初級翻訳・強い賢い王様の話 第2話

強い賢い王様の話

雲よりもずっと高い山だったのです。
それでもなお、向こうにはさらに高い山が突き立っていました。
「あの山へ行こう!」と王子は言いました。
王子はただ高いところへ上がっていくこと以外、何も考えていませんでした。
この老人に負けてたまるか、どんなに高いところへだって登ってやる、という気持ちでいっぱいになっていたのです。
そして二度、三度と、さらに高い山へと老人につれられて上がっていきました。
ある山の上に着くと、老人はそこにトントンと杖をついて言いました。
「お前の強情さには、わしも呆れたよ。これが世界で一番高い山だ。もう世界中で、これより高い場所はない。ここまでくればお前も本望だろう。さあ、ここからは自分で下に降りていくがいい。最初からの約束だからな、わしはもう知らない。これでお別れだ」
王子が顔を上げると、もう老人の姿は消えていました。
王子はぼんやりとあたりを見回しました。
頭の上には、澄み切った大空と太陽があるばかりです。
立っている場所は突き出した岩の上で、目がくらむほど下の方には、白雲や黒雲が湧き立っていて、何も見えません。
冷たい風が吹きつけてきて、今にも大嵐になりそうでした。
王子は腕を組んで岩の上に座りました。
いつまでもじっと我慢していました。
しかし、そのうちにだんだんと恐ろしくなってきました。
風は激しさを増し、足下の雲はむくむくと湧き上がり、遥か下の方では雷の音まで響いています。
王子はそっと下の方を覗いてみました。
屏風のように切り立った断崖絶壁で、這い降りていくなどということは、到底できそうにありません。
王子は立ち上がりました。
そして考えました。
「あの老人に助けを求めるなんてしたくない。なあに、命がけで降りてみせるさ。僕が死ぬか、それとも、この崖に打ち勝つかだ!」
王子は石を一つ拾って、力任せに投げてみました。
石は遥か下の雲の中に巻き込まれていき、何の音も返ってきません。
「よしッ!」
と王子は言いました。
そして、岩の上から真逆さまに、むくむくと渦巻く雲の中を目がけて、力いっぱい飛び降りました。
……………………………………………………
王子は、はっとして我に返りました。
見ると、自分はお城の庭の芝生の上に寝転がっていました。
体中が汗でびっしょりになっていて、胸が高く動悸を打っています。
しかし、いくら考えてみても、さっきまでのことが夢だったのか、それとも本当のことだったのか、どうもはっきりしませんでした。
本当のことだとするには、あまりにも不思議すぎますし、夢だとするには、あまりにも鮮明すぎたのです。
「どちらでも構うものか」と王子は考えました。
そして、またこう考えました。「高いところへ登るためには、まず第一に、また下へ降りられるような道をちゃんと作っておかなければいけないんだ」
 王子はその考えを国王に話しました。
国王はたいへん喜び、それからは王子を自由にさせてくれるようになりました。
王子は相変わらず高いところへ登るのが大好きでしたが、必ずあらかじめ下り道を作ってから登るようになったので、もう少しも危ないことはありませんでした。
……………………………………………………
 この王子は、やがて世界で一番強く、そして一番賢い王様になりました。
なぜなら、どんなに高いところへ登っても平気なほどしっかりとした気性でしたから一番強かったのですし、また、ちゃんと下り道を準備しておくほど用心深かったからこそ、一番賢かったのです。
そして王子は一生の間、あの黒い着物を着た白ひげの老人を、自分の守護神として大切に祀り続けたのでした。

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