生きているすべての人間があの不思議な谷をのぞき込んで、自分の心の中に隠れている『悪い部分』を一度でも突きつけられたなら、うーん、そうですね、かえって世界は平和になる(救われる)かもしれません。

あとになって、僕は神様に感謝しましたよ。リロイもトウィールも、それぞれ自分だけの幻を見ていて、僕の心の中の恥ずかしい幻を見られずに済んだんですからね」

ジャービスはもう一度深く息を吸い込むと、話を続けました。

「頭がクラクラして、夢見心地のようになってしまいました。僕はたまらず目を閉じました。でも、目を閉じても、そのすべての景色が見え続けるんです。

あの甘くて、意地悪で、残酷な景色は、僕の『目』で見ているのではなく、僕の『心』の中に直接映し出されていたからなんです。

これこそが悪魔のようなやり方です。僕たちの心そのものを操るんですよ。

そのとき、はっきりと分かりました。これが夢怪獣の正体なんだと。トウィールが『行っちゃだめだ、行っちゃだめだ』と必死に叫んでいた理由なんて、もう聞くまでもありませんでした。それでも、僕はそこから逃げ出すことができなかったんです。

近づけば死んでしまう恐ろしい罠(誘惑)だと分かっていても、一瞬でもあの素晴らしい景色を見られるなら、それでもいいと思ってしまうほどの価値があったんですよ」

「一体、どんな景色が見えたんだ?」と、ハリソン隊長がぶっきらぼうに尋ねました。

ジャービスは顔を真っ赤にしました。「隊長には関係ないでしょう!

でも、僕のすぐ隣で、リロイが『イボンヌ! イボンヌ!』と叫んでいるのが聞こえました。だから、彼も僕と同じように、夢怪獣の罠にすっかりはまっていたんです。

僕はなんとか正気を取り戻そうと必死に戦いました。『だめだ、進んじゃいけない!』と自分に言い聞かせ続けました。けれど、そう思っている間にも、僕の体は罠に向かって真っ逆さまに突進していたんです。

そのとき、僕は足元の何かに思いきりつまずいて転びました。トウィールです! やつが後ろから飛んできたんです。

僕が地面に倒れ込んだとき、トウィールが僕の頭の上をまっすぐ通り抜けて突き進んでいくのが見えました。僕が引き寄せられるように走っていった『何か』に向かって、やつは突撃したんです。

そして、その鋭いくちばしを、そこに立っていた『女の人』の、まさに心臓めがけて思いきり突き刺したんです!」

隊長がフムフムとうなずきました。「ほう、女の心臓を突いたというのか」

「いえ、それは僕の幻の中での話です。僕が立ち上がったときには、もうその女の人の姿(映像)は消え去っていました。

その代わりに、トウィールは真っ黒な縄のような腕にぐるぐる巻きにされていました。ちょうど、僕が初めてトウィールに出会ったときと、まったく同じ姿でした。

トウィールは夢怪獣の急所を外しちゃったみたいです。けれど、やつは死に物狂いになって、くちばしで相手をツンツンと激しく突き刺していました。

おかげで、僕にかかっていた魔法が解けたか、あるいは半分くらいは解けたようでした。

僕はトウィールから2メートルほどしか離れていませんでした。僕は必死でもがきながら、なんとかピストル(拳銃)を構えると、あの強力な『ボランド弾』をその怪獣にぶち込んでやりました!

すると、胸が悪くなるような真っ黒いドロドロの液体(腐液)がプシューッと勢いよく吹き出して、トウィールも僕も、頭からびしょ濡れになってしまったんです。「うう、吐き気がするほどひどい臭いだ……!」

その強烈な臭いのおかげで、谷いっぱいに広がっていた美しい幻の世界が、スッと消えていきました。

何はともあれ、僕たちはリロイの心を奪っていたあの悪魔のような怪獣を、なんとか引きはがすことに成功したんです。

僕たち3人は、お互いに支え合いながら、フラフラになって丘のてっぺんまで戻ってきました。

僕はなんとか気を確かに持って、丘の上からカメラを構えて谷の写真を撮りました。でも、写真にはきっと何も写っていないでしょう。そこには、灰色の荒れ地と、僕たちがもがき苦しんだ恐ろしい記憶しか残っていないはずです。

「僕たちが見たものは、心の中にあった幻なんだ。本当に目の前にあったわけじゃない」

ジャービスはそう言って、一度言葉を切ると、ブルブルッと身震いをしてから話を続けました。

「あの怪獣は、リロイの心を半分乗っ取っていました。僕たちは重い足取りで補助ロケットまで引き返し、隊長に連絡を入れてから、自分たちにできる手当てをしました。

リロイは、荷物の中にあったコニャックというお酒を丸ごと1瓶、一気に飲み干してしまいました。

トウィールには、あえて勧めませんでした。

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