大金塊のかくし場所をしるした暗号がぬすみだせなかったものですから、こんどは手をかえて、はるばる東京から、四人の探検隊のあとをつけてきたのです。
そして、明智探偵がかくし場所を見つけるのを待ちかまえていて、大金塊を横どりしようとたくらんだのです。
小林君はそれと気づくと、賊のあまりの執念ぶかさにゾウッとしないではいられませんでした。
なんだかおそろしい夢でもみているようで、目の前のできごとが、ほんとうとは思えないほどでした。
「よっこらしょっと、こりゃあ重いや。
あの船では、これだけの箱を、とても一度には、運べませんね。
」
ひとりの男が、千両箱を肩にかついで、首領に話しかけました。
「うん、まあ三分の一だろうね。
船で、れいのところまで運んでおいて、また引っかえしてくるんだ。
なにしろ一億円なんだからね。
どんなに骨をおったって、骨おりがいがあるというものだ。
おまえたちもみんな、きょうから大金持ちになれるんだぜ。
」
覆面の首領が男の声で、部下の男たちをはげました。
首領が女だということは、部下のものは、まだ知らないようです。
その秘密を知っているのは、広い世界で、小林少年たったひとりなのかもしれません。
「フフフフフフ、おれたちが、みんな百万長者か。
なんだか夢みたいだね。
」
「夢ならばさめてくれるな。
フフ、世の中がおもしろくなってきたぞ。
ねえ、首領、おれたちはずいぶん悪いこともはたらいてきたが、こんなでかい仕事は、あとにもさきにもはじめてですね。
」
「おいおい、喜んでいないで、早く運ぶんだ。
これをすっかりかたづけてしまうまでは、安心ができない。
どんなじゃまがはいらないともかぎらないからね。
」
むだ口をききながら、男たちは一つずつ千両箱をかついで、ほら穴を出ていきました。
覆面の首領は、懐中電灯を持って部下のものを見はるようにしながら、いちばんうしろから歩いていきます。
やがて、賊の話し声や足音も聞こえなくなり、懐中電灯の光も消えてしまうと、ほら穴の中は、またもとの、めくらになったかと思うような暗さでした。
話のようすでは、悪者たちは、岩屋島のどこかへ船をつけて、こっそり上陸したものにちがいありません。
今の千両箱をその船へ運んで、また引きかえしてくるのでしょう。
そうして、ほら穴と船とのあいだを、なんども行ったり来たりして、つめるだけつみこもうというのでしょう。
小林少年は、賊が立ちさるのを見すまして、不二夫君に、ことのしさいを話して聞かせました。
そして、手を引きあって、かくれ場所を出ましたが、苦心に苦心をかさねて、やっと目的の宝ものを見つけたと思ったら、たちまち賊のために横どりされてしまうなんて、じつになんともいえないくやしさでした。
といって、相手はおおぜいなのですから、ふたりの子どもの力では、どう手むかうことができましょう。
ああ、こんなときに明智先生がいてくださったら、と思うと、小林君も不二夫君もざんねんでたまりません。どうしてこんなに運が悪いのだろうと、思わず泣きだしたくなるほどでした。
「でも、ここにじっと隠れていたってどうしようもないよ。
あいつらのあとをつけて、様子を探ってみようじゃないか。
そうすれば、何かいい作戦が思い浮かぶかもしれないよ。」
「うん、そうしよう。
さっきの話だと、ほら穴の入り口はすぐ近くにあるみたいだしね。」
ふたりはそう小声で話し合うと、マッチをすって方向を確かめ、用心深く悪者たちのあとを追いかけました。
ほら穴は、右や左に曲がりながら進むにつれてどんどん狭くなり、しまいには立って歩けないほどになりましたが、その狭い場所を這うようにして通り抜けると、少し広い道に出ました。そして、どこからかかすかに光が差し込んできていることに気づいたのです。
「あぁ、きみ、もうすぐ出口みたいだよ。
ほら穴の入り口から外の光が差し込んでいるんだ!」
外はまだ明るい昼間ですから、このままうっかり先へ進むわけにはいきません。
もし悪者たちに見つかったら、それこそどんな恐ろしい目にあうかわからないからです。
「きみ、見てごらん、ここで道が二つに分かれているよ。
ここが最初の分かれ道だったんだ。
ぼくたちはあっち側の広い道に入ってしまったから、あんな散々な目にあったんだね。
あのときもし、こちらの狭い道を進んでいたら、悪者たちよりも先に、ぼくたちが金貨を発見できていたんだよ。
なんとも悔しいことをしちゃったなぁ。」
「あ、本当だ!
それじゃあ、ぼくたちはぐるっと一回りして、もとの場所に戻ってきたんだね。」
ふたりはそのあたりの岩の形にすごく見覚えがありました。
よく考えてみると、この分かれ道を右に行くか左に行くかという、ほんのちょっとした違いが、こんなとんでもない事態をひき起こしてしまったのでした。
「もう少し入り口のほうへ行ってみようよ。」
不二夫君がそう言って、薄い光が差し込んでくるほうへ歩きはじめました。
小林君もそのあとにつづきます。
地上の明るい世界がなつかしくてたまらなかったのです。
ところが、ふたりがそうして五、六歩歩いたときでした。
突然、うしろの真っ暗闇から、パッと青白い光が差し込んできました。
奇妙な光が両側の岩肌でちらちらと動くのを見て、ふたりはびっくりして後ろをふりむきました。
すると、真っ暗なほら穴の奥のほうから、まるで怪物の目のようにギラギラと光るものが、こちらへ近づいてくるではありませんか。
懐中電灯の光だったのです。
何者かが懐中電灯を照らしながら、広い方の分かれ道の中からやってくるのでした。
ふたりの少年はそれを見るやいなや、ギョッとしてそこに立ちすくみ、もう身動き一つできなくなってしまいました。
まちがいなく悪者の部下に違いありません。
あの覆面の首領はぬかりなく、こんなところに見張り番を残しておいたのでしょう。
そんなことも知らずに、のこのこと近づいてしまうなんて、本当に油断していました。
もう隠れる場所も逃げる道もありません。
ああ、ふたりは、ついにあの悪者たちにつかまってしまうのでしょうか?
やっと水の危険を逃れたと思ったら、またしてもこんな恐ろしい目にあうなんて、なんという運の悪さでしょう。
それにしても、神様は正しい人たちを見捨てて、悪者たちの味方をしてしまわれるのでしょうか?
そんなことがあっていいはずがありません。
それでは小林君や不二夫少年があまりにもかわいそうではありませんか。
二少年は、おたがいに体を寄せ合い、しっかりと手をつなぎ、胸をドキドキさせながら立ちすくんでいました。
まるでヘビににらまれたカエルように、逃げ出す力さえすっかり失ってしまったのです。
そういえば、暗闇の中で光っている懐中電灯は、まるでとてつもなく大きな毒ヘビの目のようにさえ感じられたのでした。
そのギラギラ光るヘビの目は、刻一刻とこちらへ近づいてきます。
ああ、もう運の尽きです。
ついに見つかってつかまってしまったのです。
小林君も不二夫君も、いよいよ覚悟を決めました。
そして、言葉を交わす代わりに、にぎり合っていた手にぐっと力をこめて、これが最後のお別れの合図をするのでした。
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