初級翻訳・大金塊 第24話

大金塊

「ごらんなさい。
不二夫君に教えられて気がついたのですが、獅子岩の影があんなにのびて、今にも烏帽子岩に、とどきそうになっているじゃありませんか。
もう少し太陽がさがれば、影はもっとのびて、ちょうど獅子の頭が烏帽子岩の下のほうにうつるでしょう。
すると、獅子が烏帽子をかぶるわけじゃありませんか。
暗号の意味は、獅子の頭の影が、烏帽子岩にうつって、ちょうど、烏帽子をかぶったように見える時ということだったのですよ。」
「ああ、なるほど、そうだ、そうだ、そうにちがいありません。
やっぱりその場へ来てみなければわからないものですね。
まさか影とは気がつかなかった。
不二夫、おまえは、たいへんなてがらをたてたんだよ。
おまえがなにげなくいったことばから、明智先生が暗号をといてくださったのだよ。」
 宮瀬さんはうれしまぎれに、岩の上の不二夫君に、大声で呼びかけるのでした。
「もう少しです。
もう少し待てば、獅子が烏帽子をかぶった形になります。」ちょうどそのときに、あのカラス岩の頭の影がどのへんにさしているか、それを見さだめなければなりません。
その頭の影の頂上から、東へ三十尺はかり、それから北へ六十尺はかればいいのです。
そこに戸のようになった岩があるわけです。
」
 いっているうちに、太陽はみるみる西の水平線にちかづいて、獅子岩の影は、だんだんのびていきます。
「さあ、みんな、あの烏帽子岩の前へ行って、獅子が烏帽子をかぶるのを見ていてください。
ぼくはカラス岩のむこうへ行って、カラスの頭の影がどこにさすか見さだめます。
」
 明智のさしずで、宮瀬氏と不二夫君と小林少年の三人は、烏帽子岩のほうへかけだしました。
明智はただひとり、カラス岩のむこうへ走っていきます。
しばらくすると、烏帽子岩の前から小林少年のかんだかい声がひびきました。
「先生、今です。
ちょうど、獅子が烏帽子をかぶった形になりました。
」
 すると、カラス岩のずっとむこうから、明智の声が答えました。
「ようし、それじゃあ、みんなこっちへ来てくださあーい。
」
 三人が大急ぎでかけつけますと、明智はカラス岩の頭の影をふんで、にこにこ笑いながら立っていました。
「さあ、小林君、きみのリュックサックから、巻尺をだしたまえ。
いま、ぼくの立っているところから、東へ三十尺はかるのだ。
」
 小林君が手ばやく巻尺を取りだしますと、明智は、その巻尺のはしを、くつでふんで動かないようにして、それから、時計のくさりについている磁石を見ながら、右手を上げて、東の方角をさししめしました。
小林君はその指のさししめす方角へ、巻尺をのばして歩いていき、ちょうど、三十尺(九・一メートル)のところで立ちどまりました。
「ここが三十尺です。
」
「よし。
それじゃ、そこに動かないで立っているんだよ。
」
 明智がそういって、はしをふんでいた足をのけますと、小林君は巻尺のハンドルをまわして、もとのように巻きました。
明智は大急ぎで小林君の立っているところへ行き、また巻尺のはしをふんで、こんどは、北の方角をさししめします。
すると、小林君は巻尺をのばしながら北へ北へと歩いていきましたが、そのへんも、やはり、でこぼこになった岩ばかりの道で、それが急な坂になって、谷のようなくぼ地へくだっているのです。
「ここがちょうど六十尺(十八・二メートル)です。
」
 やがて、そのくぼ地の底から、小林君の声が聞こえてきました。
「何かあるかい?」
 明智がたずねますと、
「ええ、みょうなほら穴みたいなものがあります。
」
という答えです。
そこで、三人は急いで、小林君の立っているところへ行ってみましたが、いかにも、その谷底のようになった一方の岩はだに、大きなほら穴の口があいているのです。
明智をさきに立てて、一同がそのほら穴の中へはいってみますと、五メートルほどで行きどまりになっていることがわかりました。
あさい穴ですけれど、それでも、奥のほうはよく日がささないので、うすぐらくなっていて、目がなれるまでは、何があるのかよくわかりませんでした。
明智はそのほら穴の中を、あちこちとしらべましたが、やがて、何か発見したらしく、
「あ、これだ、これだ、宮瀬さん、岩の戸を見つけましたよ。
」
とさけびました。
みなは、ハッとして、いきなりそこへかけよりました。
「ごらんなさい。
この大きな岩がふたのようになって、穴の奥へ行く道をふさいでいるのです。
ちょっと見たのではわからないけれど、この岩はここへはめこんであるのですよ。
たしかに穴をかくすために、岩でふたをしたのです。
暗号にある『岩戸』というのは、この岩のことにちがいありません。
」
「なるほど、そうらしいですね。
すると、この岩の奥に深い穴があるのでしょうか。
」
「たぶんそうだと思います。
ひとりではとても動かせませんが、みんなで力を合わせたら、この岩を取りのけることができるかもしれません。
ひとつやってみようじゃありませんか。
」
 そこで、四人は力を合わせて、エンヤエンヤとその大岩をゆり動かしはじめました。

あやしい人影

 十分ほどもかかって、やっと大岩を取りのけてみますと、あんのじょう、その奥に深いほら穴があることがわかりました。
明智探偵はリュックサックから懐中電灯を取りだして、穴の中をてらしてみましたが、人間ひとりやっと通れるほどのせまい穴が、ずっと奥のほうまでつづいていて、行きどまりを見とどけることはできませんでした。
「おそろしく深い穴ですよ。
むろん人間がほった穴じゃない。
岩の中の石灰分がとけて、自然にできた穴ですよ。
それだけに、奥がどんなふうになっているか、けんとうもつかないわけです。
小林君、きみのリュックサックにろうそくが入れてあったね。
そいつをだして火をつけてくれたまえ。穴の中に悪いガスがたまっているといけないから、ろうそくを先に立ててはいってみることにしよう。
酸素がすくなくなれば火が消えるわけだからね。
地の底の深い穴を探検するときは、かならず、ろうそくを持っているものだよ。
」
 明智はふたりの少年のために説明しながら、小林君の火をつけたろうそくを受けとって、さきに立って、まっくらな穴の中へふみこんでいきました。
二番めには小林君が、先生からわたされた懐中電灯を持って、そのつぎに不二夫君、いちばんうしろが宮瀬氏という順で、おずおず明智のあとにつづきました。
穴はうねうねとまがって、だんだんくだり坂になりながら、どこまでもつづいていましたが、やがて二十メートルほども進んだころ、道が二つにわかれているところへ出ました。
明智は三人をそこへ待たせておいて、両方の穴の奥のほうをしらべて帰ってきましたが、こまったような顔をして宮瀬氏にいうのでした。
「このままはいっていくのは、危険ですよ。
このほら穴は枝道がいくつもあって、迷路のようになっているのです。
あまり奥へ進んで、帰れなくなってはたいへんです。
それに、もう日も暮れるでしょうし、だいいちみんな、おなかがすいてきたでしょう。
一度、宿へ帰って、あしたゆっくり出なおしてくるほうがいいでしょう。

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