船はいつの間にか海に出ているではありませんか。恐竜島が、千メートルも向こうに見えます。
「おーい、おーい! ケンさん、ダビットさん、ラツールさん、張さん!」
玉太郎は一人ずつ起こして回りました。まだ太陽は昇っていませんでしたが、もう東の空は明るくなっていました。
「ああ、これはどうだ!」
みんなは目をこすりながら起きましたが、あたりの様子を見ると、眠気は一辺に吹き飛んでしまったようです。
「助かったぞ、救われたぞ!」
ダビットとラウダが手を握り合って、甲板の上で踊りました。
「ラ、ラ、ラ、ラ、ラララ、ラーラ」
とても楽しそうです。
「諸君」
ケンが一同を見回しながら、厳かに言いました。
「我々はこれで助かった。けれど、島にはまだ我が友がいる。彼らをどうすべきかが、残された問題だ」
「断然、救わねばならぬ!」
ダビットが力強く手を挙げました。「人道的な立場から見ても、放っておくことはできない。誰にだって自由を勝ち取る権利があるんだ。となると、誰が助けに行くか、だね」
玉太郎がすっと手を挙げました。
「僕が行きます!」
「小さいよ、日本の少年。それは困るな」
ダビットがおどけたように言いました。
「僕も行こう。それに、これからどれだけ航海が続くか分からない本船には、食料が全くない。椰子の実でも何でもいい、食べるものを集めてくる必要があるんだ。救助と食料調達、その両方の任務を背負って、僕も行かせてもらうよ」
「では、島へ行く希望者を募ります」
みんなが手を挙げました。
「全員で行ってしまっては、船を守る者がいなくては困る。どうだろう、誰が船に残り、誰が島へ行くか、僕に一任させてくれないか?」
「ケンに任せよう。僕は賛成だ」
ダビットが一同を見回しました。
「議長」
張が手を挙げました。
「僕は船に残りたい。島にいる友人たちを救うのが嫌だというわけじゃないんだ。ただ、友人たちが戻ってくる前に、船長室のあの不気味な飾りものを片付けておきたい。死者の霊と向き合う役目を僕に任せていただければ、光栄です」
「よろしい、張君、君は残ってくれ。それからラツール、君は疲れすぎている。君も残るんだ。そして玉太郎君、君もだ」
「僕は行きたいんです!」
「僕の代わりに連れて行ってあげてほしい」ラツールも口を添えました。
「ダビット、君はどうする?」
「僕は行きたいし、残りたいんだ。張があのミイラ先生を片付けるところをカメラに収めたいし、同時に君たち救援隊の冒険も映像に記録したいからね」
ダビット・カメラマンは、相変わらず欲張りです。
ラウダは道案内が必要なので、当然行くことになりました。結局、船にはラツールと張、そしてポチを残し、一同はボートで出発することに決まりました。
船は錨を上げました。一同は縄を伝ってボートに乗り込みます。ケンとダビットがオールを握り、ラウダが舵をとりました。恐竜のいない海岸へたどり着かなければ危険です。そのためには、ラウダの知識が何よりも頼りになります。
海面は穏やかでした。緑色の水を通してみると、さまざまな美しい色の魚たちが泳ぎ回っているのが見えます。
「よし、東海岸の入り江につけよう」
すでに太陽が水平線の横に顔を出した頃だったので、波は金色や銀色、あるいは赤や紫に輝き、恐竜島の緑が刻々とさまざまな色彩で染め上げられていくところでした。
「きれいだなあ。絵画よりも美しい。天然色の映画よりずっと綺麗だよ」
ダビットが周囲を見回します。
「天然色フィルムを置いてきたのが残念だな」と首をすくめました。
ギイ、ギイと、ボートは軽く波の上を滑っていきます。やがて東海岸の入り江へ到着し、ボートをつなぐと、一同は海岸沿いにしばらく歩いてから山へ入りました。
「あのあたりには椰子林があるし、天然の薯(いも)も少しはあるはずです。それから、こっちのジャングル地帯には食べられそうな草もあります。蜜蜂の巣なんかもご馳走ですよ」
ラウダは一つ一つ説明しながら先頭を歩きました。みんながいるのは西海岸です。そこへ行くには、恐竜の谷を越えるのが近道でした。
「大丈夫、恐竜については僕に自信がある。奴らは口笛の音が大好きなんだ。口笛で彼らを操る術を僕は知っているよ」
「口笛で?」
「うん、あのピー、ピーという静かな音さ。奴らが一番恐れているのは雷なんだ。あの光をとても怖がる。だから汽船のスクリューの音や飛行機の爆音も大嫌いらしい。でも、静かな高い音は心地いいみたいだね」
ラウダは自分の経験をすっかり話してくれました。それを聞いて、一行はツルガ博士が沼のほとりで竪琴をポロンポロンと静かに奏でていたとき、恐竜がじっと聞き入っていた姿を思い出しました。奴らは本当に音楽が好きなようです。
一行は島のジャングルを抜けて、恐竜の谷を見下ろす高台に出ました。
「すばらしい眺めじゃないか、ケン。どうだ、この朝日が輝く雄大な景観は! 一カット撮っておこうと思うよ」
「いいだろう。下からだんだん上にパンアップしていってくれ」
ダビットのカメラがジー、ジーと音を立てました。
「登りきったところで右に移動する。あの木のあたりで、海を入れてカットだ」
映画監督ケンの指導はなかなか細かいものです。
「このあたりで恐竜くんが出てきてくれないかな。ラウダくんの口笛に合わせて恐竜がレビューでもしてくれれば、ニューヨークの劇場で一年間のロングラン興行になるぞ」
カメラを収めながら、ダビットは相変わらずの冗談を飛ばします。
博士はどうしているだろう。少女ネリは無事だろうか。それから実業家のマルタン氏は……みんな、どうしているだろう。玉太郎の胸の中は、島に残して別れ別れになった人々の安否を気遣う気持ちでいっぱいでした。だから、ダビットのように景色に気を配る余裕などありませんでした。
「あ、あれはなんだ。おい、ケン!」
ダビットが慌てて叫びました。ドーン!という大砲のような音が響き渡りました。
ダビットは崖の端へと駆け寄りました。
そしてその頂上から下を見下ろしたのです。
「わあ、大変だ!」
「どうしたダビ、なんだ!」
続いてやってきたケンが、ダビットの顔を覗き込みました。
ダビットの目は大きく見開かれ、口からは泡を吹かんばかりの驚きようです。
「そんな驚いた顔、マンガのキャラクターでも見たことがないぞ」
「そんなこと言っている場合じゃないんだ。
見てくれ、あれを。恐竜だ、恐竜と戦っているんだ!」
「なんだって、恐竜だって?」
「ほら、あそこだ!」
玉太郎も駆け出しました。
ラウダも走ってダビットのそばにやってきました。
「うーん……」
ラウダが叫びました。
「あれは、モレロじゃないか!」
玉太郎も叫びました。
ダビットはすかさずカメラを構えました。
「人道的にはいけないことだが、絶好のシャッターチャンスだ。
ケン、ラウダ、玉太郎、早く救助に行ってくれ! 僕もすぐに後を追う」
そう言い終わるか終わらないうちに、三人の姿はまるでリスのように山の斜面を駆け下り、恐竜の谷へ転がるように急いで向かっていきました。
恐竜の巣へ向かって――。
ここで、話を少し前に戻しましょう。
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