初級翻訳・大宇宙遠征隊 第15話

大宇宙遠征隊

――ひょっとすると、ムービー氏の言っていたことが本当なんじゃないだろうか?
ムービー氏が最初に見つけたときにはたしかにムビウムがあり、次に見たときにはそれがなくなっていたというのは、そのほんのわずかなあいだに、星の中で大爆発や大異変が起きて、ムビウムがこわれて別の物質に変化してしまったのではないだろうか、と博士は推測したのだ。
そうやって、すぐに物事をあきらめてしまうのはよくない。
そんな大事なことこそ、もっと念を入れて調べ続けるのが科学者のつとめであるはずだ、と博士は考えた。
そうして博士は、ムービー氏が行方不明になったあとも天文台にこもって研究を続け、ついに思いがけない大発見をしたのである。
それは一体どんな発見だったかというと、ちょうどそのころ、天の川の端のほうに、ほんのかかすかな光を放ちながら移動していく一つの彗星(すいせい)を発見したのだ。
これこそが、のちに「ムーア彗星」と名づけられる、人類にとって全く新しい彗星の発見だった!
ムーア彗星を発見しただけでも緑川博士の大手柄なのだが、それよりももっともっとすごい大手柄があった。なんと、このムーア彗星には、あの幻の超放射元素ムビウムがものすごくたくさん含まれており、しかも彗星のまわりにそのムビウムをふりまきながら飛んでいるらしいことまでわかったのだ。
これこそ、大発見中の大発見だ! しかも、この大発見は、緑川博士がずっとあたためていた計画とものすごく深い関係があった。
つまり、あの彗星のまわりにただようたくさんのムビウムをうまくあつめることができれば、博士が以前から研究していた「新しい動力の発生法」が、本当に実現できるぞと思ったのである。
なるほど、理屈のうえではできそうである。
ただし、それはあくまで頭の中の計算上の話であって……。
実際にそれをやるとなると、なかなか途方もなくむずかしい。
なぜなら、はるか遠い大空を、飛行機の何万倍だか何十万倍だかというものすごいスピードでかけぬけていく彗星の中から、どうやってムビウムを採集すればいいのか、とてもできそうに思えなかったからだ。
緑川博士は、そのことを考えると、はじめのうちはすっかりがっかりしたものだった。
それはまるで、目の前に大すきな宝ものがとんでいるのに、ざんねんながら手が届かないのと同じことだったからだ。大宇宙の大きさにくらべて、人間の力のあまりにも小さいことよと、博士はがっかりしたのであった。
博士が、がっかりしたまま、ムビウムのことを忘れてしまえば、それで何もかもおしまいであった。
ところが、神のおたすけがあったというのでもあろうか、或る日緑川博士は、或る会合で、例の隻脚隻腕の猛将大竹中将の席のとなりに座ったのである。
そのとき、ふとムビウムやムーア彗星のことについて口をすべらしたところ、これを耳にした中将は、
「うわーっ、そいつはおもしろい大事業だ。
しかも国家的の大事業じゃないか。
君、若いくせに、そんなにひかんすることはない。
わしにも、すこしは考えがあるよ。
どうだ、今夜これからわしの家へ来なさらんか。
そして二人で、よく話をしてみようじゃないか」
 と、思いがけないことばであった。
緑川博士は、大竹中将からこのはげましのことばをもらって、たいへんうれしかった。
しかしいくら中将の考えでも、このことばかりはどうにもなるまいと思った。
なにしろ、ここから何億キロメートルの何億倍というほどの、はるかの天空を走っているムーア彗星から、どうしてムビウムが採ることができようか。
そこで緑川博士は、中将との相談にでかけていったが、あまりいい話が出るとは思っていなかった。
ところが、大竹中将は、みごとに博士を、よろこびのために、その場におどりあがらせたのだった。
その模様をいうと、
「そういう獲物をにがすということはないよ」
 と、大竹中将は、大きな拳で卓子のうえをとんと叩いて、
「つまり、われわれに覚悟さえあればいいんだ、国家のために生命をなげだすという覚悟のことだ。
わかるかね。
よろしい。
わしは同志をつのるよ。
そして必要な人員をあつめる。
そして噴行艇の大部隊をつくって大宇宙遠征をやろうではないか」
「え、どうして、そんなことが……。
また、噴行艇でとびだして、なにをするのですか」
 と、そのときは緑川博士は、中将の考えがよくわからなかったので、といかえした。

「なにをするって、君、わかっているじゃないか。
つまりムーア彗星のところまでとんでいって、その超放射元素ムビウムとやらを採ってくるのさ」
「それはだめです。
ここから、ムーア彗星までは、たいへんな距離です」
「たいへんな遠方でもよろしい。
生命のあるかぎり、いけるところまでいってみようじゃないか」
「はあ」
「なにかね、そのムーア彗星は、これからのち、もっと地球に近くならないのかね」
「え?」
 このとき、緑川博士は、すいぶん大きな声をだした。
よほどおどろいたのである。
博士の顔は、たちまち赤くなった。
なぜ?
(ああ、そうだった。
自分としたことが、なんという間ぬけだったろう!)
 博士は、われとわが頭を、拳でもって、ごつんと殴ったのであった。
「こら待て、いくら自分の頭だからといって、そうらんぼうに殴るとはいかん……」
「いや、大竹閣下。
自分は、今閣下からいわれるまで実はたいへんなことを忘れていました」
「たいへんなことを忘れていた。
それは何か。
いってみなさい、それを」
「いや、外でもありません。
そのムーア彗星が、やがてどのへんまで地球に近づくか、その計算をまだしてなかったのです」
「ふーん」
「そうだ。
何ヶ月か何年か待てば、ムーア彗星は今よりもっと地球に近くなるかもしれない」
「そのとき、こっちから出かけていけばいいではないか」
「そうでした。
閣下におっしゃられて、はじめて気がつきました。
計算をしてみれば、よくわかりますが、これからのちには、きっと今よりも、ずっと地球に近づくときがあるはずです」
「じゃあ、すぐ計算にかかりたまえ」
「はい。
どのへんまで近づくか、早くしりたいものですねえ」
「あわててはいかん。
まちがいのない計算をたてたまえ。
そのあとで、どうしてそのムビウムを採取するか、その仕掛けのことも考えるんだ。
性能のいい噴行艇をそろえるにも、これから相当の日がかかるだろう、何年かあとに、一等近づいてくれると、こっちには都合がいいのだが……」
 実戦の猛将でもあり、また航空技術にもすぐれている大竹中将は、早くもこれからの方針を頭の中にたてて緑川博士をはげましたのであった。
こういう秘話があってのちに、百七十隻の噴行艇から成る宇宙遠征隊が編成せられたのであるが、それは三年のちのことであった。
そしてムーア彗星は、それからのち更に五年ののちに一等地球に近づくのであった。
これはつまり、その当時から八年後にムーア彗星は、一等地球に近づくのであって、すべて緑川博士の計算から出てきたものであった。さきに、大宇宙遠征隊は、十五年の道のりとして出発すると言いましたが、旅立ってから五年後にムーア彗星と出会い、その十年後に地球へ戻ってくるという計算でした。

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