そうはさせるかと、兵曹長は怪塔王の首を締め上げようと、右腕を素早く相手の喉元へ回しました。しかしその瞬間、怪塔王にガブリと噛みつかれました。
「あいたっ!」
犬のように噛みつかれたため、小浜兵曹長は思わず力を抜いてしまいました。すると怪塔王の腰が、まるで鋼の板のようにはね返りました。あっという間の出来事でした。兵曹長はどーんと砂原の上に投げ出され、もんどり打って転がってしまいました。
「しまった!」
しかし、兵曹長もただ者ではありません。砂原に叩きつけられるが早いか、すぐにすっくと立ち上がりました。そして踵を返すと、弾丸のような勢いで、怪塔王の胸元めがけて飛びかかりました。
「なにを!」
「うーむ!」
小浜兵曹長と怪塔王は互いに真正面から組み合い、まるで横綱と大関の相撲のような激しい取っ組み合いになりました。兵曹長は力自慢でしたが、怪塔王も負けず劣らず怪力なので、一瞬たりとも油断はできません。えい、えい、と揉み合っているうちに、兵曹長は得意の投げ技をかける隙を見つけました。ここぞとばかりに、
「えいっ!」
と大喝一声、怪塔王の大きな体を砂原の上にどーんと投げ飛ばしました。怪塔王は俵を転がすようにゴロゴロと転がりましたが、やっとのことで砂原から起き上がった姿を見ると、いつの間にかその右手に、妙な形のピストルのようなものを持っていました。兵曹長は、はっと立ちすくみました。
2
「さあ、寄ってみろ。撃つぞ」
怪塔王は、妙な形のピストルを構え、小浜兵曹長の胸元を狙っています。これには、勇敢な兵曹長も少しひるみました。怪塔王の持つそのピストルは、このままでは間違いなく兵曹長の胸を射抜いてしまいそうです。小浜兵曹長は、じっと怪塔王を睨みつけて立ち尽くしました。兵曹長の息づかいは、だんだんと荒くなってきます。額から頬にかけて、ねっとりとした汗がたらたらと流れてきました。
「うぬっ!」
とつぜん、兵曹長の体が砂原の上に転がりました。ごろごろっと転がって、怪塔王の足元を襲ったのです。こうなると、怪塔王はピストルの銃口をどこに向けていいのか分かりません。
だだーん、だだーん!
激しい銃声が響き、砂が白く巻き上がりました。
「この野郎!」
いつの間にか、兵曹長は砂原から立ち上がっていました。ピストルを持った怪塔王の右手に飛びつくと、一本背負いで怪塔王の体を水車のように投げ飛ばしました。
「ううむ……」
小浜兵曹長は、呻く怪塔王に馬乗りになりました。妙な形のピストルは、兵曹長の靴でぽーんと蹴り飛ばされ、はるか向こうの岩陰へと飛んでいってしまいました。
「さあ、どうだ。動けるものなら動いてみろ!」
怪塔王は、帯革を使って後ろ手に縛り上げられてしまいました。怪塔王はすっかり元気を失い、砂の上に座り込んでしまいました。
「とうとう怪塔王を生け捕りにしたぞ! 怪塔王といっても、案外弱いものだな」
小浜兵曹長は両手を高く突き上げ、声高らかに万歳を唱えました。
3
怪塔王は捕らえられました。小浜兵曹長は大手柄を立てたのです。天にも昇るような喜びでした。縛られてしまえば、怪塔王も案外弱いものです。小浜兵曹長は、この機に乗じて怪塔王を引き立てて塔の中へ入り、ロケットを占領してしまおうと考えました。怪塔王を捕まえ、さらに怪塔ロケットまで占領するとなれば、これはとてつもない大功績です。
意気揚々と張り切った小浜兵曹長は、「さあ、歩け!」と怪塔王を突き飛ばすようにして歩かせました。怪塔王は恐ろしい形相をして兵曹長を睨みつけるばかりで、何も口をきかなくなってしまいました。
すぐ近くに見える怪塔ロケットは、舵取り機が修理されたばかりのようで、機体のあちこちもペンキが塗り替えられています。これは、あの青江三空曹の命を奪った、恨みの怪塔ロケットに違いありませんでした。おそらく、これが数あるロケット隊の司令機のような存在なのでしょう。兵曹長は、まずこれを占領するのが一番だと考え、怪塔王を引き連れて入り口に差し掛かりました。
ロケットの入り口は開いていました。そのとき、中から四、五人の黒人や、ルパシカを着た東洋人らしい男たちが出てきました。彼らは兵曹長を見ると、びっくりした様子で腰のピストルを抜こうとしました。
「待て!」
と、兵曹長は声をかけました。
「撃つのは勝手だが、撃てばその前に、俺はこの怪塔王の命を奪うことになるぞ。それでもいいのか!」
そう言って、先回りして怪塔王から奪ったピストルを突きつけました。これを見て、敵たちは二度びっくりです。怪塔王の命は、今や兵曹長の手の中にしっかりと握られているのです。うっかり撃つことなどできません。
4
「さあ、どうだ。撃ちたくても、これでは撃てないだろう。この辺で、お前たちもおとなしく降参したほうがいいぞ」
小浜兵曹長は、大声を張り上げて叫びました。兵曹長は、この大きな声が帆村探偵にも届いてほしいと願っていました。もし届いているなら、彼はすぐさまここへ飛ぶようにして駆けつけてくれるはずです。そして、どれほど喜んでくれることだろう……そう思ったのでした。しかし、どういうわけか、帆村探偵の姿は一向に現れません。
(帆村探偵は、一体どうしてしまったんだろう?)
兵曹長には、どうしても合点がいきませんでした。
とはいえ、ぐずぐずしてはいられません。彼は縛り上げた怪塔王と、降参した手下たちをうながして、ついに怪塔ロケットの中へと乗り込みました。
それは、本当に一瞬の出来事でした。
突然、怪塔ロケットの入り口の扉が、ばたんと閉まったのです。
「あっ――」
兵曹長が叫んだときには、もう扉は閉ざされた後でした。
怪塔王も手下も、兵曹長によって自由を奪われ、身動き一つできない状態だったので、兵曹長はすっかり安心しきっていました。それなのに、一体どうしたことでしょう。
実のところ、扉の陰にひっそりと隠れていた何者かが、兵曹長が中へ入るのを見計らって、素早く扉を閉めたのでした。
「こらっ、誰だ! 変な真似をすると許さないぞ。貴様たちは、俺が怪塔王の命を握っていて、生かすも殺すも思いのままだということを知らないのか!」
兵曹長が怒鳴りつけました。
するとそのとき、「あっはっはっはっ」と、無遠慮で大きな笑い声が響きました。
5
「誰だ! 大声で笑っているのは。お前たちの頼みの綱である怪塔王は、こうして今、俺の目の前で生け捕りにされているんだぞ」
小浜兵曹長は、たしなめるように笑い声の主へ注意を与えました。
「あっはっはっはっ」
その声は、おかしくてたまらないといった様子で笑い続け、こう言いました。
「何を大きなことを言っているんだ。貴様はそこに怪塔王を捕らえているつもりで、喜んでいるんだろう?」
「何を言っているんだ!」
兵曹長は怒鳴り返しました。
「貴様こそ、何を言っている! 貴様が捕らえているのが本当に怪塔王かどうか、そのお面を剥いでみればすぐわかるだろう。あっはっはっはっはっ」
「えっ――」
お面を取れと言われて、兵曹長はハッとしました。
そしてようやく、ある事実に気がついたのです。こうなっては、一刻も早く真実を確かめねばなりません。
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