初級翻訳・怪塔王 第49話

怪塔王

誠に申し上げにくいですが、ただ今あたりを見回しましたところ、空中を飛んでいるロケットは、わが一機だけであります」

「えっ、お前の一機だけか? そして他のロケットはどこにいるのだ」

「それがその、先ほどからの戦闘中、あべこべ砲にやられまして、いずれも皆、火焔に包まれて海面へ落ちていき、それっきり再び浮かび上がってまいりません」

「な、なんじゃと。それではあとは全部、日本軍のためにやっつけられたのか。そ、それはあまりにひどすぎる! あれだけのロケット隊を作るのに、どんなに苦労したことか。それが、かねてわしの狙っていた日本の武力を根こそぎ壊すどころか、今までに軍艦『淡路』と十数機の飛行機を壊しただけで、もうこっちがあべこべにやっつけられてしまった。ああ残念だ。なんという弱い同志たち! なんという恐ろしいあべこべ砲! わしは失敗した。あべこべ砲の始末を十分につけないで放っておいたのが誤りだった。だが、まさかあの秘密室まで日本軍が入り込んでくるとは思っていなかったのだ」

怪塔王は、赤くなったり青くなったりして、地団駄を踏んで悔しがりました。しかし、残るロケットがただ一機では、どうすることもできません。

「おい怪塔王、もうこの辺で男らしく降参しろ」

小浜兵曹長が、割れ鐘のような声で怪塔王を追い詰めました。怪塔王はきっと顔を上げましたが、そのまま言葉もなく首を垂れました。

素顔

1

「もうだめだ」

怪塔王のため息は、帆村探偵にも小浜兵曹長にも、聞えすぎるほどはっきりと聞こえました。怪塔王は気の毒なほど悄気(しょげ)ているようです。

「おい、マスクを取れ」

帆村探偵が催促しました。

「よし、今取る。もうこうなっては、諸君の命令に従うばかりだ」

怪塔王は日頃に似合わぬおとなしい口調で、両手を顔にかけました。ああ、今こそ怪塔王のマスクが取られるのです。人を馬鹿にしたような、おどけた「汐ふき」のマスクの下にある顔は一体どんな顔であろうかと、帆村探偵と小浜兵曹長は、非常に胸を躍らせると同時に、一方では大変気味悪くも思いました。

怪塔王はマスクを無造作に脱ぎました。防毒面を脱ぐのと同じように、顔面全体と頭髪とが、すっぽりと取れたのです。さあ、そのマスクの下にどんな顔があったでしょうか。息が詰まるような瞬間です。怪塔王はしばらくうつむいていましたが、やがて顔を静かに上げました。

鬼神の顔か? それとも国宝科学者といわれた大利根博士の顔か?

いや、そのどちらでもありませんでした。それは、のっぺりとした若い西洋人の顔でした。
まったく見覚えのない、知らない西洋人の顔です。
(おや、これが怪塔王の素顔なのか!)
帆村探偵も、小浜兵曹長も、二人とも少し拍子抜けしたような気持ちになりました。

「さあ、これがわしの素顔だ。よく見てくれ」

そう言った声は、いつも聞き覚えのある、あの憎らしい怪塔王の声そのものでした。
すると、この若い西洋人が、あの「汐ふき」のマスクをかぶって、あんなにも大胆で悪いことの数々を働いていたというわけです。

「貴様は一体、何者なんだ」

小浜兵曹長が、こらえきれないといった様子で、怪塔王に問いかけました。

2

「わしの素性か。そんなことはどうでもいい」

怪塔王は荒々しく息をはずませながら、こう続けました。

「わしは日本海軍をやっつけて、東洋をめちゃめちゃにするつもりだったが、失敗した。失敗した以上、わしはもう何も言いたくない」

そう言って、彼はきつく口を結んでしまいました。
この若い西洋人は、発明狂か何かだったのでしょうか。その生い立ちこそ、ぜひ調べてみたいと思わせるほど、実に興味深い人物でした。

さっきから口を閉ざしたまま、呆然と怪塔王の素顔を見つめていた帆村探偵が、この時、すっと一歩前に進み出ました。

「おい怪塔王、正直に言うと、僕は怪塔王とは大利根博士が化けているのではないかと思っていた。しかし、マスクを取った顔を見て、僕の考えが間違っていたことがはっきりわかった」

帆村探偵は少し唇を噛みしめると、こう言いました。

「――それで僕は今、怪塔王からぜひとも返答をもらいたいことがある」
「えっ、それは何だ」
「それは大利根博士の行方だ。博士は今、どこにおられるか、すぐに教えたまえ」
「そんなことは知らん」
「知らんとは言わせない。怪塔王が博士の邸宅へ押し入ったことは分かっているんだぞ。博士の上着が残されていて、それに血がたくさんついていたことも知っている。あの大科学者を、君はどこへ連れて行ったんだ。博士はまだ生きているのか、それとも君が殺したのか。それを知らないとは言わせないぞ!」

帆村探偵は、今にも怪塔王の胸ぐらをつかまんばかりの、激しい剣幕で詰め寄りました。
怪塔王はしばらく口をもごもごさせていましたが、やがて決心したように言いました。

「大利根博士の行方を、それほど知りたいか。ではやむを得ない。これから案内して、博士をお前たちに引き渡そう」
「えっ、博士を渡してくれるのか。すると博士は、この島にいるのか」
「うん、そうだ。この上の洞窟の中に監禁してあるのだ」

3

大利根博士がこの島に監禁されていると聞いて、帆村探偵も小浜兵曹長も、驚き、そして喜びました。

「では、早く案内しろ!」

怪塔王の横には帆村探偵が付き添い、そのうしろからは小浜兵曹長が殺人光線灯を構えて従いました。万一、怪塔王が逃げようとすれば、すぐにこの殺人光線灯を浴びせるつもりだったのです。

怪塔王は坂道をのぼると、例の洞窟の中へと入っていきました。中は薄暗く、その下にはあのおそろしい海底牢獄が広がっています。

「怪塔王、貴様は博士を海底牢獄に放り込んだな。ひどい奴だ」
「いや、海底牢獄ではない。この洞窟の中に、別に大きな部屋があるのだ。さあ、この岩の割れ目から入っていくんだ。天井が低いから、頭をぶつけないようにしたまえ」
「なに、頭をぶつけるなだと?」

帆村と小浜は、ついその言葉に釣られて、はっと上を見上げました。その瞬間、二人の目は怪塔王の体から離れ、真っ黒な岩天井へと向いてしまいました。それこそが、完全に怪塔王の思うツボだったのでした。博士をエサにして、二人はここまで引き出されたのです。

「えいっ!」

一声高く怪塔王が叫んだかと思うと、彼の姿は岩の割れ目の中に消えてしまいました。

「あっ、逃げた!」

帆村探偵と兵曹長はすぐにその後を追おうとしましたが、その時、岩の割れ目の向こうが深い谷になっていることに気づき、はっと身を縮めました。

「ぎゃーっ!」

その時、谷底から魂を消すような悲鳴が聞こえてきました。二人はそれが、谷底に落ちて岩角に頭を打ちつけたらしい、怪塔王の最期の声であると悟りました。

「おお、あれは――」
「うん、怪塔王の自滅だ」

帆村探偵と小浜兵曹長は、思わず互いに寄り添い、手と手をしっかりと握り合いました。

4

怪塔王は、ついに自滅したようです。
帆村探偵と小浜兵曹長は、この快報を一刻も早く秘密艦隊へ知らせたいと考えました。それを知らせるには、今のところただ一つの方法しかありません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました