一機が編隊を離れて低空飛行に移り、ルゾン号のそばへと近づいてきた。
スミス警部は身支度を整えて、エバン船長のところへ挨拶に行った。
「ラスキン司令の好意で、私はこれからわが飛行機に乗り込むことにします。どうも長々とお世話になり、ありがとうございました」
「やあ、それは……」
船長も警部の素早い身の引き方に感心し、かつ、あきれている様子だ。
「やあ坊や。君も来るつもりなら、飛行機に乗せてもらってやろう」
警部は三千夫の頭をなでながら言った。
三千夫の心は動いた。ルゾン号にいるより、空高く飛ぶ飛行機に乗っている方がどんなに面白いか知れないからだ。しかし残念なことに、スミス警部が長良川博士を「気が変だ」と思っている。これは少年にはあまりいい感じがしなかった。
「さあ坊や。乗るか、乗らないか」
警部は三千夫には親切だった。
その時だった。
「ああ、また『鉄のクラゲ』が現れた!」
という船員の驚きの声がしたかと思うと、ビューンと唸りを上げて、ルゾン号の帆柱めがけて通信縄が飛び込んできた!
急いで水夫が拾って船長に手渡したものは、「黄色の眼」からの第二回警告文だった。
その文面は走り書きで、次のように書いてあった。
「フタタビ警告スル。無謀ナルコトヲヤメヨ。タッテヤルトイウナラ、余ハ世界人類ノ不幸ヲ救ウタメ、カワッテソノ暴挙ヲ思イトドマラスデアロウ。――黄色ノ眼ヨリ」
スミス警部は目を怒らせて叫んだ。
「何を! 海賊船め、生意気な……!」
ああ、大変だ。鉄のクラゲとスミス警部とのにらみ合いが始まってしまった。大西洋上の波は、いよいよ高くなっている。
【またもや大爆撃】
スミス警部は大憤慨のあまり、ルゾン号の無線室に駆け込んだ。「さあ、すぐラスキン大尉に無線電話をつないでくれ!」
スミス警部は、そう言うが早いか無線技士の肩を強く叩きました。
技士はすぐさま、上空を飛行する偵察機と連絡を取りました。受話器からは、司令官であるラスキン大尉の声が響いてきました。
「こちらラスキン大尉だ。スミス警部、呼んでいるのかね?」
「その通りだ、スミスだ!」
警部はマイクの前で、鳩のように胸を張りながら言いました。
「いま、例の『鉄のクラゲ』が本船の左舷に姿を現しました。あの海賊船をすぐに爆撃してください! さもないと、あのクラゲがこちらを攻撃してくると言っているのです」
「なんだと? こちらを攻撃してくるというのか。それはけしからん。よろしい。それならば、今度こそ徹底的に叩き潰してやるぞ」
ラスキン大尉は爆撃機八機に対し、『鉄のクラゲ』を直ちに爆撃するよう命を下しました。
「スミスのおじさん、どうして無線室へ行ったの?」
三千夫少年は、無線室からにこにこ顔で出てきた警部に駆け寄りました。
「やあ、坊や。左舷を見てごらん。これから素晴らしい航空ショーが見られるぞ。世界に誇る英国海軍の見事な腕前というやつだ。さあ、そっちへ行って、ぼくも一緒に高みの見物といこう」
「左舷っていうと、今『鉄のクラゲ』が見えている方だねえ、おじさん」
「そうさ。その『鉄のクラゲ』が、これから撃沈されて、ぶくぶくと泡を吹くところが拝めるんだよ」
「えっ、それはかわいそうだよ。おじさん。だって『鉄のクラゲ』に乗っている『黄色の眼』は、世界人類のために無茶をしてはいけないって、ぼくたちを一生懸命なだめているんじゃないか。海賊船なら、世界人類のためなんて言わないはずだよ」
「そうじゃない。あれは間違いなく海賊船だ。あんなものを大西洋にのさばらせておいては、大英帝国の恥だ!」
スミス警部は祖国の名誉にかけて、強い口調で言い放ちました。
その間にも、八機の爆撃機はラスキン大尉の命令に従い、一千メートルの上空で美しい隊列を組みました。左端の一機が翼を傾けると、それを合図に、たちまち急降下しながら『鉄のクラゲ』の真上へと襲いかかりました。
ドドーン、ガガーン!
凄まじい爆音です。一機、また一機と、まるで工場の機械が規則正しく動くかのような見事な訓練ぶりで、爆撃隊は次々と『鉄のクラゲ』めがけて真っ黒な爆弾を投下しました。
海面は、狂ったように飛び散る幾筋もの水柱と、あたりを包み込む真っ黒な火薬の煙で覆い尽くされました。当然、『鉄のクラゲ』はその中心にいたのですから、ひとたまりもなくやっつけられただろうと、この凄まじい光景を見た誰もがそう思いました。
八機の爆撃隊は、真っ黒な爆弾を『鉄のクラゲ』に落とし終えると、一機また一機と、見事な翼さばきで機首を立て直し、再び上昇していきました。爆弾はまだ海面で激しく炸裂を続けています。
ドドーン、ガガーン。空気を引き裂くような激しい爆音に、ルゾン号の甲板にいた人々の耳は、しばらくの間、何も聞こえなくなってしまいました。
「ああ、かわいそうに……」
三千夫少年は『鉄のクラゲ』のことがどうしても諦めきれず、吹き上がる黒煙に向かって心の中で祈らずにはいられませんでした。
「おや、あれ? 変だぞ。おい、あの紫色に光っているのはなんだ?」
「どれどれ、紫色に光るっていうのは」
「ほら、あの爆撃の場所からずっと右の方だよ!」
「ああっ、あれか。あの光だな」
船員たちが甲板にひしめき合って見つめる先には、爆煙からさほど遠くない海中の光る物体がありました。紫色の光だけがぼうっと見えていますが、海面には何者の姿もありません。これは確かに奇妙です。その光は、海面の下から発せられているのでした。
一度上空に舞い上がった爆撃機たちは、そこで再び隊列を整えると、怪しい紫の光めがけて攻撃姿勢をとりました。その時です。紫の光がさっと揺らめいたかと思うと、まさに急降下爆撃に移ろうとしていた左翼の爆撃機の機首に、ピシャリと当たりました。
すると、その爆撃機は急に機首を反転させ、方向を変えてしまいました。強烈な光線のために操縦士の目が眩み、操縦の自由を奪われてしまったのです。
ルゾン号の甲板からも、その様子は手にとるようにありありと見えました。
「船長さん、大変だ!」
三千夫少年がエバン船長の腕にすがりつくと、船長は腕組みをして歯を食いしばりながら言いました。
「うむ……『鉄のクラゲ』は、恐るべき武器を持っているようじゃ」「えっ、『鉄のクラゲ』は今の爆撃で、沈んでしまったのではないのですか?」
「とんでもない。爆弾が落ちるのを待っているような『鉄のクラゲ』ではないわい。かわいそうに、やられたかなと思った瞬間、ずぶりと水の中にもぐって、今はあの紫の光が出ている海面の下で爆弾を避けているのじゃ」
と、ルゾン号の船長が言いました。
爆撃機は次々に、あの紫の光のせいで視界を遮られ、爆撃を断念しました。あまりの不思議さに、見ている人々は声も出ず、その場の光景にただ圧倒されていました。スミス警部はすっかり意気消沈しています。
「なにをやっているのです、ラスキン大尉!」
と、スミス警部は顔を真っ青にして、マイクに向かって怒鳴り込みました。
「うむ……残念ながら、断念するほかない」
と、ラスキン大尉の声は悲痛でした。
「海賊船は、わが戦隊の持っていない奇襲兵器を使って攻撃してきた。このままではだめだ。
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