初級翻訳・大宇宙遠征隊 第6話

大宇宙遠征隊

すると、2メートル四方ほどの壁がガタンと下に落ちました。
壁の奥には、とても精巧につくられたテレビ(モニター)装置が埋め込まれていたのです。
これを使えば、部屋の中にいながら、ロケット船の外の様子が手にとるようにハッキリと見えます。

【地球が見える】

艇長は、いつもの器用な手つきで、テレビ装置についている5つのダイヤル(目盛り盤)をクルクルと調整していましたが、やがて小さなスイッチをポンと入れると、スクリーン(映写幕)がパッと明るくなりました。
スクリーンは、およそ1メートル四方の大きさでした。
その上には、なんだか銀色に輝くクシ(髪をかす道具)のようなものが映っていました。
艇長はそれを見ながら、さらにダイヤルを動かしました。
すると、スクリーンに映っていた映像が急にハッキリとしてきました。

「ほら、うまく映し出されたぞ! これが地球の夜明けだ。いや、夜明けを迎えているのはこの端っこの部分だけで、キラキラ輝いているところは、もうすっかり朝になっているんだ」

「えっ、地球が見えているんですか!? なんだか銀色のクシみたいに見えますねえ」

「よく見なさい。真っ黒な宇宙を丸く切り取って、ここに地球の形(輪郭)が見えるだろう?」
なるほど、言われてみれば確かによく見えます。
スイカを2倍の大きさに引き伸ばしたくらいの大きさでした。

「分かったかい? これが、ぼくたちの後ろへ遠ざかっていく地球なんだ。地球が、今日はまるで満月のように丸く輝いて見えるんだよ。ほら、輝いている面積がどんどん広くなっていくぞ」

どういうわけか、光っている部分がどんどん広がっていくのでした。
それは、地球の重力が届かないはるか遠くまでこのロケット船が進んでしまったため、そのせいで地球が早く回転(自転)しているように見えているのだということが、あとになって分かりました。
輝く地球の姿は、本当に圧倒されるほど見事なものでした。
じっと長く見つめていると、なんだか体全体がゾクゾクと寒くなってくるような感覚に襲われました。

「ずっと見ていると、なんだか体がぞくぞくしてきますね」
三郎は、自分の正直な感想を口にしました。

「ああ、もう本当に遠くまで離れてしまったんだなあという感じがするねえ」
艇長は、どれほど地球から離れたのか、その距離に思いを馳せていました。

「月は、どれくらいの大きさにみえるんですか?」

「そうだねえ。月がこのロケット船のすぐ近くに回ってくれば、これよりもっと大きく見えるはずだよ。……あっ、おい! コーヒーがプウプウと吹きこぼれそうになっているじゃないか!」

「あっ! コーヒーのことをすっかり忘れてた!」
三郎は、大急ぎでコーヒーポットのところへ駆け戻りました。

「あーあっ、もう少しでまたコーヒーを大失敗するところでした」
三郎はテーブルの上のカップにコーヒーを注いで、艇長の前に出しました。

艇長はテレビ装置のスイッチを切って、壁を元の状態に戻すと、コーヒーを飲むためにテーブルにつきました。

「ほう、これはしっかり沸いているな。あちちっ!」
艇長はコーヒーカップのフチで口を火傷してしまい、慌ててガチャンとテーブルの上にカップを置きました。
その様子がすごくおかしかったのですが、三郎は吹き出してしまうのをぐっと我慢しました。
艇長のことを、あんまりクスクス笑うわけにはいかないからです。

「こんな宇宙の真ん中で温かいコーヒーが飲めるなんて、本当にありがたいことだなあ」
艇長はコーヒーをフーフーと吹きながら、ヒマつぶしにそんなことを呟きました。
コーヒーは熱々で、なかなか冷めませんでした。

その時でした!
ロケット船が、ものすごい大音響を立てて激しく揺れ動いたのです。
今にも船体がバラバラに壊れてしまいそうなほど、ガンガン! ビシビシ! と大きな音が響き渡りました。

「おっと、どうしたんだ!?」
艇長が勢いよく立ち上がるのと同時に、非常電話から当直長の大声が飛び出しました。

「艇長! 非常事態の報告です! ただいま当ロケット船に向けて、宇宙のチリ(宇宙塵)がまるでヒョウ(氷の粒)のように猛烈な勢いで襲いかかってきました! ただいま損害状況を調査中です!」

宇宙塵(うちゅうじん)……?
宇宙塵とは、一体全体なんなのでしょうか。

【宇宙塵】

船の揺れは、少し収まったかと思いきや、またバラバラ! ガンガン! と激しく揺さぶられました。

「宇宙塵か! かなりひどい宇宙塵に突っ込んだな!」
艇長は壁のところへ飛んでいくと、棚から帽子を取り出して頭にかぶりました。

「どこか行かれるんですか?」

「ああ、司令室へ向かう!」

「あの、宇宙塵ってなんなんですか?」

「そんなことは、誰か他のヤツに聞いてくれ! いま、それを説明している余裕はないんだ!」
そりゃあ、そうでしょう。
艇長は部屋を横切って、出入り口の方へと向かいました。

「艇長! コーヒーは飲んで行かれないんですか?」

「おお、そうだった! コーヒーを飲もうと思っていたのをすっかり忘れていたよ。わしもよほど慌てていたようだなあ」

そう言いながら、艇長はテーブルのところへと引き返してきましたが、その瞬間、大きな声で叫びました。

「なんだってんだ! コーヒーは、みんなカップの外へこぼれちゃっているじゃないか!」「三郎、今度わしが戻ってきたら、その時はすぐにコーヒーを飲ませておくれよ」

「はーい。本当に災難でしたね……」

「どうやらわしは今日、コーヒーに嫌われているみたいだなあ」

艇長は、明るい声を残して、大急ぎで部屋から飛び出していきました。
激しい揺れは、幸いなことに、ようやく収まったようです。

三郎は、雑巾でテーブルの上を拭きながら、
「うーん、宇宙のチリ(宇宙塵)って、一体どんなものなんだろう?」
と、不思議そうに首をかしげて、テーブルの同じ場所を何度も何度も拭いていました。

その時、部屋の外の廊下が、急にガヤガヤと騒がしくなりました。
たくさんの人たちが、ドタバタと激しい足音を立てて、走っていく様子が伝わってきます。
三郎は不安な気持ちになって、部屋の入り口からそっと外をのぞき込んでみました。

「あっ、鳥原さん! 一体どうしたんですか、この大騒ぎは……」

ちょうど運良く、三郎が普段からお兄さんのように慕っている乗組員の鳥原青年が通りかかったので、急いで声をかけました。

「おっ、風間の三ちゃんか!」

鳥原さんはそばに寄ってくると、
「いやあ、大変なことが起きてしまったよ! 僕たちのロケット船が故障しちゃったんだ。それで、一緒に行動していた船のグループ(編隊)から一機だけはぐれてしまって、もうずいぶんと後ろに取り残されてしまったんだよ」
と、いつになく落ち着かない様子で言いました。

「故障!? このロケット船の、どこが壊れちゃったんですか?」

「この船の後ろに、ガスを吹き出す穴(噴気孔)があるだろう? つまり、僕たちのロケット船を前に進めるために、ものすごい勢いで後ろへガスを噴射しているんだけど、その穴がどうやら壊れてしまったらしいんだ。

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