初級翻訳・探偵少年 第4話

探偵少年

さっそく電話で他のメンバーたちに連絡すると、その日のうちに十五人もの団員が集まってきました。

小林少年とノロちゃん、そして集まった十五人の少年たちは、明智探偵事務所の応接間に集まり、黄金のトラをどこに隠すかについて作戦会議を開きました。
すると、一人の少年が提案しました。
「井上(いのうえ)君の家がいいと思うな。井上君のお父さんは元ボクシングの選手だからすごく頼もしいし、他のおうちだと、お父さんやお母さんに反対されちゃうかもしれないからね」
「そうだね! 井上君のお父さんは冒険が大好きだからね。それが一番いいよ!」
みんなが大賛成したので、井上君は急いでおうちに帰り、お父さんに相談してみました。すると、
「魔法博士と知恵比べだって? それはおもしろそうだな! よし、お父さんも手伝ってやるぞ!」
と、大乗り気で賛成してくれました。

こうして、黄金のトラの隠し場所が決まりました。
小林団長と井上一郎(いのうえいちろう)少年は、黄金のトラを持って井上君の家へと向かい、井上君のお父さんと三人でヒソヒソと秘密の相談をしました。
そして、夜になるのをじっと待ってから、小林君と井上君の二人はクワを肩にかついで、そっと庭に出ました。木がうっそうと茂った庭の隅っこを、六十センチメートルほどの深さまで掘り進めると、そこへ何かを埋めて、ていねいに土をかぶせました。

小林君と井上君は、庭の土の中に黒い箱のようなものを埋め終えると、今度は二階にある一郎君の勉強部屋に閉じこもり、何やら作業を始めました。しばらくすると、一郎君は、白いシルクの毛並みをした大きな犬のぬいぐるみを大切そうに抱えて、小林君と一緒に二階から降りてきました。
これは、一郎君がまだ小さかったころのお気に入りのおもちゃです。
相手はあの魔法博士ですから、きっとどこかから見張っているに違いありません。そこで二人は、わざと黒い箱だけを庭に埋める様子を見せておき、本物の黄金のトラは、布で作られた白い犬のぬいぐるみの中に縫い込んで隠してしまったのです。

それからは毎日、一郎君のお母さんやお姉さんたちが、代わる代わるこの白い犬のぬいぐるみを片時も離さず抱いていることにしました。学校から帰ってくれば、もちろん一郎君が大事そうに抱きしめます。
すると、それから四日目の日曜日のこと、一郎君あてに、奇妙な手紙が届きました。

『あさっての火曜日、午後四時に、例のものをいただきに参上する。必ず手に入れてみせるから、十分に気をつけることだ。 魔法博士』

手紙には、こんな不気味なメッセージが書かれていたのです。
一郎君がその手紙をお父さんに見せると、お父さんは、
「よし、このお父さんがしっかり守ってやる! 昔のボクシングの弟子を二人呼び寄せて、魔法博士がやってきたら、とっ捕まえてやるぞ!」
と、太い腕をさすりながら豪快に笑いました。
一郎君は小林団長にも、電話でこのことを知らせました。すると、
「大丈夫だよ。ぼくにも作戦があるからね」
という、頼もしい返事が返ってきました。

さて、いよいよ約束の火曜日がやってきました。
午後三時になると、一郎君が学校から帰ってきました。
お父さんは、応接間で例の白い犬のぬいぐるみを抱きかかえ、身構えていました。
ドアの外と庭には、ボクサーの若い男の人が一人ずつ立ち、厳重に見張りをしています。
お父さんは、白い犬のぬいぐるみを一郎君に手渡すとき、縫い目を少し開けて中をのぞいてみましたが、黄金のトラは確かにそこに収まっていました。
「よし、大丈夫だ。まだ盗まれてはいないぞ。今から四時までの間、何も起こらなければ一郎、おまえの勝ちだ! これだけ厳しく見張っていれば、いくら魔法使いだって手も足も出まいよ」
お父さんはそう言って、ニカッと頼もしく微笑みました。一郎君は白い犬のぬいぐるみを、グッと強く抱きしめて、油断なくあたりを見回します。
午後四時になるまでは、怪しいことは何一つ起こりませんでした。
一郎君はおもちゃの白い犬を抱きしめたまま、少しも手から離そうとはしません。
お父さんは、一度だけお手洗いに立ちましたが、すぐに戻ってきて、大きな目をむきながら白い犬を見つめています。
ドアの外と庭にいる二人のボクサーも、しっかりと自分の持ち場についています。
アリ一匹さえ入り込む隙間もないほどです。
応接間の棚の上では、大きな置き時計がチクタクと秒を刻んでいます。
四時一分前になりました。
「あと一分ですね」
「うん、あと一分経てば、こっちの勝ちだ。もう大丈夫だよ」
そう言いながらも、お父さんも一郎君も、緊張で顔を青くしていました。
その最後の一分間が、なんだかとても恐ろしく感じられたからです。
そのとき、チリリリリ……と、けたたましく卓上電話のベルが鳴り響きました。
お父さんが受話器を耳にあてると、気味の悪い、しわがれた声が聞こえてきました。
「井上さんですか。一郎君のお父さんですね。わしは魔法博士です。あと三十秒で四時ですよ。四時ぴったりに、あれをいただきますよ。あと二十秒です。ウフフフ……ほら、もう十秒しかない……」
置き時計が、チン、チン、チン、チンと、美しい音で四時を知らせました。
お父さんはそれを聞くと、ホッとして、電話の向こうの魔法博士に呼びかけました。
「今、四時を打ったのが聞こえましたか? どうやら、一郎の勝ちのようですね。あなたは約束を守れなかった。黄金のトラは、ちゃんとここにありますよ」
「ワハハ……、こいつは面白い。わしが約束を守れなかったと言うのかね? ワハハハ……!」
魔法博士のとんでもない大笑いする声が、受話器から響いてきました。
「何がおかしいのですか。黄金のトラはここにありますよ。あなたは盗み出せなかったじゃないですか。ハハハ……!」
お父さんも、負けじと笑い返しました。
「何だって? わしが盗めなかったと言うのか。あんた、何か思い違いをしてやしないかね。もう一度、黄金のトラを調べてごらん」
そう言われると、なんだか急に心配になってきます。
お父さんは、一郎君の手から白い犬のぬいぐるみを受け取り、縫い目を開いてみました。
そして、中を一目見るなり、「あっと」大声をあげずにはいられませんでした。
黄金のトラは、影も形もなくなっていたのです。

【二人の一郎君】

お父さんと一郎君は夢中になって、白い犬の縫い目をほどき、中に入っていた綿を全部取り出して調べてみましたが、黄金のトラはどこにもありません。
「おーい、君たち、怪しいやつを見かけなかったか!」
お父さんは、見張りをしている二人の青年に向かって大声で呼びかけました。
青年たちは驚いて、部屋の中へと駆け込んできました。
二人のボクサーは、少しも自分の持ち場を離れていませんでした。
部屋のドアも窓も、すべて閉まったままでした。
それに、魔法博士は電話をかけていた真っ最中だったのですから、ここへ来られるはずがありません。
何か不思議な魔法でも使ったのでしょうか。
博士の体が二つに分かれて、空気のような目に見えない透明な姿になって、この部屋に忍び込んだのでしょうか。

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