初級翻訳・大宇宙遠征隊 第21話

大宇宙遠征隊

簡単だけど、ものすごく強力な動力装置がこの羽の下についているんです」
「ふむ、しかし我々はこうしているんだから、きみも鎧をぬいだらどうだい?」
幕僚が言うと、
「だめです、だめです! この司令室は地球と同じ気圧になっていますから、ぼくがこの鎧をぬいだら、一瞬でまいってしまいます」
「おっ、そうか、じゃあ仕方ないな」
そう話しているところに、艇夫長の松下梅造(まつしたうめぞう)がかけ足でもどってくると、パッと敬礼をして、こう言いました。
「火星人部隊の協力によって、ただいま本艇の修理が無事に完了いたしました!」
「そうか、ご苦労!」
「それでは、ただちに出発するぞ。火星に向かって出発だ! それから、司令艇クロガネ号へ連絡を取って、アシビキ号の修理が完了したこと、そしてただちに本隊を追いかけることを報告しろ!」
噴行艇(ふんこうてい)アシビキ号は、すぐにものすごい勢いで出発しました。
調子はとても絶好調でした。
飛び立ったばかりの月は、みるみるうちに小さくなって遠ざかっていきます。
そこへ、無電員が受信用紙を持ってやって来ました。
“第四斥候隊(せっこうたい)報告。
わが隊はただいま火星の中部地方に無事到着せり。
ご指示をお待ちする……”
「よし! 本艇は目下、火星に向かって急行中だと伝えろ!」
噴行艇アシビキ号は、猛烈なスピードで進み続けました。
火星の技術者たちの機械の腕前は思ったよりも優秀なようで、エンジンなどの調子はとても良好でした。
「なんだかとても調子が良いようでありますね。
実は、火星人なんかに機械をいじらせて大丈夫かと心配していたのですが」
幕僚が、辻艇長にそっとささやきました。
「いや、彼らだってこの噴行艇をしっかり直さなきゃ、自分たちも火星に帰れないからな。
きっとしっかり直すはずさ、はっはっは……」
辻中佐は、はじめて楽しそうに笑いました。
(大団円)

さて、アシビキ号はまもなく火星に到着すると、そこであのふしぎな皿のような火星の乗り物に連れてこられていた、第四斥候隊長の鳥原彦吉(とりはらひこきち)以下の全員と、風間三郎、木曾九万一(きそくいち)の両少年を助け出し、月世界に残されていた火星人たちを無事に降ろしました。
風間と木曾のふたりの喜びもすごかったけれど、荒れ果てた月世界にもう少しで置き去りにされるところだった火星人たちの喜びも、ものすごいものでした。
火星人たちみんなが、アシビキ号の親切にお礼を言って、盛大に歓迎しようとしてくれましたが、先を急ぐアシビキ号は、あの月世界探険隊長だった火星人とまたの再会を約束して、すぐに本隊を追いかけて出発することになったのです。
「出発!」
辻艇長の命令一下、噴行艇アシビキ号は、休む暇もなかった火星に別れを告げました。
そして大宇宙の中をまっすぐに、本隊を追いかけてものすごいスピードで進み続けたのです。
そうして大宇宙の中を突き進むこと、なんと五年間!
目的のムーア彗星に到着する直前になって、アシビキ号はやっと本隊と合流することができたのでしたた。
この五年という長い間、たった一機だけで大宇宙を突破して本隊に追いついたということは、司令艇クロガネ号にいる大竹中将の指揮と、アシビキ号の辻中佐との息がぴったり合った見事なチームワークの成果でした。
それにしても、まだ人類の誰も想像したことのなかった大ムーア彗星とは、いったいどんなところなのでしょう?
ムーア彗星のまわりは、まだもやもやとした濃い大気に包まれていました。
もちろんここから見る太陽は、夜空にきらめく小さな点のような星でしたが、このムーア彗星のそばにはアロタス大星雲がギラギラと輝いていたので、ムーア彗星の世界は地球の二倍くらいの明るさがありました。
大宇宙遠征隊の隊員たちは、みんな気密塗料(きみつとりょう)を塗った宇宙服を着ました。
その宇宙服の目の部分には、まわりの明るさで目をやられないように、色の濃いサングラスのような遮光ガラスがついていました。
でも、それよりも何よりも、このムーア彗星に降り立って第一歩をしるした隊員たちがびっくりしたのは、この大彗星が地球の何十倍もある巨大なもので、重さもとても重かったため、ものすごい重力だったことです。そのせいで、そのままでは体が重すぎて、ほとんど立って歩くこともできないほどでした。
大人の男たちが、まるで赤ん坊のように、やっとの思いではって歩くような状態だったのです。
月世界で、ちょっとジャンプしただけでふわっと体が浮くような軽さを知っていた風間と木曾は、これには本当にびっくりしてしまいました。「おどろいたね、三郎ちゃん」
「なんだか、体中が鉛(なまり)になったみたいだね。油断していると、地面にぺったり貼り付いちゃうぜ」
「うーん……」
「そうだ、九万一(くいち)くん、辻艇長の特別スイッチを入れるんだ!」
「そうそう、あっ、すごく楽になったぞ!」
この辻艇長の特別スイッチというのは、辻中佐が、あの火星人の平べったい乗り物についていた『引力遮断機(いんりょくしゃだんき)』のアイデアをヒントに思いついた『引力滅殺装置(いんりょくめっさつそうち)』で、それがなんと宇宙服のほうにも取り付けられていたのです。
このおかげで、みんなは予定どおりの作業を行うことができました。
大いなる目的である、貴重物質ムビウム。
この命がけの大冒険をしてまで手に入れたかった目的の物質、ムビウム。
そのムビウムは、なんと緑川博士の予想どおり、この巨大なムーア彗星に「使い切れないほどある!」と言ってもいいくらい、山のように眠っていたのです!
     *
全隊員が四万人を超える、かつてないほどの大宇宙遠征隊の目的は、ここでついに半分が達成されたのでした。
このあちこちにゴロゴロしているムビウムを、どんどん集めて地球へ持って帰ればいいのです。
この調子なら、最初の予定よりもはるかに早く地球へ帰ることができそうです。
――このあとの詳しい大冒険の珍しいお話は、いつか風間くんたちが地球に帰ってきてから、じっくりと語ってくれることでしょう。
ただ最後に、ある日の朝に流れたラジオのニュースについてお伝えしておきましょう。
それは、誰もが思わず「万歳!」と叫んでしまうような、素晴らしいニュースでした。
“大宇宙遠征隊の司令艇クロガネ号からの通信。
我が大宇宙遠征隊は、無事にムーア彗星へ到着し、事前の予想の何倍もあるほどの貴重物質ムビウムの採集に大成功しました。現在、全力を挙げて地球へ向けて帰航中です。
今の位置から計算しますと、本隊は今後、二百三十六日十三時間二十分をかけて、東京へ帰ってくる予定であります――”

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