初級翻訳・恐竜島 第18話

恐竜島

そして洞窟の天井にあたるところにどこか割れ目があって、そこから熱帯の強い日光が差し込み、洞窟内を照らしていたのです。

洞窟の中は、一面に青黒い海水が満たされていました。そしてその海水の中に、巨大な恐竜が少なくとも四頭、遊んでいたのです。
一頭の恐竜でもぞっとするようなところへ、この不思議な洞窟を発見し、その中に四頭もの恐竜が一箇所に集まっているのを見たのですから、一同が死人のように青ざめたのも無理はありません。
その恐竜たちは、玉太郎たちが近づいたのに気がついていないようでした。それは彼らにとって幸いでした。もし恐竜がそれに気づき、玉太郎たちを攻撃しようと思ったら、少し長い首を伸ばして崖の上にいる玉太郎を一なめにすればよかったのです。また、玉太郎たちが逃げ出したら、恐竜はひょいと洞窟の底を蹴って崖の上に飛び上がり、地下道を追いかければ、わけなく人間どもを捕らえることができたのでした。

しかし、四頭の恐竜たちは互いに仲良くふざけていて、玉太郎たちには気がついていないようでした。玉太郎は、ようやく心臓のドキドキを少し鎮めることができました。そして、この怪奇極まる恐竜洞をいっそう心を落ち着けて眺めました。
見れば見るほど、天下の奇景でした。岩山がうまく寄り集まって、偉大なる巣窟を作っているのです。日は明るく差し込み、洞窟の中を満たしている海水は、外洋に通じているようでした。その証拠に、海水は周期的に波立ち、波紋が広がっていました。波は玉太郎の見ている方へ打ち寄せてきます。してみれば、波が入り込む入口はこの洞窟の奥まったところにあるらしいのです。そういえば、奥の方で時折、美しい虹が見えることがありました。
恐竜が遊んでいる洞窟の中には、海水ばかりではなく、方々に赤黒い岩が水面より頭を出していて、まるで多島海の模型のように見えたのでした。岩の中には、海水に絶えずざあざあと洗われているものもあれば、水面より何メートルも突き出して「どうだ、俺は高いだろう」といばっているように見えるものもありました。
怪鳥が、しきりに洞窟の中を飛び回っていました。
そして、ぎゃあぎゃあと気味の悪い声で鳴いています。
玉太郎がこの不思議な光景に見とれていると、そばにいる誰かがしきりに体をすりよせてきました。
玉太郎は、その者のせいで横へ押され、姿勢を崩せば真っ逆さまに落ちてしまいそうな危うい状態であることに気づきました。
「何者だ、この無遠慮なやつは」と振り返ってみると、なんとそれは探検隊長のセキストン伯爵でした。
(ああ、この老人も怖がっているんだな)と、玉太郎は少しおかしくなりました。
伯爵は怖いので、玉太郎の体を盾にして、おそるおそる岩の向こうを覗き見ようとしているのだろうと、玉太郎は最初はそう思ったのです。
ところが、それにしては妙な点があることに、玉太郎は気づきました。
というのも、伯爵の両目は、カッと大きく見開かれていたからです。
まばたき一つしません。
前方の一点を見つめ続けているのです。
その視線をたどってみると、どうやら伯爵の視線は、洞窟の海水が満ちている中央あたりに突き刺さっているようでした。
恐竜は、一頭が岩の上にはい上がっていますが、あとの三頭はもっと左側で相変わらずふざけていますから、伯爵は恐竜を見つめているわけではないのです。
一体、何事なのでしょうか。
伯爵は何を考え、何をしようとしているのでしょうか。

伯爵の興奮

玉太郎はじっと伯爵の動作をそれとなく観察していました。
伯爵は、何かに取りつかれた人のように、そばに玉太郎がいることさえ気づいていないようです。
その伯爵が、急に一声うなると、岩の上に腹ばいになったまま筒型の望遠鏡を取り出し、目に当てました。
そして先ほどよりいっそう熱心に、洞窟内の多島海の真ん中あたりを見つめているのでした。
(なんだろう。伯爵は、自分にとって非常に気になるものを探しているらしい。一体何を調べているのだろうか。この前この島へ来て、ここに取り残された探検隊員を探しているのではなかろうか。それとも、恐竜よりももっと珍しい前世紀の動物を探しているのだろうか)
玉太郎はいろいろと思いを巡らせましたが、すぐには答えが出ませんでした。
「ううん、そんなはずはない」
伯爵は低い声で、苦しそうにつぶやきました。
「伯爵、どうしたんですか。何を探しているんですか」
玉太郎は、ついに伯爵に尋ねました。
すると伯爵は、カッと目をむき、大口を開けて玉太郎から身を引くと、にらみつけました。
その顔つきは、玉太郎がこれまで一度も見たことのない恐ろしい形相でした。
「ああーッ! 君なんか、君なんかの知ったことではない!」
伯爵はいつもの伯爵とは別人のように、傲慢な態度で言い放ちました。
そしてまた望遠鏡を取り上げて、洞窟の中央あたりを探しにかかるのでした。

そのとき、洞窟の中で荒々しい羽ばたきをして上になり下になりと戦っていた二羽の怪鳥が、互いにくちばしで噛み合ったまま、洞窟の天井から石のように下へ落ちてきました。
そしてあっという間に、一つの平らな岩の上で昼寝をしていたらしい一頭の恐竜に、ドサリとぶつかりました。
怪鳥は絹を裂くような叫び声を上げ、恐竜もまた突然の衝突にびっくりしたのか、巨体を揺らすと、ザンブリと海水の中へ身を投げました。
そのあたりが、キラキラとまぶしく光りました。
それは海水の飛沫が日に照り映えたようでもありましたが、それにしてはあまりに強い光のように思われました。
しかし、そのキラキラとした光は、恐竜がそれまで腹ばいになっていた岩の上で、特に強く輝いているように見えました。
「ううーッ! あれだ!」
伯爵がしゃがれ声で叫びました。
しかし、その言葉の意味は玉太郎には通じませんでした。
玉太郎は、老伯爵がますます奇妙なうなり声を上げるので気味が悪くなり、「どうしたのですか」とまた尋ねました。
「どうもしない! どうもしない! 君、君なんかには絶対に関係のないことだ!」
伯爵は口ごもりながらそう弁解し、玉太郎をグッと睨みつけました。
「それならいいですが、あなたはなぜ、さっきから興奮しているのですか、伯爵」
玉太郎は、そう言わずにはいられませんでした。
「伯爵? ああ、そうか。なに、わしが興奮しているって……あははは、とんでもない。わしは北氷洋の氷塊のように冷静だ」
なんだかわけのわからないことを伯爵は叫びましたが、やはり興奮していました。
しかし、彼は自分の興奮を極力他人には知られたくない様子でした。
ともかく、その時以来、伯爵が急に上機嫌になったことは確かでした。一体、何がこの老人をこれほどまでに喜ばせているのでしょうか。
「伯爵、その望遠鏡をちょっとぼくに貸してくださいな」
「この望遠鏡をだと!」伯爵はむくりと起き直ると、例の望遠鏡を大事そうに胸に抱きしめました。
「とんでもない。これは大切なものだ。貸すことはできない。絶対にだ」
伯爵の様子は、いよいよ尋常ではありませんでした。
玉太郎は自分の方に味方を増やそうと、あたりを見回してケンとダビットの姿を探しました。

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