初級翻訳・大金塊 第32話

大金塊

するとそのとき、本当に思いもよらないことが起こったのです。
「おお、不二夫、不二夫じゃないか!」
「あっ、やっぱりそうだ! 小林君だね!」
突然、ギラギラ光るヘビの目の後ろから、そんな叫び声が聞こえてきたのです。
予想外にもほどがある、ふたりの少年にとっては魂もしびれるほど嬉しい驚きでした。
それは悪者などではありませんでした。
悪者どころか、最強の味方、ふたりが探しに探しぬいていたあの明智探偵と宮瀬氏だったのです。
ふたりの少年の口から、言葉にできないほどの喜びの叫び声がほとばしりました。
そして小林君は明智先生の胸めがけて、不二夫君はお父さんの宮瀬氏の胸めがけて、ものすごい勢いで飛びついていったのでした。先生と弟子と、そしてお父さんと息子は、その暗やみの中でしっかりと抱き合ったまま、しばらくの間は言葉も出ませんでした。
やがて、はげしいすすり泣きの声が聞こえてきました。
不二夫君が、あまりの嬉しさに、ついに泣きだしてしまったのです。

あとから聞いたお話では、明智探偵と宮瀬さんは、ふたりの少年の行方を探して地下の迷路を長いあいださまよったあげく、知らず知らずのうちにこのほら穴の入り口にたどり着いたのだそうです。
すると、ちょうどそこへ、小林君たちもやってきたというわけでした。
なんて幸運なのでしょう!
やっぱり神様は、正しい人たちを見捨ててはいなかったのです。
悪いやつはいつかは滅び、正しい人はいつかは必ず幸せにめぐりあえるのですね。

しかし、嬉しさに夢中になっている場合ではありません。
いつ、悪者たちがもどってくるかもしれないからです。
それに気づいた小林君は、明智探偵と宮瀬さんに、手みじかにこれまでの事情を話しました。
それを聞いたふたりがどれほど驚いたかは、言うまでもありません。
「ああ、またしても君たちに手柄をたてられてしまったねえ。
金貨が見つかったというのも、あんなにおそろしい水のピンチにあいながらも、少しも心をくじかなかった君たちの勇気のたまものだよ。
よくがんばったねえ。
ことに不二夫君は、本当によくがまんしましたね」
明智探偵が年下の不二夫君をほめれば、宮瀬さんは、「いやいや、それもまったく小林君のおかげです。小林君は不二夫の命の恩人です」と、明智探偵の名助手を心からほめたたえるのでした。

「でも、その金貨は悪者たちが横どりしようとしているんです。船でどこかへ運ぼうとしているんです。先生、どうかして、あいつらをとらえるわけにはいかないでしょうか」
小林君は、何よりもそれが気がかりでしかたがありませんでした。
「それなら安心したまえ。
ぼくは今、とてもうまいことを思いついたんだ。
たとえ相手が何人いようとも、きっと全員とらえてみせるよ。
宮瀬さん、ご先祖様の小判一枚だって、悪者たちの手には絶対に渡しませんから、どうぞご安心ください。
さあ、それじゃあ、悪者たちがもどってこないうちに、急いで外へ出よう」
明智探偵は何かすごい作戦があるらしく、とても頼もしく言うと、先頭に立ってほら穴の入り口へと進んでいきました。

それから、四人はせまい入り口をはいだして、なつかしい太陽の光がかがやく地上の世界へともどりました。
もうあたりは夕方です。
考えてみれば、お昼前からの六、七時間というもの、ずっと地下の暗やみをさまよっていたわけです。

明智探偵はしばらくあたりを見まわしていましたが、ほら穴の入り口から二十メートルほどのところに大きな岩が立っているのを見つけると、みんなを連れてその岩かげに身をかくしました。
そして四人は、悪者たちが千両箱を運び出すためにもどってくるのを、今か今かと待ちかまえていたのです。

岩のかげからそっとのぞいていると、そうとは知らない悪者の一団が、覆面の首領を先頭にしてどこからか姿をあらわし、そのまま岩穴の中へはいっていくのが見えました。
明智探偵は、悪者たちの最後のひとりが穴の中へ消えるのを見とどけると、「さあ、今だ!」とみんなに合図をし、大急ぎでほら穴の入り口へとかけつけました。

読者のみんなも覚えているでしょう。四人が最初にその場所を発見したとき、ほら穴の入り口は大きな岩でふさがれていました。
その大岩は、ちょうど入り口のすぐそばにゴロゴロと転がっていたのです。
明智探偵は、いきなりその大岩に近づくと、両手をグッとそこにかけました。
「さあ、みんな、力を合わせて押すんだ! もとのように穴をふたしてしまうんだよ」
と、小声でテキパキと指示を出しました。

ひとりやふたりの力ではとても動かない重さですが、四人がいっしょうけんめいに力をこめて押したものですから、さすがの大岩もやっと動きだし、まもなく、ほら穴の入り口をすきまなくぴったりとふさいでしまうことができたのです。

ああ、なんて見事な作戦でしょう!
これですべてが片づいてしまいました。
悪者たちとむりやり格闘したり、なわでしばったりするような、そんなめんどうな手間をかけなくても、たった一つの大岩で、穴の中の人間たちを完全に閉じ込めてしまったのです。
さすがは名探偵ですね!

「小林君、わかるかい? これは理科(科学)の問題なんだよ。
こうしておけば、中からはどうしてもこの岩を押し退けることができないのだ。
なぜかというとね、穴の入り口のところは立って歩けないほどせまいから、中からこの岩を押すにしても、たったひとりしか手をかけることができないんだよ。
いくら力の強いやつでも、ひとりでこの岩を動かすなんて、絶対に不可能だからね」
と、明智探偵がやさしく説明してくれました。

なるほど、穴の外では四人が力を合わせることができたので、あんなに大きな岩でも動かすことができましたが、せまい穴の中からでは、たとえ大勢の人数がいても岩を押せるのはひとりだけなので、到底動かすことなどできるはずもなかったのです。「こうしておいて、ぼくたちは賊の船で長島の町へ帰るんだよ。
そして賊の捕縛は、町の警察へお願いするんだ。
なあに、見はり番なんかのこしておくことはないよ。
たとえこの岩が動かせたとしても、船がなくては,どうすることもできゃしない。
まさか、あの遠くの海岸まで泳ぐわけにもいくまいからね。」
何から何まで、じつにうまくできていました。
四人は、れいの漁師のじいさんの小船を待つまでもなく、賊の船をうばって町へ帰ることができるのです。
しかも、そうすれば、賊はこの島から一歩も逃げだせなくなるのですからね。
賊の船はわけもなく見つけることができました。
四人の探検隊が上陸したのと反対がわの、島の切り岸に、一そうのりっぱなランチがつないであったのです。
まっ白にぬった、窓の多い客室がついていて、へさきには美しいローマ字で「カモメマル」としるしてありました。
船の中に賊の部下がのこっているかもしれないと、用心しながら近づいてみますと、客室も機関室も、まったくからっぽで、人っ子ひとりいないことがわかりました。
賊は一刻も早く千両箱をつみこもうと、総動員でほら穴へ出かけたのです。
四人は美しい「カモメマル」に乗りこみました。
明智探偵が機関をしらべて、すぐさま運転をはじめました。

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